第52話 別の理
(さて……やるか……)
ユキは一人きりの研究室で、こっそりドキドキしながら、荷車を引いてみる。
車輪がクルクルと回り、荷車がギコギコと音を立てる。
「…………う、うん」
(…………軽く…………なった……かな……?)
ユキはもう一度、引いてみる。
(…………いや、あんまりなってないかもしれぬ)
工作やプログラミングかなにかで、改善を試みた後の実証で、なんとなく改善したような気がしてしまうアレである。
「うーむ……」
ユキは少しへこみつつ考える。
(……単純に出力が足りないのかもなぁ)
ということで、ユキは思い切って出力を上げてみる。
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power = 0.7 // 威力
↓
power = 5 // 威力
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(お……、素でも威力=5くらいにはできるぞ)
ユキの魔道具改変には、限界があった。
シンプルに言えば、威力=9999のようにはできないのだ。
魔道具改変の限界値を上げる方法として、出力の〝見栄え〟をよくするという方法がある。
要するに弾の出方を美しくすることで、なぜか普段よりも高い数値を設定することができるのだ。
しかし、冷蔵庫開発などの経験からか、ユキ自体の限界値が上がっていた。
今回は、特にそういった見栄えの調整をしなくてもpower(威力) = 5までは設定することができたのだ。
(エネルギー切れは早いかもしれないが、ひとまずやってみるかな……)
ユキは早速、検証をしようとする。
「……」
(……でも大丈夫かな)
が、少し心配事もあった。
(風って実はエネルギー効率が悪いんだよな……。きっと……)
ユキは考える。
(もし風のエネルギー効率がよかったら、前世においても、こういう装置があったはずなんだよ……。浮力を使って荷重を下げるっていう装置が。でも、前世ではそういう装置がなかった。それってつまり風で軽くするのに使うエネルギーがあったら、エンジンでタイヤを力強く回すことに使った方がいいって話なんだろうなぁ……)
ユキはふわっとそんなことを考えるが、実際にそうであった。
風で揚力を得るには大量のエネルギーが必要であり、更に……、
(音がやばそうだ……)
大きな揚力を得るためには、非常に大きい音が鳴る。
「…………」
ユキは先行きが不安になってくる。
(ただ、まぁ、全く勝算がないわけでもない。まずはやってみるしかないか……)
そうして、ユキは出力を上げた装置で、再度、実験してみることにする。
装置を起動する。
「…………うん」
ユキは一つ、良い方向で驚く。
(現時点では、そこまでうるさくはないな……)
今のところ、ほとんど音はしなかった。
(逆にこれ、効果としては大丈夫なのだろうか……)
そんなことを思いながら、恐る恐る荷車を引いてみる。
(あ……)
ユキは再び、良い方向の感覚を得る。
(軽く…………なった……気がする)
今度は、気のせいではなく、確かに軽くなった感じがしていた。
(……これだけの重量ではある。されど、これだけの重量では確かな効果を感じる。風の音も思ったより大きくないな。…………やっぱり、ひょっとして……)
ユキは少しだけ希望が湧いてきた。
(この世界の風魔法は、前世における風とは少し異なる理が存在しているのかもしれないな。だとしたら……できるかもしれない。風力を使った荷車〝フロートキャリー〟が……)
そんなことを思いつつ、荷車を引いていると……、
「あ……」
ユキはやはりかと思う。
魔道具からの出力が停止していた。
(やっぱり風力を使った荷車でも課題になるよな……)
それは冷蔵庫を作った時にもぶち当たった壁。
継続時間の問題である。
(……とはいえ、冷蔵庫作りで得たいくつかの方策がある。まずはチューニングしてみよう)
実はこういう地味な改善が嫌いではないユキのテンションが上がってくる。




