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第50話 荷重を軽くする

(…………申し訳ないけど、攻撃魔法を出力し続けるのは、体感的にはやっぱり厳しいと思うなぁ……。ただ、馬車に魔道具を使うか……。うーん……)


「……!」


(…………あれなら、ひょっとしたらいけるかな……)


 ユキは一つの案を思いついた。


「あの……アイシャ様」


「お、どうしたのだ? ユキ」


「確認なのですが、今回の件、ウッマの馬車の運搬速度がもう少しだけ速くなれば、課題を解決することができますかね?」


「……! う、うむ。そうだな。その通りで、荷重大の状態でもウッマが魔物に追いつかれない程の速度を担保できれば、話は早い……。…………! ま、まさか……!」


 アイシャはハッとする。


「馬車を引くウッマの数を増やせばいいということか?」


(へ……?)


 アイシャはユキが考えていた案とは別の案を出す。


(…………ん? でも確かに、馬車を引くウッマの数、増やせるならそれでよくないか?)


 考えていなかったが、アイシャが言った単純な案ができるのであれば、それでいいのではないかとユキは思い始める。


(問題解決というと難しく考えたり、スケールの大きいことを考えがちだけど、その実、可能な限り、簡単でシンプルな案の方が優れているんだ)


 そんな風に思っていた。


 しかし、


「それができれば良いのだが、問題がある。ウッマは自尊心が高い生物でな」


(お……?)


「同種で協力し合うことを嫌うのだ」


「そうなのですね……」


「ユキ、目から(うろこ)のそもそも論案、大変ありがたい。しかし、その案は難しいかもしれない……」


 アイシャは肩を落とす。


「あ、えーと、アイシャ様……?」


「ん……?」


「実は、自分が考えた案はそれじゃないんです」


「え……?」



「荷重の方を軽くしてやればいいと思ったんですよ」



「「「…………?」」」


 ユキの発言に三人は首を傾げる。


「あ、ごめん、ユキくん、荷重を軽くしたら、運べる量が減ってしまって、何度も運搬する必要があって、今の問題が起きてる話だったよな?」


 オーエスが意見を否定することに対して、少し申し訳なさそうにユキに尋ねる。


「あ、こっちこそごめん。説明不足だった。運搬する量を増やした上で、荷重を軽くすることができるんじゃないかと思って……」


「……ユキくーん、もしかして、運んでいる間に食べて、質量を減らそうってことじゃないよねー」


 ソレハが冗談めいた口調で言う。


「ユキくんがそんなアホな意見言うわけないだろ?」


 オーエスが怖い顔でマジレスする。


「冗談だよー!」


(ははは……)


 ユキは苦笑いしつつ、


「えーと、そのですね……〝浮力〟を使えばいいんじゃないかって」


「「「……! ……浮力!」」」


 三人が口をぽっかりと開ける同じ顔で驚いていた。


 ユキは図示をして、三人に自分の考えの概要を伝えることにする。


 浮力を得る手段の基本は下方向に力を加えて揚力(ようりょく)を得ることである。


「例えばですが、馬車の荷台の下部に、風の噴射装置をつけます」


「「「おぉー」」」


 浮力があれば、なんとなく荷重が軽くなり、ウッマの速度が向上するように思えるが、ユキはそれを物理的に説明をする。


 ユキはプログラマーではあり、専門ではないが、物理は比較的得意な科目であった。


 通常、重い荷物を引くときには以下の力に逆らってエネルギーを使う。


 重力による垂直荷重(=荷物の重さ)

 地面との摩擦力(=重さ × 摩擦係数)


 つまり、重いほど 地面との摩擦が増えて、引くのが大変になる。


 たとえば荷物に一部でも浮力をかけたとします。


 重力が100kgぶん働いていたところを

 風力で〝20kgぶんの浮力〟を加えたら、 地面にかかる実効荷重は80kgとなる。


 ここで、もう一度、摩擦について考えてみる。

 地面との摩擦は「接地している重さ × 摩擦係数」で決まる。

 接地している重さが減れば、摩擦力=抵抗力も減る。


 よって、引っ張るために必要な力や魔力・エネルギーが軽くなるという理屈である。


「な、なるほど……! つまりユキくんの魔道具で風魔法を使って浮力を生み出すということだよな?」


 オーエスが興奮気味に確認してくる。


「……そうです」


「やったー! これで食糧問題は解決だー!」


 ソレハも万歳する。


(……まぁ、理屈はそうなんですけど、きっとそんな簡単な話じゃないんだよなぁ)


 と、思っていると、


「二人ともはしゃぐのは早いぞ。理屈はシンプルでも、実装することはそんなに容易いことではない」


(……! ……アイシャ様)


 アイシャがオーエスとソレハをたしなめてくれる。


「しかし……それでも一歩前進だ」


(……!)


 たしなめているアイシャ自身も、どこか興奮を抑えきれていない様子であった。


「ユキ、まずはこの案で開発を進めていこう!」


「……わかりました」


(……まぁ、そりゃそうだよな……実際、俺だって楽しみだ)



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