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第5話 芝刈り機

 15分後――。


「お、おはよう……ユキ」


「おう!」


「それじゃあ、作業を再開しようか」


「イント、その前に……」


「ん……?」


「これを使おう!」


 ユキは魔法補助具をイントに見せる。


「ん? 魔法補助具?」


 イントは怪訝そうな顔をする。

 イントはユキが魔生成不可者であることは知っている。

 差別をするようなタイプではないが、魔法補助具を芝刈りに使うと言われてもピンと来ないのであろう。


「それをどうやって使うんだ?」


「あぁ、見ててくれ」


 ユキは魔法補助具を地面に向け、芝生に宛がう。


 そして……、


「……実行(エグゼ)


 次の瞬間であった。


 杖の先端からは大きめの風弾が発生する。

 風玉は杖の先端部分を維持するように回転する。


「おっ……!」


 イントは先程の怪訝そうな顔から、期待に満ちた顔に変わっている。


「さて……」


 ユキは魔法補助具を芝が生えた地面に宛がいながら進んでいく。


 すると、風弾が通過した箇所の芝生は綺麗に刈り取られていく。


 数分後――、


 全ての芝が綺麗に刈り取られた。


「うぉおおお、すげえな! ユキ! お前、そんな魔法補助具持ってたんだな!」


「あぁ、ありがとう」


 ユキは自分の魔法補助具がイントに褒められて素直に嬉しかった。


 ユキは魔法補助具の魔法論理(マジック・ロジック)の改変をして簡易的な〝芝刈り機〟を作ったのである。


 仕組みは結構簡単である。


 まず普通に光弾を放つ魔法補助具を用意する。

 そして、【メイン属性=風】と【サブ属性=刃】を設定する。


 さらに、弾の初期化処理で、【弾の初期位置=(デバイス)の先端位置】に設定する。 

 そして弾の更新処理にて、【弾の位置=杖の先端位置】に更新し続ければ、ずっと杖の先端位置に固定できるというわけだ。


 こうすることで、魔法が杖の先端位置に風の刃が出続けるようになる。


 たったこれだけで、誰でも使える便利な風刃魔法を用いた芝刈り機ができるというわけだ。


「ってか、ユキ! こんなの持ってるなら最初から出せよな! ん? でも、魔法補助具ってこんな便利な感じだったっけ? 簡単な魔法を放出するくらいしかできないと思ってたけど……」


 イントは不思議そうな顔をしている。


「はは……まぁ、時にはそういう魔法補助具もあるんじゃない?」


 ユキは魔法補助具の魔法論理(マジック・ロジック)の改変については、特にイントに説明はしていなかった。

 隠しているとかそういうことではない。

 単純に用務員である二人が、そういう魔法の話を面と向かってする機会がないというだけだ。


 ユキは魔法論理(マジック・ロジック)の改変により、ある程度の自由度を持った魔法を魔法補助具により行うことができるようになった。


 であれば、ユキの魔法補助具の魔法論理(マジック・ロジック)改変は万能であるか。


 極端な話……


 ////////////////////////////////////////////


 // 弾の初期化処理

 size = 10000000 // 大きさ

 power = 999999999 // 威力

 speed = 9999999999 // 速度

 acceleration = 530000 // 加速度


 ////////////////////////////////////////////


 のような改変を行うことができれば、むちゃくちゃ巨大で超高速で凄まじい破壊力の魔法を放つことができるだろう。


 だが、実際にはこれは不可能であった。


 ユキの魔法補助具の魔法論理(マジック・ロジック)改変には限度があった。


 〝ユキ自身が改変できるパラメータの限度〟だ。


 ユキが設定できるパラメータはたかが知れていた。


 大きさ(size)で言えば、10が限界であったし、威力(power)でいえば、3が限界だ。


 加えて、各パラメータの改変総量にも限界があった。

 例えば、大きさ(size)を限界の10まで上げれば、威力(power)は1より大きくすることはできなかった。


 ただ、これらの改変限界については訓練を繰り返すことで少しずつ拡張されていた。


 さらに、もう一つ、制約がある。

 それは改変には集中力と時間を必要とするということだ。


 ゆえに戦闘中に、魔法論理(マジック・ロジック)を改変して、状況に応じて臨機応変に対応するといったことは難しい。


 卓越した魔法使いは、自身の魔法を意のままに操ることができることを考えれば、これは大きな欠点と言えるだろう。

 とはいえ、ユキは魔法補助具を武力として使いたいとはあまり思っていなかったが。


 そんな制約条件もあったが、許容範囲の中で、一工夫してやれば便利な芝刈り機を作ることができるのだ。


「それにしてもユキ……こう暑いとやってられんな」


「そうだな」


 ユキとイントは芝刈りを終え…………〝次の芝刈り場〟へ向かっていた。


 ちょうど魔王城の端に差し掛かった時であった。

 城壁の外から人の声が聞こえてきた。


「恵んでくれぇええ……」


(ん……?)


 それは、物乞いであった。


「飯を……恵んでくれ……」


(……)


「ちょ……ユキ……!」


 ユキは自分の持っていた昼食の一部を城外へ投げる。


「あぁあ゛あああ゛ああ、ありがとうございますぅ」


(……)


「ユキ、行くぞ」


「あぁ……」


 そうしてユキとイントの二人は再び、次の芝刈り場へと歩みを進める。


「ユキ、こう言っちゃなんだが、あんなことをしてもキリはねえぞ」


「……そうかもな」


 ユキはふと考える。


 一見、煌びやかに見える魔王城とその城下町。

 しかし、実際には様々な問題を抱えている。


 昨今の暑すぎる夏により、食糧の保存がきかずに、食糧危機が発生している。


 幸いにして、ユキは平民とはいえ、魔王城に勤務しているため、食糧の確保に瀕するほどではない。


 しかし、働くことが困難な者はそうではないのが実情である。


「ユキよぉ、あいつらは働くための努力を怠ってきたんだ。こう言っちゃ悪いが、報いってやつだよ」


「……そうかな。じゃあ、生まれながらに努力が苦手な人はどうすればいい?」


「え……? 努力ってのは、それこそ努力次第で誰にでも……」


「……うーん、本当にそうかな」


 ユキも前世の学生時代はイントと同じように思っていた。


 だが、中年に近づき、物事を一歩引いた目線で見れるようになると、少し考え方が変わっていた。


 努力するにも才能的なものが必要なんじゃないかと。


(なまじ、努力ってのは辛いことが多いからタチが悪いよな……。辛い努力をしている人は、他者も同じくらい苦しめば、自分と同じレベルになれる、つまり辛いことを避ける人は怠惰であると思ってしまいがちなのだろう……。だけど、そもそも辛いことに耐えられること自体が才能な気もする。しかし、努力している人自体も辛いから努力が才能と断定することもはばかられ……)


「あぁ、なんという無限ループだ……」


「ユキ、急にどうした!?」


「いや、悪い……でもさ、現実もプログラミングみたいに理路整然としていたらいいのにな……」


「は? プログラミング? なんだそれ?」


「あ、すまん、なんでもない」


 ユキは頭を搔く。

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