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第48話 相手が悪い

「ユキ……ここは私に任せてくれないか?」


 そう言って、アイシャが一歩前に出る。


 その姿を見て、デス・リザードが美味しそうな獲物を発見したかのように舌舐めずりする。


 デス・リザード。

 それはユキがこれまで見た魔物の中で最も巨大であった。

 体長はゆうに10メートルを超えていた。


 その姿を見ながら、御者は呟くように言う。


「私達、御者を営む者からすると、出会ってしまったら最後、その日で職を失うことになる。なにせ命を失うのだからな……。業務を続けようがない。まさに死神ってやつだ」


(そ、そんなアメリカンジョークみたいな……)


 ユキはそんなことを思うが、御者は続ける。


「それにしても、相手が悪すぎる……」


(……! アイシャ様、大丈夫だろうか……)


 ユキがそう思った時であった。


「ジャァアアアアアアア!!」


 デス・リザードが咆哮を上げながら接近してくる。


 硬質な鱗に覆われた巨体で周囲の植物をなぎ倒し、地面が揺れる。


(やば……!)


 しかし……アイシャは微動だにせず、瞳だけが静かにデス・リザードを見据えていた。


 そして、


「〝静寂の極地に沈め〟」


 詠唱をするアイシャの声は、まるで氷点下の空気のように冷たく澄んでいた。


氷界(グレイシア・ドメイン)


 瞬間、大気が弾ける。

 空間そのものが白く染まったように、周囲を包む世界が変わった。


 草木は一息で霜に覆われ、風は凍てつき、音すら凍りついたような沈黙が支配する。


 デス・リザードは足を止めた。

 いや、止めざるを得なかった。

 その足元から、純白の氷が爆発的に広がっていく。

 皮膚の下から凍てつくような苦悶に、デス・リザードが咆哮を上げようとする……が、遅い。


 冷気の奔流(ほんりゅう)がデス・リザードを飲み込んでいく。


(っっ……)


 ユキは息をのむ。


 動きは止まり、音もない。

 そこに残ったのは、氷の彫刻と化したデス・リザードだけだった。

 わずかに伸ばされた爪。

 最後の一撃を振るおうとした名残。

 それは残酷なまでに彫刻に躍動感を与えていた。


 その様子を見ていた御者が呟く。


「デス・リザード……憎き商売敵ではあるが、流石に同情するよ……。運が悪すぎる」


(……ははっ……なるほど。御者さんが言ってた「相手が悪すぎる」ってそっちのことかよ……。これが…………アイシャ様が〝氷の魔女〟と呼ばれる所以(ゆえん)というわけか……。本当にとんでもない人だ……)


「ユキ……、無事か……!?」


 そんなアイシャ様は振り返り、心配そうに、ユキの方を見る。


「おかげ様で……」


「ほっ……それならよかった……」


 アイシャは先ほどまでとはまるで別人のように、本当に安心した表情を見せながら、少し寒いのか自分の肩をさすっていた。


 そうして、ユキとアイシャは再び、首都ウォタードへの帰途につくのであった。


 ◇


 翌日。研究開発室にて。


「と、まぁ、現場視察の報告はこんな感じだ」


「なるほどです。ご連携ありがとうございます」

「アイシャ様、ユキくん、お疲れ様でしたー」


 オーエスとソレハがアイシャの報告を受けた。


「恥ずかしながらー、そんな問題があるなんて、全然知らなかったですー」


 ソレハが眉を八の字にして言う。


「流通上の問題があることは知ってはいたのですが、今ではそれが御者のなり手の減少、はたまた農作物の減産にまでなりかけているところまで深刻化しているとは知りませんでしたな」


 オーエスは難しい顔をしている。


「うむ……。恥ずかしながら私もオーエスと同様だ。想像以上に事態は切迫していると言える」


 アイシャも深刻な顔で続ける。


「とはいえ、まぁ、現状の問題は把握できた。となれば、問題解決の方法を考える取っ掛かりはできたはずだ」


「そうですねー」


「うむ。それで、皆にもお願いだ。アイデアを考えてほしいのだ。もちろん私自身も考える」


「「「もちろんです」」」


 ユキ、オーエス、ソレハはそう答える。


(……問題は魔物によりウッマによる物資の運搬を邪魔されること。もちろん護衛にアイシャ様のような強い人がいれば、問題ないのだろうが、これは根本的な解決とは言えない。実現可能な根本的に解決する方策を考えなければ……だな)


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