第46話 ウッマ
「ユキ、結構、揺れるが大丈夫か?」
「えぇ、なんとか……」
ユキは現在、アイシャと共に馬車に揺られながら移動中である。
ユキは、冬の飢餓対策として、他の地域から首都に農作物を持ってくることはできないのか? と尋ねた。
すると、アイシャは百聞は一見に如かず、現場に行ってみよう! ということで、現在、二人で現場に向かっているというわけだ。
ユキは前世を含めて、馬車に乗ったのは初めてであり、その振動が想像以上に強いことで、ちょっと酔いそうだった。
ちなみにこの世界では、馬によく似た魔物〝ウッマ〟と呼ばれる生物を使うのが一般的なようだ。
ウッマは、いわゆる奇蹄目に似た生物で、蹄がある。
馬と比べ、やや肉食獣に近くオオカミのような顔立ちをした生物である。
(……どうやらこの国の主な移動手段はウッマによる運搬みたいだな……)
などと思いつつ……、
「うっぷ……」
(…………やっぱ、ちょっとしんどい)
「ユキ! 大丈夫か……!?」
(アイシャ様……心配してくれてる……)
アイシャはユキのことをすごく心配していた。
ゆえに……、
(ちょ、ちょっと……近い……)
アイシャは隣に座り、ユキに寄り添うように、背中を撫でてくれたりしていた。
(……)
実際、アイシャの手の平はなんだかちょっぴりヒンヤリしていて、気持ち悪さが少し和らいだ。
「……ち、ちなみにアイシャ様、目的地まではあとどれくらいですか?」
「え、えーと……3時間くらい……?」
「っっ……」
(……なかなか愉快な旅になりそうだ)
とユキが悟りをひらきそうになっていた時、
「イクリプス様」
馬車を操縦する御者が話しかけてくる。
「はい」
アイシャが返事をする。
「奴らが来ました、ハイエナリザードです」
「来たか……」
(……ハイエナリザード?)
ユキはちらっと馬車の外を見る。
(うわぁ……なんかいるよ……)
窓の外には、巨大なトカゲが数体見えた。
細長い体を持ち、皮膚は鱗で覆われている。長くしなやかな尾の先には殺傷性の高そうなトゲがある。
(嫌な予感がする……)
「えーと、すみませんが、休憩できそうにありません」
「……そうか……わかった。ユキ、すまないが、もう少し耐えてもらえるだろうか?」
「えぇ……大丈夫です……」
ユキは絶望スマイルをするのであった。
3時間後――。
「ユキ……ユキ……着いたぞ……」
(ん……? アイシャ様の声だ……。えーと……)
ユキはぐったりした状態から、ぱちりと目を開ける。
(…………ん? アイシャ様……?)
目を開けると、ユキの目の前にアイシャの顔が現れる。
(…………改めて見ると……)
「とんでもない美人だな……」
「へぇあっ!?」
アイシャ様の表情が恥ずかしいように、焦ったように歪む。
(ん……? ってか、えーと……)
次第にユキの意識もはっきりしてくる。
(………あー………これはやばいです)
◇
「申し訳ありませんでした……!」
ユキは深々と頭を下げる。
「い、いや……そんな……別に……ユキが謝るようなことじゃ……。無理をさせてしまったのは私だし……」
ユキは馬車の中で、ついにダウンしてしまったのだ。
その後、知らない間にアイシャに膝枕されながら、残りの道中を過ごしていたのであった。
そして、先ほど、アイシャに起こされ、先ほどの粗相。今に至る。
「いえ、本当に申し訳ございませんでした……!」
(アイシャ様が許してくれても世界が許してくれない。そんな気がする……)
「うん……、もう……大丈夫だから……ね?」
「……はい」
アイシャも逆に困っているようであったから、ユキはこれくらいにしておくことにした。
(…………世界よりアイシャ様の方が怖そうだしな)
「それで、えーと……ここが……」
「あぁ、ここは首都ウォタードから南のゴーディレという地域だ」
「…………ここが……」
アイシャがユキをゴーディレに連れてきた理由はわりとすぐにわかった。
ユキの目の前には、大きな畑が広がっていた。




