第45話 ビニールハウス?
「はいはいはいー、私にアイデアがありまーす!」
ソレハが元気に手を挙げる。
「ソレハ、是非、聞かせてくれないか?」
アイシャがソレハの方に耳を傾ける。
「はい! 冬は寒いですよねー?」
「うむ、冬は寒い」
「夏は暑かったですよねー?」
「うむ、夏は暑かった」
「暑かった対策が冷蔵庫による冷却ならー、寒い冬の対策は暖かくすればいいのですよー!」
「な、なるほど……具体的にはどういうことだ?」
「冷蔵庫の逆でー、冬でも農作物を育てられる暖かい部屋を用意すればいいのですー! ユキくんの魔道具の炎魔法か何かの熱でお部屋を暖かくしてー」
「なるほど……」
(つまるところビニールハウス的なものか……)
「ソレハ……それは良きアイデアだと思う」
「ですよねー! ですよねー! 単純な発想ですよー!」
「確かにシンプルなアイデアで興味深い。ただ、いくつか気になるところもあるのも事実だ」
(……だよな)
「はいー?」
「まず純粋に、その方法で、飢餓を解決する程の量の生産が可能なのかどうかが焦点になってくると思う」
(やはりそこだよな……)
「その方法をひとまず温暖農法と呼ぶことにしよう。温暖農法は冷蔵庫と比較しても、かなりスケールの大きい話になるんじゃないかな? 単純に保存することが目的の冷蔵庫は収納する物自体の体積を圧縮することができる。しかし、作物を育てることが目的となるとかなり難しいのではないか?」
「た、確かにー」
「それに作物は太陽光が必要であろう? 外壁には光を通す素材が必要だ」
「はい……」
(……この世界にはビニールの原料となるプラスチックは存在しない。となると……)
「思いつくのは……ガラスかな」
(だよな……)
「しかし、知っての通り、ガラスは稀少で高級だ。そのガラスを大規模に準備するとなると……」
「うぇーん……、全然無理そうですよー」
「す、すまない。悪いアイデアではないと思うのだが……」
ソレハがしょんぼりしているので、ユキもフォローすることにする。
「そうですね。その方法はどちらかと言うと、冬に食べられない食物を育てて、付加価値をつけて売るっていう商売の手法にはもってこいだと思いますよ」
「ユキくんー……私、やるよ! 商売をー!」
目に炎の灯るソレハをオーエスが窘める。
「そうだな。だけど、ソレハ、今は飢餓問題の話だ」
「ぶー、そうなんだけど、オーエスに言われるとなんかむかつくー」
バトルが始まりそうなところにアイシャが口を挟む。
「実際のところ批判するのは簡単なんだ。ならば、ソレハ以上の意見があるかと言われると……。私を含め、何か代案を考えなければな……」
(……アイシャ様の言う通りだ。現状でいうと何もやらないよりはソレハさんの案をやった方が小さくとも何もやらないよりはマシということになるだろう。うーん…………代案かぁ……)
ユキもすぐには思いつかなかった。
そして、ふと思い出す。
「あ、そう言えば、アイシャ様、最初に〝現状把握から始めよう〟とおっしゃってましたよね?」
「あ、そうであった」
「あ、ごめんなさい。私が勢い勇んで意見を言ってしまったばかりにー」
「いやいや、そんなことはないぞ。だが、そうだな。改めて現状把握をしようじゃないか」
そう言うと、アイシャは地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
「これが我々の住む魔王国ソーンパレスの地図だ。えーと、ユキは知っているかな?」
(……うむ、中学の授業で習ったから流石に知ってるぞ。なんかどこかで見たことがあるような形のような気がしなくもないんだよな……。それはそれとして、知っているのは首都の場所くらいだ……)
「……首都の場所くらいしか」
「なるほど。そうだな、首都はここ、ウォタード」
アイシャは地図で、ソーンパレスの中央からやや東側を指差す。
「魔王城があるウォタードに多くの人口が集まっている。そのせいで不作になると、飢饉に陥る脆弱性が我が国にはある」
「そうなのですね……」
(ん……? それじゃあ……)
「他の地域から首都に農作物を持ってくることはできないのでしょうか?」
「「……!」」
ユキの素朴な疑問に、オーエスとソレハは微妙な顔をする。
そして、アイシャが答える。
「まぁ、そう思うだろうな……」
(……これは何か事情があるのかな?)
「百聞は一見に如かずと言うし、ユキ、一緒に現場視察に行こうじゃないか!」
(え……?)
「あ、はい……」
こうしてユキは現場視察へ向かうことになった。