第44話 稀少なもの
飢餓対策委員会に出席したユキとアイシャは研究開発室を訪れていた。
「あ、アイシャ様ー、ユキくんー、お疲れ様ー」
研究開発室につくと、女子生徒が迎えてくれる。ややパーマの掛かったボブスタイル、整った顔立ちではあるのだが、半眼気味でどうにも眠そうな顔をした女子生徒だ。
彼女の名前はソレハ・ショーデスといい、研究開発室のメンバーだ。
「やぁ、ソレハ、調子はどうだい?」
「上々ですねー」
「それはよかった。オーエスは?」
とアイシャが聞きかけた時、
「あ、どうもです」
ちょうど部屋に入ってくる男子生徒がいた。
明るい髪のくせっ毛なのだが、少々、疲れたような、やつれた雰囲気のある人物だ。
彼は、オーエス・フリー。研究開発室のメンバーにして、ユキのクラスメイトでもある。
「オーエスは今来たのかな?」
「そうです。あ、猛暑対策委員会、お疲れ様です、アイシャ様」
「いやいや、大したことじゃないよ。それと猛暑対策委員会は今後、飢餓対策委員会と呼ばれるようだ」
「お、そうなのですね。まぁ、確かにもう夏も終わりですしね。いずれにしてもお疲れ様です」
「あ、そうだ。二人にも伝えないとな。冷蔵庫について、来夏に向けて、施設の準備を進めていくことが決まったぞ」
「「えっ……!?」」
それを聞き、ソレハとオーエスはぽっかりと口を開けて驚く。
「ほ、本当ですか? アイシャ様……」
オーエスは再度の確認をする。
「本当だ」
「うぉおおおおお! やったぞー!!」「わーいー、わーいー」
オーエスとソレハは大はしゃぎする。
「二人ともはしゃぎ過ぎだぞ?」
「だって、アイシャ様、初めてじゃないですかー! もっと喜びましょーよー」
「う、うむ……」
それは研究開発室にとって、初めて成果が認められた事例であったのだ。
アイシャはちょっぴり恥ずかしそうにしていた。
と、
「ユキくん……!」
「はいっ……!」
ユキは突然、オーエスに名前を呼ばれて、ちょっと驚く。
「ユキくん、これは間違いなく、君が来たおかげだよ!」
「そうだねー、ユキくんのおかげだよー」
「……そんなことないですよ。皆さんが断熱材を準備してくれなかったら成しえなかったことです」
「ユキ、そう言ってくれるのは嬉しいが、コアな部分は間違いなく君の成果だ。もっと誇ってくれ」
アイシャにそんなことを言われ、ユキはふと思う。
(……白状する。俺はただ自分が楽しんでいただけだ。冷蔵庫作りが楽しかった。だけど、そうやって出た成果を……こんな風に、称賛してもらえるなんて…………前世ではなかったな)
「わかりました。……ありがとうございます」
ユキがそう返事をすると、
「うむ!」
と、アイシャが微笑む。
「「っ…………!?」」
と、なぜか絶句するオーエスとソレハ……。
「ど、どうしたのだ……?」
「アイシャ様が……」
「…………わ、笑った……!?」
二人はアイシャが微笑んだことに、絶句していたのだ。
「お、大袈裟な……、わ、私だって、わ、笑うくらいする……!」
アイシャはなぜかすごく動揺していた。
(…………確かに、多くはないけど笑うこともあったけどな……)
と、それが極めて稀少であることを知らずに、そんなことを思うユキ。
「ユキくん、これはすごいことだ! アイシャ様がなんで氷の魔女なんて呼ばれてるか知ってるか?」
「え? 氷属性の魔法が得意だからでは?」
(……寒がりだけど)
「もちろんそれもあるけど、いつもクールで、決して笑わないからなんだよ!」
(え……? まじ?)
「アイシャ様の笑顔を見られたなんて……下手したら冷蔵庫よりすごいぞ!」
「そんなわけないだろ!」
オーエスの言葉にアイシャはちょっと憤慨するのであった。
◇
「でだ。脱線してしまったが、今から、ユキと冬に向けた飢餓対策の話をしようと思っていたのだ」
「なるほどです。では僕も聞かせてもらってもいいですか?」
「私もー」
「あぁ、もちろん構わない。それでは、まずは現状把握から始めようと思う」
アイシャは続ける。
「そもそも近年、夏の猛暑による不作傾向が出てきており、今年は特にひどかった。来年以降もその傾向は続く可能性は高いが、一旦、それは置いておこう。猛暑による不作は冬に向けた備蓄を困難として、そのまま冬の飢餓問題に直結するというわけだ」
(……そうか。夏が終わればそれでいいってわけじゃないんだな……)
と、
「はいはいはいー、私にアイデアがありまーす!」
ソレハが元気に手を挙げる。




