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第34話 野外演習

 2週間後――。


 山岳地帯、入口付近の広場にて――。


「えぇ~~、これより魔法学ぅ……前期日程の野外演習を始めるぅ」


 魔法学のおじいちゃん教師が一年一組の生徒たちの前に立ち、しゃがれた声を振り絞る。


(あぁ……憂鬱だ……)


 その日、ユキは憂鬱であった。


 なぜなら、その日は一日丸々使った魔法学の〝野外演習〟の日であったからだ。


 この日はユキが所属する一年一組にとって、初めての野外演習である。

 野外〝演習〟といいつつ、実質的には前期日程の試験であり、その活躍の大小により、成績がつけられるのだ。

 これまでの魔法学の授業はある意味、この野外演習のために行われてきたわけで、ある意味、最初の集大成といえる。


「えぇ~~、ではぁ、これから本日の野外演習のレギュレーションを説明するぅ」


 おじいちゃん教師は声を振り絞り、一生懸命にレギュレーションを説明する。


「今日の演習は3人1組になってのぉ、イッカク・ファング5体の討伐であるぅ」


 教師によると……


 =================================================

【第一回 前期野外演習レギュレーション】

 ①3人1組のグループとなる

 ②制限時間は演習開始から3時間

 ③1チームにつきイッカク・ファング5体の討伐で及第点

 ┗5体の内訳のうちチームメンバー1名につき最低1体は討伐する

 (攻撃魔法が専門外で事前に申請している者は対象外となる)

 ④チームを離れて単独行動をしてはいけない

 =================================================


(イッカク・ファングか……確か……)


 ユキは魔生物の教科書でちらっと見たような記憶があった。


 =================================================

【イッカク・ファング】

 イノシシのような見た目で額には、特徴である一本の角が生えている。

 食欲旺盛で、山岳地帯から農耕地域に降りてきて、農作物を食い荒らす。繁殖力が非常に高い。

 知能は低く、魔法を行使してくるようなことはないが、配下にすることも不可能。

 また、イッカク・ファングの肉は特別、美味というわけではないが、食肉とできる。

 =================================================


「奴らは人里に降りてきてはぁ、農作物を食い荒らす。今回の演習は、昨今の飢饉の状況を鑑みての駆除も兼ねているぅ」


(なるほど……きっとビギナーにはちょうどいい魔物ってことなんだろうな……いや、しかし……大丈夫だろうか……)


 ユキはそれなりに緊張していた。


 実際のところ、ユキはこれまで一度も魔物討伐などというものはしたことがなかった。


 前世でもそうだっただろう。

 人間の生活圏内に、敵対的な野生動物なんてほとんどいなかった。

 それと同じで、普通に生活していれば、凶暴な魔物にでくわすことなんてない。


「皆、承知していると思うが、山岳地帯にはゴブリンなどの魔物もいるぅ。ゴブリンは基本的にこちらから攻撃しない限り、襲ってくることはないだろうが、注意することだぁ。また、演習中、数年に何人かは死亡者または重症者が発生しているから用心するようにぃ」


(さらっとすごいこと言うな……)


 どうやらこの世界では、前世とは死生観が少し違うようだ。

 と言っても、前世のユキが過ごした時代がそうであっただけで、戦時中などはまた違った死生観があり、一概に前世と異なるとも言い難かった。


(……それで、肝心の組分けってどうなるのだろう……)


 と、ユキが思ったのが、聞こえたのかというようなタイミングでおじいちゃん教師が言う。


「組分けについてはぁ、こちらで無作為に決めさせてもらったぁ。これから組み分け表を配るのでぇ、確認の上ぇ、各自、集まってくれたまえぇ」


 ……ということであった。


 そうして、30名の生徒、一人一人に組み分け表が配られる。


(…………えーと)


 ユキも組み分け表を確認する。


(あ、あったか……えーと、俺はチーム9で、メンバーは……)


 =================================================

【第一回 前期野外演習 一年一組の組み合わせ】


 ・・・


 ◆チーム9

 ユキ・リバイス

 オーエス・フリー

 ルビィ・ピアソン


 ・・・


 =================================================


(お、おぉおお…………おぉ……)


 ユキにとって、安心と不安が同時に訪れるメンバー構成であった。


 とりあえずオーエスと同じチームなのは朗報……安心要素であった。


「おー、ユキくん、同じチームだな。よろしく頼む」


 元から近くにいたオーエスが早速、話しかけてくる。


「あ、うん。よろしく」


(ってか、この組み分け…………ほとんど席が近い奴らになってるじゃないか……あのおじいちゃん教師、座席表に適当に丸つけて、グループ分けしたな……)


 などと思っていると……、


「……よろしく」


 横から女子生徒の声がした。


 赤みがかったセミロングの髪、気の強そうな吊り目がちの女子が、仕方なしというように、必要最低限の挨拶をする。

 ルビィ・ピアソンだ。

 ユキにとってそれは、わりと初めて声を聞いたというレベルであった。


(……でも向こうから来たということは……)


 少なくともユキかオーエスのどっちかは顔と名前が一致しているということがわかった。


「よろしく頼みますぜ、ルビィ嬢」


(……! え、オーエス、その呼び方、本人にするのか?)


「……その呼び方はやめて」


 ルビィはかなり嫌そうな顔をする。


(おいおい、オーエス、初手からぶっこむなよ……)


 ユキは心の中で、オーエスに対して、結構、呆れる。


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