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第28話 予算アップ

 昼休み――。


 ユキはクラスの端っこで一人、昼食を食べていた。

 なぜクラスの端っこかというと、元々、彼の座席が窓際の一番後ろ……要するにクラスの端っこの席だからだ。


 しばらくするとオーエスがクラスに帰ってきたので、一緒に昼食を食べた…………というか食べていたのはユキだけだった。

 オーエスは昼食を食べないらしい。

 そんなんだから、少しやつれた感じになるのでは……? とユキは思ったが、口に出すのはやめておいた。


 その後、オーエスがいない間に、アイシャ様が来ていたことを話すと、オーエスはかなり驚いていた。

 今まで、アイシャがクラスに足を運んだことはなかったそうだ。

 オーエスもいたから、それは少し意外であった。


 昼食を食べている間、周囲では、自分の話がされているような気はした。

 別に聞き耳を立てていたわけではないが、多少、耳には入ってくる。


 話の内容は、だいたい

「あの子は一体、誰なのか?」というそもそもの話、

「アイシャとどういう関係なのか?」というアイシャとの関係性の話、

「あの子自体が別にすごいわけではないのでは?」という冷静な話、

 の三つに大別されている感じがした。


 ユキも三つ目に関しては、まさにごもっともという感じがしていた。

 仮にアイシャの知り合いであることがすごいことであったとしても、自身が補助具なしでは魔法を発動できない〝魔生成不可者〟であるという事実に変化はないのだから。


 そんなことを思いつつも、その後の午後の授業は、ひとまずは大きな問題なく過ごすことができた。


 ◇


 放課後――。


 学活が終わり、生徒たちはカリキュラムから解放される。


 と……、


「リバイスくん、部活とか決めてるの?」


 早速、快活そうな男子生徒が声をかけてくる。


 アイシャとのコネクション目的……であるかないかは定かではない。


 だが、それがあったとしても、なかったとしても大きな違いはなかった。


「あー、悪いな。ユキくんはすでに決まってる」


「ん? ひょっとして、オーエスのところ? お前が何やってるのか知らんけど」


「そうそう。だから、諦めるこった」


「ちぇっ、先を越されたか。わーかったよ」


 そう言って、快活そうな男子生徒は、さっさと諦めて去っていく。


「よし、それじゃあ、ユキ、行こうか」


「あ、はい……」


 ◇


 研究開発室――。


「おぉー、ユキくん、来たか来たか、編入おめでとうー!」


 研究開発室に行くと、ややパーマの掛かったボブスタイル、整った顔立ちではあるのだが、半眼気味でどうにも眠そうな顔をした女子学生が早速、祝福してくれる。

 すでに来ていた研究開発室のメンバーの一人、ソレハ・ショーデスだ。


「ありがとうございます…………って、え……?」


 ユキは来てそうそうに驚く。


 なんと大型の冷蔵庫らしきものが、追加で三台並んでいたし、魔法補助具らしき杖も大量に積み上げられていた。


「ふっふっふっ……君のおかげで予算アップだよー」


 ソレハは微笑みながら、なぜか少々、自慢げにそんなことを言う。


「これで並列で複数の検証が可能になるねー」


「はい……」


 静かに返事をしたが、内心、ユキは今日一でテンションが上がる。


(確かにこれは助かる……冷蔵庫の性質上、長時間稼働の方の検証は時間がかかる。並列で実施できれば所要時間の短縮につながるし、複数の試作品の比較検証なんかもやりやすい)


「ちなみにアイシャ様によるとー、外側の装置と魔道具の他に、別のアプローチからも性能改善を目指せないか模索中とのことだよー」


 と言うソレハの言葉に……、


「なるほど……」


 と答えつつ、ユキは一つ、疑問を持つ。


「あの……魔道具ってなんですか?」


 おそらく文脈から魔法補助具のことであろうが、魔道具という言葉は聞いたことがなかった。


「あー、アイシャ様がねー……今度からユキが改良した魔法補助具のことは〝魔道具〟と呼ぶ……だそうですー」


「え……? どういう?」


 と、ユキがソレハに疑問を投げかけると……、


「もはやこれは魔法を補助する道具などではない。魔法を駆使した革新的な道具である! ゆえに、これは魔法補助具にあらず。〝魔道具〟である!」


「っ……!」


 研究開発室の入口付近から透明感のある、それでいて、はっきりとした声が聞こえてくる。


「あ、アイシャ様」


 それはアイシャであった。


「うむ、ユキ、先ほどは急に訪問してすまなかった。迷惑でなかったかな?」


「え? …………えぇ」


(完全に迷惑でなかったかと言われると……ちょっと微妙ですが……)


「…………」


(でも……自分を気にかけて、来てくれたのは嬉しかったかな……)


「改めてユキ、研究開発室へようこそ……! これからぶいぶいと役に立つ発明をしていこうじゃないか!」


「……はい」


 学業は少々、億劫であるユキであったが、研究開発室での開発については明確に楽しみであった。

 それはまるで前世でプログラミングをしていた時のような……自分が自分でいられるような感覚があったからだ。


 ……


(……さて、早速、冷蔵庫の改良に着手するか)


 ユキの改めての入室挨拶を終えると、アイシャは忙しそうにどこかへ去っていった。


 なぜかソレハとオーエスも用があるからと、どこかへ行ってしまった。

 ソレハかオーエスに、アイシャが一体、何者なのかをちょっと聞こうかと思っていたのだが、結局、できず終いになってしまった。

 ついでに、初日から一人になってしまい、ちょっとだけ寂しく思いつつ、ユキは早速、アイシャの要望でもある冷蔵庫の改良に着手する。


 最新版の設定は、氷属性の冷気が回転するように渦を巻くように、出力するようにしたところまでであった。


 まず、そこに改良を加え、氷属性が一周したら、風属性に変わり、風属性が一周したら氷属性に変わるといった具合に、一周ごとに氷と風が交互に入れ替わるように変更した。


 しかし、この氷風交互作戦は、思う様な成果は得られなかった。

 〝見栄え〟が思ったより良くなかったようである。


(うーん、微妙かぁ……)


 ユキは天を仰ぐ。


(……なんかなー、スプリンクラーみたいな感じに出せたらいいのになぁー)


 ユキはふと、前世にあった散水機(スプリンクラー)のことを思い出す。

 装置を中心に3~4方向に対して、回転するように水を撒くものだ。


(スプリンクラーって、なんかついついぼーっと眺めちゃうんだよなー。でも……あれを真似するためには……今、知ってるパラメータだけじゃできない)


 スプリンクラーの水の動きを真似するには、ユキが今、解読できている初期値設定だけでは、実現できない点があった。


 それは〝複数同時発射〟である。


 スプリンクラーは3~4方向に対して、同時に水を放出している。

 だが、現在、ユキが解読できている範囲では、弾は等間隔で1つずつ出すような仕組みになっており、複数同時発射はできなかった。


(うーむ……ちょっと骨が折れるけど……少し、解析してみるか……)


 ユキは意を決して、魔法論理(マジック・ロジック)の解析に着手した。

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