第2話 魔法補助具の解体
ユキはまず杖を削ることにした。
工具を使って、少しずつ木の素材を削っていく。
解体ができないように、なんらかの仕掛けがあるかもしれないと懸念していたが、幸い、特にそういったことはなかった。
ゆっくりと時間を掛けて削っていく。すると……、
「お……?」
杖の内部から木製ではない球体の物体が出てきた。
(……なんだこれ?)
球体は表面はつるつるしており、つやつやした紫色をしていた。
(ひょっとしてこれが魔法を放出する役割を担っているのだろうか……いや、その可能性が高いよな……)
「……」
ユキは更に、球体の分解にも挑戦する。
球体はとてつもなく堅い…………わけでもなく、なんとかこじ開けることに成功する。
「どれどれ……」
球体の中には、物体が二つ格納されていた。
一つ目は球体の中央になるように格納されたこれまた球体の物体であり、比較的小型であった。
二つ目はやや大型の直方体の紙のような素材の物体であった。
また、その二つは導線のようなもので、接続されていた。
「この仕組み……」
その二つの物体を見て、ユキは直感的に前世の知識のなかから似ているものがあると感じる。
(…………コンピュータに似ている)
中央の球体と脇の紙のような素材の関係が、ちょうどコンピュータにおけるCPUとメモリ(記憶装置)の関係に似ていると感じたのであった。
=================================================
中央の球体 ← CPUの役割?
脇の紙 ← メモリ(記憶装置)の役割?
=================================================
ユキがそう感じたのは、前世でプログラマーというコンピュータに深い関わりをもった職業をしていたこともあるかもしれない。
コンピュータというとディスプレイ、キーボード、マウスのセットを連想するかもしれないが、前世において、実はコンピュータとはあらゆるデバイスに利用されていた。
例えば、家電であったり、あるいは玩具であったり……。
それらにはマイコン(マイクロコンピュータ)と呼ばれるCPUとメモリをセットにした小さなチップが埋め込まれており、専用のプログラムが組み込まれているのだ。
「仮にそうだとして……CPUは魔法を出力するための装置だとしたら、メモリには一体、何が……?」
(……!)
ユキは魔法学で習った魔法についての基礎知識を思い出す。
=================================================
魔法とは……ものすごくざっくり言うと、
体内で生成される魔素を集約し、具現化。
脳内で属性や動きや作用(魔法論理と呼ばれる)を組み上げて……放つ。
というものである。
=================================================
「……〝魔法論理〟」
ユキは、メモリの中に、魔法論理が書き込まれているのではないかという仮説にいきつく。
それに気づいた瞬間、ユキは全身に鳥肌が立つのを感じた。
(……よし)
ユキは興奮で震える手をなんとか抑えながら、更に、メモリ(記憶装置)の解体に着手する。
……
が……、
「だめだ、さっぱり分からん」
ユキは両手を万歳するように上げる。
正にお手上げである。
メモリ(記憶装置)の解体自体はできた。
しかし、前世におけるメモリ(記憶装置)も解体したところで、その中に、どのような処理が刻まれているのかなんて、普通の人間には、到底、解析することはできないのだ。
「それこそパソコンが必要だよなー」
パソコンとは、ディスプレイとキーボードとマウスのあれである。
厳密な定義は異なるのだが、一旦、それは置いておこう。
家電などに組み込まれているマイコン(マイクロコンピュータ)は、USBなどを用いて、パソコンと接続することができるものがある。
すると、パソコンの中で、マイコンの内部のメモリに記憶された処理を読み込むことができ、場合によってはプログラムを編集することができるのだ。
「でも、パソコンなんてないしなー……仮にパソコンに代わるものがあるとしたらなんだろう……」
(……見当もつかんな。そもそも魔法論理ってのはあくまでも抽象的な概念であって、全然、具体性のないものだしなぁ……)
結局、そこでユキの魔法補助具の解析は行き詰ってしまう。
その後、ユキは解体することは一旦、諦める。
代わりに魔法補助具を用いた魔法訓練を行うようになった。
毎日、魔法補助具を用いて、魔法を放つというものだ。
自宅の近くにちょうど人が寄り付かない洞穴があったのは幸いであった。
体内にある魔素には限界があり、一日に訓練できる回数にも制限があった。
しかし、魔素は体力と似ていて、使うことで消耗し、身体を休めることで、少しずつ回復する。
よく食べてよく寝れば、翌朝にはフルチャージされる。
そして、少しずつではあるが、総量が増えていく。
しかし、何度繰り返しても、魔法補助具を使用した時の魔法の速度、大きさ、威力などが強化されることはなかった。
また、小遣いの範囲内ではあるが、複数の魔法補助具も試した。
学校から支給されているものは比較的、高位のものであるのか、自費購入した魔法補助具は全て、学校から支給されているものに比べて劣っていた。
ただ、どの魔法補助具も、どんなに訓練しても、速度、大きさ、威力などが強化されることはないという点は同じであった。
だが、強化されることがないという事実は、魔法補助具の中の球体に魔法論理が書き込まれているという仮説をより強くさせるものでもあった。
(魔法補助具の効果がいつも一定であるのは、良くも悪くも魔法論理に書かれているものを下回ることもないし、上回ることもない……ただただ、そのロジックを再現するだけなんじゃないか……)
ユキはその後も無駄であると思いつつも、何か取っ掛かりのようなものが掴めるかもしれないと魔法補助具による訓練を繰り返した。
ただ、しばらく続けていると訓練というよりは習慣となっており、毎日欠かさずに実施しないとなんだか落ち着かないようになっていた。
そうして、魔法補助具による訓練を初めて、二年ほどが過ぎたころ……、
ついに変化がおとずれる。