第19話 ハード
翌日――。
ユキは昨夜、アイシャに話した通り、朝から研究開発室へと足を運ぶ。
研究開発室は授業が行われている棟とは別の施設であり、授業中である午前中は学生の気配はない。
研究開発室に着いたユキは早速、昨日の作業の続きに着手する。
アイシャの魔力を込めた魔石を使用してみることだ。
「よし、稼働時間の検証だ」
(とりあえず高めの出力にして……と……)
ユキは冷却装置試作品の出力をかなり高めに設定する。
(……これでどれくらい稼働し続けられるか)
そして、装置を起動する。
ひとまず装置は想定通りに魔法を発動し、稼働を開始する。
あとは装置の様子を観察しながら、いつまで稼働を続けるのか、時計の針を眺めるだけだ。
……
しばらくして、魔法補助具が冷気を発しなくなる。
要するに燃料切れである。
だが……、
(……すごい)
ユキは結果に息をのむ。
記録にして、4時間26分。
昨日までの魔石では、同出力においての稼働時間は、せいぜい20分が限界であった。
約13倍の持続が可能となったわけだ。
かなりの光明が見えてきた。
しかし……、
(……これでもまだ冷蔵庫としては不十分か)
4時間26分ごとに魔石を交換または充填しなければならないなら、できないことはないかもしれないが、現実的にはまだまだ手間が大きい。
と……、
「え、なんか部屋涼しいねー」
(お……?)
研究開発室の入口付近から女性の声が聞こえた。
ややパーマの掛かったボブスタイル。整った顔立ちではあるのだが、半眼気味でどうにも眠そうな顔をした女子学生。
研究開発室のメンバーの一人、ソレハ・ショーデスだ。
授業が終わって研究開発室にやってきたようだ。
「あ、ソレハさん、おつかれさまです」
「おつかれさまー、ユキくんは今日は朝から作業してたのー?」
「そうなんです」
「どれどれー、成果の方はどんな感じかねー?」
「あ、はい……」
(昨日、アイシャ様にオーエスさんとソレハさんになら話していいって許可はもらってるしな……)
ユキはソレハに、魔法補助具と魔石による冷気魔法の自動化と、その出力と稼働時間の課題についてを説明した。
「………………え、マジかー……」
「はい……?」
「え、本当に自動冷却装置をユキが……? この数日でー……?」
「あ、はい……」
「マジか……流石にちょっと信じられないというか……自信失くしちゃうなー」
ソレハの反応は驚き、そして少しジェラシーを含んだものであった。
「いやはや、アイシャ様、ものすごい人材を連れてきたなー」
ソレハはそんなことを呟いている。
「ですが、まだ大容量、長時間というアイシャ様の要望には程遠く……」
「なるほどー……」
「はぁ……どうしたものかなぁ……」
ユキは溜息をつき、うな垂れる。
(せめてハード面をもう少しなんとかできればなぁ……でもハード面は正直、あまり得意ではないんだよなぁ……)
「うな垂れてるけど、こっちは結構、ショックだよー。こんなに短期間でここまでのものを作っちゃうなんてさー」
ソレハはそう言って、なにやら高さ15センチメートルくらいの自立する簡素なスチール素材の装置……その装置上部に括り付けられたバナナを一本手に取る。
(バナナ置き機……ちゃんと使ってるんだ……)
ユキはその様子を見て、不敬にもちょっと微笑ましいと思ってしまう。
と……、
(ん……? ちょっと待ってよ)
ふと、ユキはソレハの開発したその他の装置のことを思い出す。
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【ソレハの開発した装置】
手動扇風機……レバーを押すことで扇風機が周り、冷感を感じることができる。ぶっちゃけ氷魔法の方が涼しいのは内緒だ。
魔法瓶……断熱素材を用いた水筒で飲料水などをいれておくと、一定時間保温してくれる。現世にあった魔法瓶にちかいもので、これは普通に便利。
全自動卵割り機……レバーを回すことで、卵を割ることができる。手で割った方が早いような気もするが、ソレハ曰く、この装置で割った卵は思わず驚嘆してしまうほど、うまいらしい。
などなど……
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「あ……これだ……」
「っっ!?」
ユキが突然、呟くものだから、ソレハはびくっと肩を揺らして驚く。
「ソ、ソレハさん……それです」
「え? バナナ置き機のことー?」
「そ、それじゃなくて、ソレハさんが開発してる装置の代表格の……」
「え? 全自動卵割り機のことー?」
「それが代表格だったんですか。それも……えーと、あの素晴らしいのですが、そうじゃなくて……魔法……魔法瓶です」
「なるほどー……!」
「でかい魔法瓶の中で、この冷却装置を作動させられれば……」
「おぉおおおおおお!!」
ソレハはぴんときたようで、小躍りする。




