第15話 カウンター
当日、昼過ぎ――。
ユキはむくりと起きる。
そして、その足は再び研究開発室へと向かうのであった。
……
「お、二日目も来るなんて偉いね」
研究開発室に着くと、すでに来ていたオーエスがユキに声をかける。
オーエス・フリーは明るい髪のくせっ毛なのだが、少々、疲れたような、やつれた雰囲気のある男子生徒だ。
「あ、はい……そうですかね……」
「オーエスからユキが昨晩は最後まで作業してたって聞いたけどー……」
さらには、もう一人の室員であるソレハもすでに研究開発室に来ていた。
ソレハ・ショーデスははややパーマの掛かったボブスタイル。整った顔立ちではあるのだが、半眼気味でどうにも眠そうな顔の女子生徒だ。
オーエスとソレハの二人は、二人とも少し目つきが悪いのだが、中身は悪い人ではなさそうというのが、昨日、一日を経てのユキの感想である。
「ユキ、それで昨日は何時まで作業してたのー?」
「あー、えーと、7時ですね……」
「なるほどー、7時かー、お疲れさーん」
ソレハはわりとあっさりとした反応であった。
なぜなら、夜の7時だと思っているから……。
(わりとあっさりとした反応だなぁ……まぁ、研究開発室なんてのは不夜城化するのが当たり前なのかな?)
「あ、そういえば、すみません。シャワーと歯ブラシ使わせてもらいました」
「あ、え? ああ、うんうん、いいよいいよー!」
ソレハは少し不思議そうな顔をしつつも、嫌な顔はしなかった。
夜の7時までの作業で、シャワーや歯ブラシを使うのを少々、不思議に思うのは当然だ。
いや、自宅のものを使えよと思うだろう。
しかし、平民であるユキはさぞかし生活も苦しいのだろう……と変に同情するソレハなのであった。
……
その後、ユキは冷却装置の開発作業を再開する。
昨夜……いや、今朝までに、魔法補助具を実行宣言なしに起動するところまでは成功した。
しかし、連続的に魔法が発動してしまい、魔力を一瞬で吸い取られてしまうという問題が生じていた。
(まずはなんとかして発動の間隔を制御できるようにならないとだな……)
ユキは改めて、昨日の修正内容を確認してみる。
【魔法実行処理】の前提条件となっている【実行チェック処理】を取っ払った。
この変更後の状態で、魔法補助具に手を触れると、次々に冷気が発せられ、ユキの魔力はぐんぐんと吸い込まれていったのであった。
無条件に発動としたことで、次々に発動条件を満たし、ユキの魔力を吸い、限度に達するまで魔法の発動が何度も繰り返されたのである。
(これに関していうと、修正のアイデアがある……きっとどこかにあのパラメータを持っているはずだ……)
ユキはこれまでの魔法論理の修正や、前世での趣味でのゲームプログラミングの知識から、恐らく存在しているであろうパラメータを探すことにする。
そのパラメータとは、〝カウンター〟である。
魔法の処理を記述する魔法論理の中には、カウンター(count)が存在している。
だから、きっとカウンターがあるはずだと、目星をつけたのである。
そして実際に……
(……あった……きっとこれだ……)
ユキはコードの中から現在のカウントを取得できそうなコードを発見する。
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world.count
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というコードだ。
(これを使えば……無条件に連続的に発生してしまった【魔法実行処理】を、きっと一定間隔で発動させることができるはずだ……)