第13話 魔法出力の基幹部分
(うーむ……)
その後、ユキは作業を続けていた。
(やりたいことは魔石から魔素を取り込んで、魔法補助具に埋め込まれた魔法論理を実行すること……理屈は単純なんだが……)
理屈は単純であっても、もちろんそんなことはしたことがなかった。
(ひとまずは……簡単なところから試していくか……)
ユキはとりあえず魔法補助具と魔石をくっつけてみる。
すると……、
「…………うん、何も起きないよね」
何も起きなかった。
(……どうしたものか)
作業は早くも暗礁に乗り上げる。
……
しばらく考えているうちに、ユキはふと思う。
魔法補助具を使うときに必ず行っていること。
それが「実行」の宣言である。
(そもそも実行の宣言なしに魔法補助具を使えないとどうしようもないのでは……?)
「実行の宣言なしに魔法補助具を使うなんて考えたこともなかったけど……」
(……少し、可能性を探ってみるか……)
ユキは魔法補助具に手を添えて、目を瞑る。
魔法補助具の魔法論理の改変を行う時はいつもこのように集中して、魔法論理を感じ取るのだ。
(…………まずはいつもの部分)
////////////////////////////////////////////
// 弾の初期化処理
time = 0 // 射出時間
interval = 0 // 射出間隔
angle = device.angle // 射出角度
position = device.position //射出位置
size = 2 // 大きさ
power = 0.5 // 威力
attribute = ICE // 属性=氷
speed = 0 // 速度
acceleration = 0 // 加速度
・・・
// 弾の更新処理
position = device.position //弾の位置
////////////////////////////////////////////
冷却装置の試作品の魔法論理である。
この部分が普段、ユキが読み取り、改変している箇所である。
この改変だけでも魔法の出力に関する改変が可能である。
だが……、
(……ここだけじゃダメだ……もっと基幹に関わる部分を読み取らなければ……)
ユキは今まであまり読み取ろうと思ったことがなかった、プログラムをコントロールする上位レイヤーまでを読み取ろうと試みる。
(うわっ、なんだこれ……!)
すると、想定外に膨大な量のコードがユキの頭の中に流れ込んでくる。
実のところ、ユキは過去にも魔法の出力に関する魔法論理の周辺に、もっとコードがあるのではないかと読み取ろうと試みたことがあった。
しかし、その時は、なかなかうまくいかなかったのである。
(ひょっとして、魔法出力の基幹に近いコードは、読み取りが難しくなっているのだろうか……。でも、俺の魔法論理を感じとる力も少しは成長しているはずなんだがなぁ……)
そんなことを考えながら、流れ込んできたコードの中から地道に、必要とするコードを探していく。
(……違う……ここじゃない……違う……このコードはどこから呼び出されているんだ? あるとしたら、もっと上位のコードにあるはずだ……)
「あぁ……、開発ツールがあればもっと簡単なんだけどな……」
前世では、プログラミングをするための開発ツールがあった。
開発ツールを用いれば、特定の処理を呼び出しているコードを一覧で表示したりすることができるのだ。
それにより、効率的にコード解析を行うことができる。
(うーん、いつか……そういう開発ツールの代替的なこともできるようになったらなぁ……)
しかし、ないものねだりをしても仕方がない。
ユキは地道な作業を続けていく、
そして、数時間後……、
「……ん?」
////////////////////////////////////////////
if(input.check_exe() == true){
//実行チェック
user.execute_magic() //魔法実行処理
}
////////////////////////////////////////////
(それっぽい……それっぽいぞ……)
実行チェックに部分は【もしも(if)、入力として、実行を検知したら】となっている。
そしてそれが満たされれば、魔法実行処理(user.execute_magic())を実行する。
(おぉ!)
ユキは少しテンションが上がる。
(つまり、この実行チェックを取っ払ってしまえば……)
「…………いやいや、待て、落ち着け」
ユキはすぐに取っ払ってしまいたい衝動を抑える。
無条件で魔法が発動するようになってしまったら、一体、何が起こるかわからない。
下手したら暴発して、自身の魔力を吸い取られ続けて、干からびてしまうかもしれない。
(魔法発動のために他の条件がないかも確認しておこう……ひとまずは魔法実行処理の中を覗いてみるか……)
ユキは魔法実行処理の中身を探すことにする。
プログラムでは処理の中に、また別の処理が記載されているのだ。
(やっと……見つけた……)
ユキは小一時間かけて、ようやく魔法実行処理の中身を発見する。
(おぉーー、なるほど……ちゃんとMPの確認も行われてるのね……)
魔法実行処理の中には、残魔力量をチェックするための処理らしきものが入っていた。
(……本当は【残魔力量チェック処理】の中身まで追った方がいいのだろうけど……)
もはや、ユキはすぐに試したい衝動を抑えきれなかった。
(これを……こうやって……こう……)
ユキは単純に魔法実行処理の前提条件となっている実行チェック処理を取っ払う。
そしてユキは恐る恐る魔法補助具に手を触れる。
すると……、
(……出た……!)
実行を宣言していないのに、魔法補助具から冷気が放たれる。
(……すご……できたぞ……)
ユキは一人、達成感に酔いしれる。
が、しかし……、
(ん…………?)
「うわぁああ!!」
魔法補助具からは次々に冷気が発せられる。
そして、ユキの魔力はぐんぐんと吸い込まれていくのであった。
「はぁ……はぁ……止まったか……」
(そりゃ……そうだよな……)
無条件に発動としたことで、次々に発動条件を満たし、ユキの魔力を吸い、限度に達するまで魔法の発動が何度も繰り返されたのである。
(はぁ……はぁ……【残魔力量チェック処理】様々だな……)
【残魔力量チェック処理】がなければ今頃、ユキは干からびていたかもしれない。
と……、
ちゅんちゅんちゅん……。
小鳥のさえずる声が聞こえてくる。
(……もう朝か……)
ユキは気づけば、徹夜で作業を続けていたようであった。
(やばいな…………今日も仕事だった……)
「……はは」
ユキは思わず空笑いしてしまう。
(こっちの世界に来てもやってることは一緒だな……)
思えば、ユキは前世でも仕事の前日に、趣味のゲームプログラムが止まらなくなってしまい、そのまま徹夜……。
満身創痍のまま出社するというセルフ・デスマーチをしてしまうことがしばしばあった。
(……まぁ、自業自得だな)
などと、自虐をしていると……、
「……ん、んん……」
(ん……?)
ふいに、何やらちょっぴりセクシーな感じの女性の声のようなものが聞こえてきたような気がした。