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第11話 技術的課題

「…………わかりました。できる限りのことはやってみます」


「ありがとう……」


 アイシャはほっとするように軽く息を吐く。


 と……、


「アイシャ様、お時間です」


 研究開発室の外からアイシャを呼びかける声がする。


「あ、あぁ……」


 声を掛けられたアイシャはやや緩慢な動きで、研究開発室の出口へ歩いていく。


「ではな、ユキ……頼んだぞ……」


「はい……」


 アイシャはそう言い残して、研究開発室をあとにする。


(っっ……!)


 と、その瞬間、ユキは鋭い視線を感じ、咄嗟にその視線の先を見る。


 すると、アイシャを呼びに来た男子生徒がユキを睨みつけていた。

 その男子生徒はすらっとした高身長で、パーマのきいた金髪に赤い瞳で、なんとなく高貴な雰囲気がある。


「……っ」


 結局、なにかあるわけでもなく、男子生徒もアイシャの後を追い、去っていく。


(……なんや)


「なんか睨まれてたな」


「……!」


 男子生徒とアイシャが去った後、オーエスがユキに声を掛ける。


「や、やっぱりそうですよね……」


「あいつは子爵……ゲッツェコード家の令息で、スパ・ゲッツェコード……アイシャ様の秘書をやっている」


「そうなんですね」


(ひぇーー、貴族様じゃないですか……関わりたくない……)


「どうやらあいつはアイシャ様が研究開発室に関わっていることを心よく思っていないようだな」


「え、なんでですか?」


「簡単に言えば、時間の無駄だと思っているのだろうよ」


(……)


「アイシャ様は学生の身にて政治にも関わる様なお方だ。だから、こんな大した成果のない研究開発室などに時間を掛けずに、もっと有意義なことに時間を割くべきと考えているのかもしれないな」


「……なるほどです」


 ユキはその時はオーエスの言葉に納得した。


 ◇


「まだやっていくのか?」


 研究開発室にて、オーエスがユキの背中に声をかける。


「あ……もうこんな時間なんですね……」


 ユキは窓の外を見ると、夏の長い日もすっかり暮れていた。

 どうやら冷却装置作りの作業に没頭していたようだ。

 ソレハはいつの間にかいなくなっている。


「あの……もう少し……やっていってもいいですか?」


「初日から頑張るなぁ……」


「そ、そうですかね……」


「まぁ、せっかくのやる気を阻害してしまうのも悪いな。やりたいだけやっていくといい。ただ、帰宅時には施錠を忘れないようにな」


「はい、わかりました」


「ではな! ユキくん」


 そうして、オーエスが研究開発室から去り、ユキは一人となる。


(さーて……)


 ユキは作業を再開する。


(冷蔵庫……か……)


 冷蔵庫……つまるところ家電。

 ユキは前世において、プログラマ……コンピュータの中で、動くものを作ることを得意とするソフト屋であり、装置や機械そのものをハード面は専門外であった。

 ゆえに前世の冷蔵庫がどのような仕組みで動いているかについてはなんとなくの知識はあったが、詳しくはわからなかった。


(アイシャ様の要件(オーダー)は〝長時間〟、〝大容量〟の冷却だ。基本的に俺にできることは魔法補助具の改造だけ。シンプルに考えれば……)


 低出力の冷却魔法を長く出し続けることであった。


(……ひとまずは難しく考える必要はない)


 ユキは夜までの時間を掛けて、魔法論理(マジック・ロジック)の改変作業を終えていた。


 非常にシンプルな魔法論理(マジック・ロジック)だ。


 基本的な考え方は芝刈り機と同じ。

 弾の初期化処理で、【弾の初期位置=(デバイス)の先端位置】に設定する。

 【メイン属性=氷】に設定し、出力は弱め【威力= 0.5】に設定する。

 そして弾の更新処理にて、【弾の位置=杖の先端位置】にし続け、ずっと杖の先端位置に固定する。


(早速、試してみるか……)


実行(エグゼ)


 杖の先端に冷気を帯びた球体が発生する。


(うん、出力の感じは悪くない)


 ひんやりとした冷気が魔法補助具周辺の温度を下げている。


 そして……しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。


(……)


「……実行(エグゼ)


 しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。


「……実行(エグゼ)


 しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。


「……実行(エグゼ)


 しばらくすると冷気を帯びた球は消滅する。


「………………」


(いやいや、これ無理だな……。人間がずっと再起動(リブート)し続けないといけない……。とても実用に耐えられる代物ではないなぁ……)


 ユキは頭を抱える。


 と、そこへ……、


「ユキ……か……?」


(……!?)


 ユキ一人となっていた研究開発室に透明感のある声が響く。

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