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第1話 Hello, world!

「システム業務に影響が出ている。明朝までに必ず、バグの原因を特定しろ」


 怖い顔をした偉い人が言い放つ。


「み、明朝までですか……?」


 それを通告されたチームリーダーが顔を強張らせる。


「そうだ……顧客はお怒りだ。早急な対処が必要だ」


「で、ですが、その機能は我々のチームが就任する前からのプログラムで……」


「ん……? つまり君は就任する前の機能については責任を持てないというのかね?」


「い、いや……そういうつもりではないですが、分析には時間が掛かると……しかも今はもう21時です。明朝までって……できそうかな? ユキくん……」


 チームリーダーは不安そうな顔で、傍らに連れていた担当者に確認する。

 ユキと呼ばれた担当者は、吉田ユキ(35)。

 どこにでもいるややテンション低めな男性だ。

 親しさからファーストネームで呼ばれているわけではない。全国11位の大姓、吉田姓を持つがゆえチーム内にもう一人吉田がいる。

 だから分かりやすさのために、ファーストネームで呼ばれているというだけだ。

 そんなユキは、


「……やってみます」


 致し方なしというように神妙な顔付きで答える。


 21時から開始して、デッドラインは明朝まで。

 それは実質的な徹夜勧告であった。

 しかも直接的な原因は、前任者にある。

 即ち、とんでもない無茶振りである。

 そんな理不尽な状況だ。作業を振られたユキの内心は……、


(こんな問題起こすって……どんなバグ埋め込んだんだろうなぁ)


 彼の心はこれから起こる徹夜の過酷さよりも、バグへの好奇心に傾いていた。


 ◇


 23時――。


 チームリーダーが申し訳なさそうに、ユキの元に訪れる。


「ユキくん、すまない……私は家庭の都合で帰らなくてはならない……あとは頼んでいいだろうか?」


「あ、はい……」


「本当に申し訳ない。いつも君に大変な作業を任せてしまって」


「はは……まぁ、大丈夫ですよ、リーダーも遅くまでお疲れ様です」


 ユキは苦笑いする。


(いや、まぁ、正直、一人の方が集中できるんで……)


 そうしてユキは一人現場に残り、バグの分析を再開する。


 それから2時間後。


「ここだ」


 たった1人のフロアでユキは思わず声をあげる。


「ったく、蓋を開ければ単純ミスだな……だーから変数のスコープは無理に広げるなって言ってるのによ。こういう系は単純な割に見つけるの大変なんだよなぁ」


 ユキは問題となっていたシステムのプログラミング内にバグを発見した。


(でもまぁ、すっきりはした)


 ユキは背伸びをする。その時であった。


「う゛……!」


 ユキの身体に激痛が走る。


(な、なんだなんだ……!? 痛い……! 身体が痛い……!?)


 吉田ユキ(35)は残業中に血管系の病気が発症。

 周りに誰もおらず、翌朝、冷たくなっているところを発見される。


 ユキの本業はシステム系のプログラマーであった。

 業務外では趣味のシューティングゲームを作るプログラマーでもあり、実力はともかくとして、プログラミングが好きであった。


 本業もトラブルシューティングが主な業務であり、プログラムの問題を解析し、バグを取り除くことがユキの生業(なりわい)であった。


 そんなユキは大変ながらも結構、仕事を楽しんでいた。

 彼が初めてプログラミングに触れた時、〝まるで魔法のようだ〟と高揚した。

 その気持ちはユキという人間の根幹となっていたのだ。

 だから、プログラミングをしているときは自分が自分でいられる気がした。


 だが、精神とは裏腹に身体はついてこれていなかったようだ。


 平均睡眠時間3時間が常態化していた。


 ユキは自分はショートスリーパーなのだと思い込んでいたが、過労は、知らずしらずのうちにユキの身体をむしばんでいたのであった。


 そして、死に際にユキは思った。


「せめて……このバグ直してからにしてくれよ……変数iが悪さをしているんだ……」


 〝犯人はi〟


 それが、ユキが死に際にメモに残したダイイングメッセージであった。(病死なのに)


 ◇


 ◇


 ◇


「ユキ、そろそろ行かないと学校に遅刻するぞ」


 洋風な石造りの集団住宅の一室。

 そのリビングで、壮年の男が穏やかな口調でユキに告げる。


「もう出るよ、父さん」


 ユキ・リバイス(12)を学校へと促したのは今世におけるユキの父であった。

 その傍らではユキの母も微笑んでいる。


 ユキは少し橙色がかった茶色のくせっ毛に、明るい瞳。

 そして前世より遥かに整った顔立ちをしていた。


 そんなユキは魔王城が構える城下町に、平民として新たな生を受けた。

 苗字はリバイスなどという、いくらか洒落(しゃれ)たものに変わっていた。

 しかし、偶然(?)にも新たな親が付けてくれたファーストネームは前世と同じユキのままであった。


 ユキの両親は少し保守的でお堅くはあったが、普通の家庭であった。

 平民なので、特権階級があるわけではないが、特に虐げられているわけでもない。

 贅沢ではないが、慎ましすぎることもなく幸せな家庭に生まれ、ユキ少年は穏やかな少年時代を過ごしていた。


 ユキが自身が転生者であることに気が付いたのは、一年前。11歳の時であった。


 そのことに気付いたユキ・リバイスが最初に思ったこと。


(ゲームのような世界だな……)


 転生したこと。

 その世界が前世におけるJRPGゲームの定番の世界観であったこと。


 それから半分、冗談めいた話ではあるが……、


(Y(旧twetter)を買収したウーロン・タスク氏はこの世界がシミュレーションワールドである確率は99%なんて言ってたしな……)


 そんな言説を知っていたこともあり、ユキはこの世界はやっぱりゲームの世界なんじゃないかと思った。


 そんな驚きがあったのも、もう一年前の話。


 ユキには今世における少年時代の記憶もあり、前世の記憶と混じり合ったような状態であった。

 ただ、前世の記憶が混ざったことで、少年時代の記憶が少し飛んでいることがあった。


 ◇


「それでは三限目は魔法学の授業です」


(きたか……)


 中等部生(現世でおける中学生にあたる)であったユキの唯一、好きな授業は〝魔法学〟であった。


 ユキは前世において、小中高大と学生時代を送り、社会人となっていた。


 ユキは転生により、もう一度、学生をやり直さなければならないことは正直、少し嫌であった。


 学生には、テストやらレポートやら単位やらというものがつきものである。

 根はまじめであったユキはそれらをこなすのに、割と苦労した記憶があり、その課題を今世においてもやり直さなければならないという事実は結構、辛かった。


 そんなユキには悲報と朗報がそれぞれ一つずつあった。

 まずは悲報……この世界には、前世のような高度な科学技術がないこと。

 そして朗報……この世界には、〝魔法があること〟だ。


 悲報の方……科学技術がないことは、すなわち、その一員である〝プログラミング〟がないことを意味していた。

 ユキにとってプログラミングがないことは辛い事実であった。


(せっかく転生したけど、もう一回、来世ガチャに賭けるか……)


 と思う程のレベルであった。

 しかし、ユキの来世ガチャをなんとか食い止めたのが魔法の存在であった。


 魔法を学ぶことが今世におけるユキの希望であった。


 そんな魔法のあるゲームのような世界に転生したユキには一つ、気がかりなことがあった。


 それは〝魔王城〟の存在だ。


 ユキは魔王城が構える城下町の平民の息子に生まれたわけだが、特にこの世界が前世でプレイしたゲームに似ているとかそういうのはなかった。


 魔王と言えば、ゲームにおいて、勇者に討たれるのが昔ながらの定番の設定である。

 しかし、魔王の街の生まれとはいえ、当事者である魔王であるわけでもなければ、貴族やら幹部やらの重役でもないただの平民。

 この世界に勇者さまがいるのかどうかはわからないが、勇者が正義の味方ならばこんな平民を惨殺することなどなかろう……と、ユキは大して気にしていなかった。


 故に……、


 〝自由気ままに生きよう〟


 という結論に至っていたのであった。


「それでは本日はいよいよ魔法の実技訓練をおこないます」


 ユキはゴクリと息を呑む。

 今日は、そんな魔法のある世界において、初めて魔法を実践できる日であったのだ。


 魔法は幼少期には使うことができない。

 法律うんぬんではなく、本当に使うことができないのだ。

 不思議なもので、12歳になると使うことができるようになる。

 そして12歳になってからは今度は法律により、初めての魔法は魔法学の教官の指導の元、行うこととなっている。


 その初めて魔法を使う日が今日というわけだ。

 ユキはワクワクすると共に少し緊張していた。

 これまでも座学で魔法のあれこれを学んできたが、魔法を実際に使うのは本当に初めてのことだからだ。


 (魔法が使える……。魔法が使える……。でも本当に魔法って使えるのか……?)


 前世には魔法なんてものがなかったから、魔法が使えるイメージがあまり湧かなかったのだ。


 悶々としながらもユキは、他の生徒らと共に教室から専用の魔法訓練場に移動する。


「それでは、学生番号順に並んで、一人ずつ。あの的に向かって無属性魔法の光弾(ショット)を使用してください。皆さん、もちろん初めてですので、詠唱をしてから実施するように……」


 白髪で、おじいちゃんっぽい見た目の魔法学の教師は淡々とした様子で生徒たちに指示をする。

 教師の指示に従い、一人ずつ、初めての魔法……光弾(ショット)を使用していく。


「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾(ショット)〟」


「「「おぉおおおお!!」」」


 最初の一人目の男子生徒が構えた右の手の平からサッカーボール大の光の弾が放たれ、的に向かって飛翔する。真ん中にというわけにはいかないが、見事に的をとらえて、的が砕け散る。


「「「おめでとう!」」」


 最初の一人目ということもあり、周囲は感嘆の声をあげ、男子生徒を祝福する。

 男子生徒も右腕を突き上げて喜ぶ。


 その後も、一人ずつ、初めての魔法を放っていく。


 光の強さやスピード、弾の大きさや的に命中するかどうかの違いはあれど、皆が初めての魔法を成功させていく。


 そのため、早くも慣れが生じ始め、最初よりも拍手が適当になっていく。


 そして、ついに……、


「次、リバイス……ユキ・リバイス、前へ」


「はい……」


 ユキの番がやってきた。


「よし、では、実施ください」


 教師は淡々と指示する。


(……ふう)


 ユキは緊張した様子で、一度、息を吐く。


 肩幅程度に軽く足を広げ、努めて肩の力を抜く。

 右の手の平を前方に構える。


 そして……、


「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾(ショット)〟」


「「「……!?」」」


 飽きにより、少しずつ盛り下がっていた学生たちが久し振りに注目する。


(……っっ!!)


 ユキの手の平からは、何も……何も放たれなかった。


「ゆ、ユキ・リバイス……肩の力を抜いて、もう一度……」


 教師はユキに再実施を促す。


「は、はい……」


(い、いや……もう抜いてるんだけどな……)


「〝光よ――力となりて敵を討て 光弾(ショット)〟」


 が、しかし、一回目と結果は同じ。

 ユキの手の平からは、何も放たれなかった。


「ま、まぁ……そういう人もいるから……大丈夫。幸い、魔法補助具というものもある……」


 教師は多少、(あわ)れむように、ユキを慰める。


「え、ひょっとして無才?」

「教科書には確かに載ってたけど、本当にいるんだね。魔法補助具なしじゃ魔法使えない人」

「止めなよ、聞こえてるよ、可哀相」


(っっっ……)


 ユキは唇を噛み締める。


 その間に、教師は次の生徒を呼び出す。


「次、アレイ・ハイレンス、前へ」


「はい」


(…………そんな)


「どんまいどんまい」


「っ……」


 ショックから立ち尽くしてしまっていたユキの肩を、次の順番であったアレイ・ハイレンスが叩く。


「あ、ごめ…………っ!?」


 立ち退こうとしたユキは、ふとアレイ・ハイレンスの顔を見てしまう。

 その顔は必死に笑いをこらえているようであった。


「「「おぉおおおお……おめでとうー!」」」


 その後、アレイ・ハイレンスも初めての魔法に成功し、結局、ユキのように失敗した生徒は他には一人もいなかった。


 ◇


 魔法とは……ものすごくざっくり言うと、


 体内で生成される魔素を集約し、具現化。

 脳内で属性や動きや作用(魔法論理(マジック・ロジック)と呼ばれる)を組み上げて……放つ。


 というものである。


 基本的には得手不得手はあれど、この世界では、万人に魔力があり、魔法を使うことができる。


 だが、稀に、〝魔生成不可者〟と呼ばれる魔法の具現化が絶望的に苦手な者がいた。


 魔生成不可者は、魔法補助具なしでは魔法を扱うことができないのだ。


 ユキは正にその魔生成不可者であった。


 魔生成不可者は先天的なものであり、表向きには差別的な発言はご法度であるのだが、実際には〝無才〟と言われているのが現実であった。


 そんな無才であることが判明してしまったユキは、


 (あ……これはやっぱり来世ガチャかな……)


 と、それなりに落ち込んでいたが……、


「ユキ・リバイスくん、ちょっと……時間、ありますか?」


「はい……?」


 その日の放課後に魔法学の教師に呼び出された。


「リバイスくん、これを……」


 白髪で、おじいちゃんのような見た目の魔法学の教師は魔法訓練場にて、ユキに棒状の物体を差し出す。


「え、えーと……これは……?」


「魔法補助具だ。魔生成不可者であった生徒には学校から支給されることになっている」


「……!」


(これが魔法補助具か……)


 魔生成不可者が魔法を使うことができるという魔法補助具である。


 魔法補助具は木製の杖のような見た目をしていた。


 木製の割に幾分、重みがある。


「……使ってみなさい」


「あ、はい……」


 ユキは魔法補助具を手に持ち、その先端を的に向ける。


「魔法補助具を使う時は、〝実行(エグゼ)〟の掛け声だけで大丈夫です」


「わかりました」


 ユキは再び息を呑む。

 なにせ、すでに無才であるのだが、ある意味これは最後のチャンスである。


 (魔法補助具を使った上で、うまくいかなかったら詰みだ……)


 そう思うと、緊張で口の中が乾いてくる。


 だが、覚悟を決める。


「……実行(エグゼ)


 杖の先端から青白い光の弾が連続で三発放たれる。


「…………でた」


(……しかも、三発も……?)


「魔法補助具を使っているのだ。出てくれないと困る」


 魔法補助具を使ったとはいえ、初めての魔法にじんわりと感動していたユキに、おじいちゃん教師が当然である旨を告げる。


「あ、はい……そうなんですね……」


(……!)


 その直後、ユキは急激な倦怠感に襲われる。


「身体が重いだろう。いきなり光弾を三発も出せばそうなるだろう……」


 おじいちゃん教師はまるでそうなることがわかっていたようだ。


「リバイスくん、その杖は君の所有物としてくれて構わない。魔法学の授業の時は忘れないようにな」


「は、はい、ありがとうございます」


 それがユキと後に〝魔道具〟と呼ばれるデバイスとの出会いであった。


 ◇


 数か月後――。


「それでは今日の魔法学の授業は自由魔法の実技試験を行います」


 魔法学のおじいちゃん教師がそう告げると、


「「「おぉおおお!!」」


 クラスのお調子者たちが活気づく。


 自由魔法の実技試験……それは学生各々が、自由に魔法を披露し、その能力を評価する試験である。


「では、最初の者……」


「はい!」


 最初の男子生徒が前に出る。そして……、


水弾(ウォーター・ショット)!」


 男子生徒の手の平からは水の弾丸が放たれ、見事に的を射ぬく。


「おぉおおおお! いきなり無詠唱か!」

「しかも、なかなかの威力だ!」


 最初の男子生徒の滑り出しは上々であった。


 その後も次々に生徒たちが各々、思い思いの魔法を放っていく。


 生徒たちが初めて魔法を使ってから三か月が経過している。

 三か月もすると、多少、能力の差も出てくる。


 勢いのある水流を放つものもいれば、元気のない風を放つのが精一杯の者もいる。


「それでは、次、リバイス……ユキ・リバイス」


 そんな中、おじいちゃん教師にユキの名が呼ばれる。


「はい……」


 ユキは緊張した面持ちで前に出る。


 ユキの番になると、それまでに比べ、少し空気感が変わる。

 いくらか静かになったのだ。


 ユキにはそれまでの生徒と異なる点がある。

 それはユキが杖……すなわち魔法補助具を携えていることだ。


 ユキは魔法補助具をかざし、的へと向ける。


 そして……、


実行(エグゼ)!」


 杖の先端から青白い光の弾が連続で三発放たれる。

 三つの光球は一応、的には命中した。


 しかし、周囲は微妙な雰囲気に包まれる。


 (あわれ)みの目をむける者もいれば、笑いを(こら)える者もいる。


「また白玉三兄弟かよ」


 誰かが我慢できずにそんな言葉を口にすると、かろうじて堪えられて鼻笑いがいくつか解き放たれる。


「控えなさい」


 おじいちゃん教師が穏やかな口調ではあるが叱責し、すぐに場は静かになる。


(わかってはいるけど……やっぱりちょっと辛い……)


 魔法補助具があれば、別に直接、魔法が使えなくてもいいじゃないか。


 そう思っていた時期がユキにもありました。


 魔法補助具についてわかったこと……。

 魔法補助具を使うと、哀しいかな……その補助具に埋め込まれているらしい〝単一の魔法〟しか使えない〟


「次、アレイ・ハイレンス、前へ」


「はい」


 白玉三兄弟を放ったユキの後は、初めて魔法実技を行った時にユキのことを嘲笑するのを必死にこらえていたアレイ・ハイレンスの番であった。


炎槍(フレイム・ランス)!」


 アレイ・ハイレンスの手の平から放たれた炎は火柱となり、直進し、的を射ぬく。


「うぉおおおおお、すげぇええええ!!」

「流石、アレイくん……!」

「アレイくんなら、王立の高等部への入学も夢じゃないかも」


 アレイ・ハイレンスの放った炎槍により、訓練場は今日一番の盛り上がりとなる。


(……すごいなぁ)


 そんなアレイを見つめるユキの目にも羨望(せんぼう)の感情はあったかもしれない。


 才能というものは時に残酷なものであった。


 ◇


(ふむふむ……魔法補助具とは……魔法の才のない者でも魔法を扱うことができる奇跡の天然物(ギフト)である……か……ふむふむ……)


 ユキは自室のベッドで寝っころがりながら、学校の図書館から借りてきた魔法補助具に関する資料を読んでいた。


「へぇ~、こんな杖みたいな形しているのに、人工物じゃなくて、天然物なのか」


 ユキは資料から得られた情報を抜粋したメモを改めて確認する。


 =================================================

 ●魔法補助具

 ・一つの魔法補助具で一つの魔法のみが使用可能

 ・魔法の才のない者でも魔法を扱うことができる奇跡の天然物(ギフト)

 ・魔物を討伐した際のドロップなどで稀に入手できる

 ・神聖なものとして扱われている

 =================================================


「なるほどな~~……魔法補助具を使うと、あんなに馬鹿にされるけど、その実、奇跡なんて言われてるんだな。まぁ、確かに本来、魔法が使えない俺みたいな奴でも少しでも魔法が使えるようになるっていうんだから、奇跡には違いないか……」


 ユキはぶつぶつと独り言を言う。


 そして、ユキはふと素朴な疑問が思い浮かぶ。


(……でも、なんで魔法補助具は単一の魔法しか使えないんだろう?)


「…………」


 その答えはすぐにはわからなかった。


 だが……、


 ユキは魔法補助具の杖をじーっと、見つめ、息を呑む。そしてふと思う。


(…………解体してみるか)


「いやいや、しかし、神聖なものとか言われてるみたいだし、罰当たりだったりするのだろうか……」


(……だけど……)


 ◇


 数日後――。


 ごくり……。


 再び、ユキは自室にて、息を呑んでいた。


(…………買ってしまった)


 ユキは新たな魔法補助具を実費にて、購入していた。


 調べてみてわかったのだが、街の武具屋でこじんまりとだが、魔法補助具の取扱いがされていたのだ。


 ユキはその中でもっとも安価であった杖型のものを購入する。


 そして魔法補助具購入の目的は……、


(早速、解体してみよう……)


 解体・分析であった。

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