仮初の仲間
アンミェルの向かった先は冒険者ギルド、そしてすぐに受付嬢のいるカウンターへと早足で近づいていく。
「ようこそ冒険者ギルドへ!って、アンミェルさんなんでこんな所に!?」
「ああ、えーと……ちょっと事情があってな、この人と二人でパーティ組んで依頼受けようと思うんだ。パーティ登録できるか?」
「できますけど……勇者パーティはどうするんですか?」
そこでアンミェルは受付嬢にグイッとカウンターを乗り上げて近づき、彼女に耳打ちする。
(実はさ、ボク近々勇者パーティを抜けようと思ってるんだ)
(ええっ!?な、なぜ!?)
アンミェルのボソボソ声に合わせて、受付嬢も声を小さくするが、突然のカミングアウトに小さい声量で驚く。
「だから先にそれに向けて、彼女のランクを上げてやりたいんだ。だから他にフリーになってるヤツ集めてくれねぇ?なるべくフルメンバーで行きてえから他にも暇なヤツ探してくれ」
「納得はできませんが……アンミェルさんは昔から言っても聞いてくれませんし、仕方ないですね……」
アンミェルの強引な頼みに、受付嬢はため息を吐きつつ登録者リストを確認する。
「ん?お前ボクのこと知ってんのか?」
「知ってるもなにも、あなたの冒険者登録をしたのは私ですよ。あの時対応したせいで偽造に気づかなかったことの責任を取らされそうになったんですから……」
「そうだったのか、すまねぇな」
「まあ、あなたが勇者に選ばれた事で有耶無耶になりましたがね。はい、リストからちょうど三人暇そうなのを見つけてきましたよ」
「そうか、今どこにいる?」
「嬉しいことに、全員ここにいますね。おーい!ミスピ!カミルア!リデーズ!」
本当に近くにいるらしく、受付嬢は大声で三人の名を呼ぶ。すると……
「なんだい?アミル姉さん」
「こんな夜中に呼ぶなんて、やっぱりアミルちゃんも飲みたいんじゃな〜い」
「いきなり呼ぶなんてなんのようなのです?今実験してたんですよ」
それぞれ、ギルドのロビーの各地から三人の女の子がやってくる。一人は褐色にオレンジの髪を長いポニーテールにした大柄の女性で、身の丈ほどある大剣とビキニアーマーが特徴的な剣士のようだ。
その隣は金髪をウェーブがかったボブヘアーにしている艶のある女性で、隣の剣士と並ぶと見劣りするが彼女も十分高身長で、歓楽街の踊り子を思わせる防御力皆無の布切れを纏っていた。持っている長弓から弓師だということは分かる。
最後の一人は、アンミェルよりも低身長な赤毛をショートカットにした白衣を纏った少女だった。しかし体の至る所に取り付けられている道具がいわゆる「錬金術」と呼ばれる技術に使う機材であり、彼女が錬金術師であることを示していた。
「あのねミスピ、いつもあんたに姉さん呼ばわりされる筋合いはないって言ってるでしょ!カルミアもここで酒飲むなって何度言ったら分かるの!?リデーズも次ここを実験場にしたら掃除させるって言ったわよね!?」
どうやらいつも苦労させられている相手のようで、受付嬢は揃った女性陣に長々と怒りをぶつける。
「コイツらがフリーメンバーか、なんか誰も組みたがらないのも分かるな。胸ばっかデカくしやがって」
集まったメンバーは三者三様の姿であるが、一つだけ共通点があった。それは胸部が凄まじいサイズということ。身長の高い二人はもちろん、アンミェルより小さい錬金術師も身体に不釣り合いなサイズのものを持っていた。
「ん?こいつ勇者のアンミェルじゃないか?」
「あら〜?確かにそうね〜」
「そんなやつに指名されるとは、リデーズ様の名声は着実に広まってるようなのです」
三人は声をかけたのが勇者の一人であるアンミェルだと分かると、二人は不思議そうな顔を浮かべ、錬金術師だけがなぜ偉そうな態度を取る。
「あ〜……実はボク、新しいパーティを探しててな、それでフリーのお前たちと組みたいんだ」
「そういうこと、あんた達も今暇でしょ?ギルドや酒場にたむろってるよりは実利があるんだから組んであげて」
「いいぜ、私はミスピだよろしくな!久しぶりに腕がなるぜ!」
「そりゃ〜勇者の頼みなら受けなきゃ損よね〜、ちなみに名前はカルミアよ〜」
「ふん、このリデーズ様がお前さんの知名度を利用してやろう」
(どいつもこいつも強烈だな……それに胸も……ん?そういえば……)
異様に濃ゆいメンバーが集まり、アンミェルが心の中でちょっと引きつつ、破滅の未来で聞いた“ある話”を思い出していた。
(勇者パーティを追い出されたレイルは、偶然出会った人間の女性複数人と共に魔族領へと向かったって……風の噂で聞いたな、当時は興味なかったけど、よくよく考えたら……)
ここにいるメンバーは全員フリー、そしてレイルは本来カエバスと出会った事でギルドの依頼を受けたのだ、つまりあのままいっていた場合……
(おそらくだが、レイルはこいつらと出会ってパーティを組んでいたんだな、もしそれならこの流れはかなりいい方に向かってんじゃねえか?)
今回のアンミェルの作戦は、とにかくレイルの行動を先回りして止めるというものであった。
あの破滅の未来がレイルによって起こされているならば、その行動を先手打って潰していけば自然とその運命を回避できるのではないか?と考えたのだ。
「よし、それじゃあまずは相性を見るために軽く依頼をこなしてみるか、この近辺を対象にした依頼を探してくれ。えーと名前は……」
「アミルって言います。それで依頼ですか……えーと、今なら薬草採取しかありませんねー……」
「それでいいさ、よし!じゃあいくぞ!」
「頑張ります!」「おう!」「はいはい〜」「任せるのです!」
みんなの元気のいい返事を聞いたアンミェルは、全員を一瞥して外界への入り口へと向かった。
(しめしめ……これでアイツはもう外に出るキッカケも仲間もいねえ、アイツは自分の弱さを自覚してるからこの時間帯に外界を出歩くなんて無謀なこともせず、スキルのくだらなさを知らねぇまま今頃街中で職探しでもしてるだろ……)
周囲から見えないように、アンミェルは一人ニタニタと卑下た笑みを浮かべていた。