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ゲスガキと修正の歯車  作者: 大犬座
チャプター1 始動
7/40

搦め手で挑め

ガコンッ


「あづぅ!?はっ!」


「ちょっと急になんなの?もしかして寝てた?」


「こんな所で眠ってしまうなんて…‥まだまだ子供なんですね」


「あまり突っ込むことではないでしょう?そこらでやめてくださいませ、さて……」


「アンミェルのせいで話の腰が折れたが……ズバリ言う、レイル、お前をこのパーティから追放する」


(くっっっっそがぁぁぁぁ!!アイツの置換法はちょっとでも殺意だしたら発動すんのかよ!それなら……!)


そして、前回と同じやりとりを経てレイルが酒場を出ていく。


「……よし、ボクもちょっと出るぞ」


「ん?何しに行くの?」


「うるせえ、お前もちょくちょく出てるだろうが」


「なに怒ってんの?まあいいや、私も今日はちょっと出かけるし」


「そうですか、わたくしも道具とお肌のケアをしないといけませんので、ここらで失礼しますわ」


「私も、王太子様から婚姻の約束をされている身、大事にしないといけないのでそろそろ戻らせてもらいます」


「アンミェル、お前にはちょっと話がある。なるべく早く帰って来てくれ」


「死ね」


それだけ行ってドアを叩きつけるように閉めるアンミェル、すぐに噴水広場まで行くと、まだレイルは到着していなかった。


「しめた、今のうちに細工してやるよ」


そう言うとアンミェルはもう一つのアーティファクト『時計仕掛けの街(ヘヴンズマップ)』を取り出す、これは「対象の時間の経過を少しだけ加速させる」スキルを持つ鏡面の短剣であり、アンミェルが持つ事によって、通常ではあり得ない速度で物を劣化させることができる。


劣化できるものは生命(クオリア)の宿っていない無機物のみに限定されているが、それでも十分強力であり、アンミェルは情熱の踊り子と共に普段から愛用している。


使い方は鏡状の刃から発せられた光を一定時間浴びせるというもので、当たった場所から劣化の速度の加速が始まり、そこからじわじわと効果範囲が広がっていくというもの。


アンミェルは情熱の踊り子の炎の明かりを時計仕掛けの街に当てて光を反射させ、その光を噴水のオブジェに当てていく。周りには人が絶えず往来しているが、小さな少女のささやかな奇行に立ち止まる者はいなかったようで、順調にオブジェが劣化していく。


「これくらいでいいか、さて、ヤツはいつ来る?」


解除する際には、一定の時間が経つか刃を対象に突き立てる必要があるが、今の状況なら問題はなく、オブジェに刃を突き立てそこそこの劣化状態で止めておく。


そうして準備が終わったアンミェルは、しばらく人混みの中で身を潜めていたが、それから10分足らずでレイルがやってきた。


「来た!そして前回と同じ場所に座ったな!」


レイルはアンミェルの予測通り、前回と同じ場所に座ってなにやらため息を吐いている。


(完全に油断し切ってるな、位置も前回と同じ……ならこれでチェックメイトだ!)


手頃な(つぶて)を投げるアンミェル、それは劣化させたオブジェに直撃し、オブジェが劣化箇所から()()()落下する、そしてそれは人を始末するのに十分なサイズのまま、レイルの頭部へと落下していった。


「え?」


異音に気づいて振り返るレイルだったが、気づいた時にはもう遅く、回避も防御も間に合わない状況であった。


(アイツのスキルが殺意に反応するなら、殺意のない“事故”なら問題ないって事だよなぁ?ソイツであの世に行きやがれ!)


しかし、オブジェはレイルの頭とぶつかるも、オブジェ側が敗北して粉々に砕け散ってしまった。またしてもアンミェルの思惑とは違う結果となり、アンミェルが唇を噛んで怒りの形相を作る。


(んだぁよあれはぁ!なんでくったばらねえんだよ!どうなってんだよぉ!!)


好きになっても隙を見てもダメ、咄嗟の事故にもしっかり対応と、なんでもアリな置換法に絶大なストレスを感じて一人暴れるアンミェル、そしてひとしきり暴れた後、おもむろに立ち上がり、ある方向へと歩いていった。


………………


「はぁ〜……やっぱり私じゃ冒険者なんて無理なのかな……」


噴水広場へ続く大通り、そこではたった今所属パーティから追放されたばかりの回復師がトボトボと歩いていた。


彼女の名はカエバス、貴重な回復呪文に適性があるという理由だけでこの世界に入った、割と後先考えない人物である。


そんな彼女は、回復呪文は使えるが応用力がなく、高いランクに行くにはもっと実力のある回復師がいなければならないという理由でパーティを追放されてしまったのだ。


「やあ、オマエ今暇か?」


「え?あなたは……勇者パーティの……確かお名前は……」


「アンミェル、アンミェル・タレッチっていうんだ。お前は?」


「私は、カエバス・リトットと言います。それよりなんで勇者パーティの方がここに?」


そんな彼女の前に現れ、うつむく彼女の顔をあざとく覗き込むようにして目を合わせてきたのは、勇者パーティの斥候のアンミェルであった。


アンミェルは軽く自己紹介をすると、当然の疑問を口にするカエバスに頬を掻いて言いずらそうに口を開く。


「いやぁアハハ……実は“元”勇者パーティなんだよね」


「それってどういう……」


「ボク、追放されちゃってさ……行く宛もないからどうしようかなって思ってたら君が歩いてるのが見えたんだよ、君はその杖からして回復師だよな?」


「はい、ですがお役には立てないと思います……わたしって実力ないのに回復師になったから、力不足だってパーティ追放されたんです」


「それならボクたちお似合いじゃん、追放された者同士パーティ組もうよ」


「え?でも……」


「大丈夫、ボクだって最初から強かったわけじゃない、ほら先ずは職探しに行かないと!」


そう言って、アンミェルはカエバスの手を握って走り出す。そんな彼女の少し強引な手の温かさにカエバスが頬をほんのり赤く染めていた。

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