不意打ち
「はっ!ここは!?」
「ちょっとアンミェル、なに寝てんの?」
「こんな所で眠ってしまうなんて…‥まだまだ子供なんですね」
「あまり突っ込むことではないでしょう?そこらでやめてくださいませ、さて……」
「アンミェルのせいで話の腰が折れたが……ズバリ言う、レイル、お前を……「死ねゴラァ!!」
バウンデンがレイルの追放を伝えようとしたその時、突然アンミェルがナイフを振りかざし、机を踏み台にしてレイルに飛びかかる。アンミェルの跳躍に合わせて、彼女に踏みつけられた机の料理が宙を舞った。
彼女の持ったナイフの刃は炎を纏っており、それがアンミェルの強い殺意を表していた。
アンミェルのスキルは『素養複製』、触れることをトリガーとしてその者のスキルをコピーして使う事ができる。使用できるスキルはオリジナルより性能が制限されるが、基本的な能力は変わらない。ちなみにコピースキルは二つまで保存でき、新しいスキルをコピーするたびに古い順に消える。
またアンミェルはこのスキルを使う際に「盗む」と表現するが、元の人物からスキルが消えるわけではない。
そして、この世界には強力な「アーティファクト」と呼ばれるものがある。それらは人が神祈の儀で賜るスキルとは違う単純な効果のスキルを持っており、貴重な物ではあるが、能力そのものは「刃に炎を纏わせる」、「対象の動きを少し遅くする」など個人レベルでは強力だが大局を左右するほどでは無いものばかりだ。
しかし、アンミェルは人以外にもアーティファクトのスキルもコピーして使える為、アーティファクトのスキル発動に合わせてコピーしたスキルを発動することで効果を上乗せし、これらのスキルを他人より強化した状態で使うことができる。
そして今この瞬間、アンミェルの持っているアーティファクト『情熱の踊り子』の炎は最高温度となって刀身を赤く染めており、触れればそのまま身を焼き尽くされてしまうほどの物となっていた。
(あの声の話を聞く限り、原因は全てこのバカにある……!ならこいつをぶっ殺せば!)
「くたばれぇぇえぇぇ!!」
もう少しで殺れる、そう確信したアンミェルだったが……レイルにもう少しで届くという所でナイフ、と自分の動きが完全に停止した。
「……え?」
何が起こったのか一瞬分からなかったアンミェルだったが、すぐにその正体を察した。それは、置換法による反動と同じ感覚だったのだ。
まるで長い時間、空間が停止していたように感じていたアンミェルだったが、実際にはコンマ数秒の出来事であり、次にアンミェルが状況を理解した時には自分が吹っ飛ばされていた。
そして、壁に激突しそのまま自分が倒した椅子の角で頭を強かに打ってしまい。そのまま意識を手放した……