破滅の未来の片隅の悲劇
「はっ!?うそだろ……」
アンミェルが目覚めた場所、それは最早見慣れた酒場の角のテーブルだった。相変わらず自分の目の前にはあの時と同様にレイルが立っており、前の方に座っているバウンデンが何かを伝えようとしている。
「ん?急にどしたの?なんか思い出した?」
「………………」
「あのエステルさん?急に大人しくなってどうかいたしました?」
そんな中で、いきなり跳ね起きたアンミェルにシエノンが尋ね、唖然となっているエステルをラカニアが心配している。
「おいおいお前たち、このタイミングでふざけるんじゃない。レイル、単刀直入に言うがこのパーティから出て行け」
「なっ!?なんでだよ!?今まで一緒にやって来たじゃないか!」
もう何度目かの追放場面、そんな見飽きた光景など目もくれず、アンミェルはただ座った目でエステルを見ており、それに対してエステルは冷や汗をかきながらただうつむいていた。
「さて、ボクはこの聖女サマと一緒に上にあがるよ」
レイルが追放され出て行った後、すぐにアンミェルが立ち上がり皆にそう伝える。
「あんたが聖女様とつるむなんて珍しいわね、なんか面白い話題でもあるの?」
「まあそんな面白い話じゃねえよ、な?セ・イ・ジョ・サ・マ?」
「うっ……そ、そうね……」
それだけ言うと、アンミェルはエステルを引きずる様に二階へと上っていった。
「急にどうしたんだろうな、アンミェルには用があったんだが……」
「それを言ってもしょうがなくない?さてと、わたしも今から出るから、あとよろしくね」
「わたくしも道具とお肌のケアをしないといけませんので、ここらで失礼しますわ」
バウンデンが二人のおかしな行動に眉を顰めるが、それに何言っても仕方ないと指摘して酒場を出るシエノン。それに合わせてラカニアも部屋に戻り、一人残ったバウンデンは残された料理を前に静かにお茶を一口啜って一息ついた。
一方、2階に上がったアンミェルはエステルの部屋まで彼女を引きずり、そして部屋に静か入り「はぁ〜……」と、大きく息を吐いた。
「おォいッ!テメェ何してやがるこのクソ女!」
そして、いきなりエステルの方を向くと、彼女の胸ぐらを掴んで睨む。その際にアンミェルの腕がエステルの大きめの胸に埋まる。
「うるさい!あの女殺せば解決するんだから手っ取り早い方法を取るのは当然でしょ!」
「手っ取り早い方法が取れなかったからこんな回りくどいことをしてんだろうが!ミズサから情報を得ねぇと意味ねえんだよ!感情で動きやがって、テメェのくだらねえ復讐心なんてクソ喰らえだ!」
「なんですって……このォッ!クソガキがッ!」
売り言葉に買い言葉で殴り合いが起き、二人は無駄に体力と時間を使って拳で語り合い、最後は拳が交差しお互いの顔面に叩き込まれて双方ダウンしてしまった。
「はぁ……はぁ……もうやめよう、不毛だこんなの……」
「はぁ……はぁ……そうね……」
流石に不毛だと感じたのか、アンミェルから辞めを伝えると、互いに息を整え服の埃を払いつつ立ち上がる。
「とりあえずおっさんの所に行くぞ、おっさんもループに巻き込まれてるから出会った酒場にでもいるだろ」
「そうね、準備するから待って」
そうして、二人は喧嘩という無駄を過ごした後、エステルの準備が終わるとすぐに酒場を出てポーダロンと出会った酒場へと向かう。
「つうかさっき触って知ったけど、オマエ胸でけえな、着痩せするタイプだったのか」
「なに?自分に全く無いからムカついてんの?」
「うるせえな、それ言われるのはムカつくが、それとは別にボクは胸のデケェ女が好きなんだよ」
「は?あんたそっちだったの?というかそれならもう触らないでよ」
「仕方ねえだろ、ガキの頃クズ野郎共に無理やり犯されれば、男が無理になって股濡らす対象が変わるの当然だろ?」
「それはかわいそうだけど、それをいきなり聞かされて私になにをしろと?」
「次やらかしたらその胸揉ませろ」
「死ね」
そんな下らないやりとりをしながら、二人は例の酒場に到着する。すると、その野外席ではあの時と同じように御者が集まり酒盛りをしていた。そしてその中にはポーダロンの姿があり、二人の姿を認めると手に持っていた酒を下ろした。
「よぉポーダロン、行けるか?」
「来てくれたんだな、ああすぐに出発しよう」
「なんだぁ?この二人と知り合いなのか?」「ねえこれ食わない?鴨ロースト!」「馬鹿!まずは自己紹介させてやれ!」
当然、いきなりの展開に他の御者たちが盛り上がる。そんな彼らに、ポーダロンが懐から何かを取り出す。
「こいつらはちょっと野暮用がある連中なんだ、オレはここで立つからこれでオレの分を払ってくれ。酒代も奢ってやるから」
そう言って余分に金貨を置いて立ち上がるポーダロン、置かれた金貨は彼が飲み食いした料金以上であり、他の者の酒代まで賄っていたことは一目瞭然だった。
「うおホントか!?ならまだ飲めるぞ!」「もしかしてアルミサージのステーキももっと食っていいのか!?」「おう!どんどん食え!」
そう騒ぐ御者たちを背に、二人の少女と男は城門へと向かう。
「前回はたらふく食わせられたんだが、今回は酒代だけになってしまったな、少し申し訳ない気分だ」
「変なこと気にすんのなおっさん、アイツらは何もしらねえしそこまでする義理はないのに。まあそれもこれも、この偽聖女サマのせいだから当たるならこっちにしてくれよ」
「うにゅ!?ヒャア……!な、何触ってんのよ変態!」「あぶぅ!?」
意外と世話好きななのか、ポーダロンが前回と違って飯を奢れなかったことを残念そうにし、そんなおかしな気に病み方をアンミェルが指摘しつつエステルの胸を不意打ちで揉みしだく。そんなアンミェルの行動にエステルが甘い声を漏らしつつ、怒ったエステルはアンミェルに全力の平手打ちをかました。
「しかし、本当にお前のスキルは不思議な力を持っているな……いきなり街の中に立っていた時は自分を疑ったよ」
そんな二人の行動を気に留める様子もなくポーダロンが話始める、どうやら修正の歯車によるループを認識して混乱しているため、二人に話を聞いてほしい様だ。
「ポーダロンさんも驚きましたか、私も最初のループは頭の中に一気に今までのループの記憶が流れ込んできて強烈な頭痛に襲われましたから」
「……そうか、オレも、その破滅の未来ってやつを見たんだ」
「ほーん、どんな感じだったんだ?」
「オレには家族がいる、妻とまだ幼い娘だ。その日、オレは崩壊した村から妻と娘を連れて逃げようとしていた……」
………………
ポーダロンの回想、その日彼の村は連日続く魔物とイグザイルの襲撃により秩序の崩壊が目前に迫っていた。
「早くしろ!これを積んだら馬車を出す!この村にはもう居られない!」
慌てながら、それでも家族を守ろうと必要な荷物を積み、愛馬たちの引く馬車に家族を乗せて村を出ようとポーダロンは準備を進める。
「でもどこに行くの!?王都はもう……」
「どこかに人も魔物とこない場所があるはずだ、そこにいけば安全だ!」
「パパ……」
「安心しろ、きっと大丈夫だ」
母親の腕の中で震える娘になるべく優しい声色で声をかけるポーダロン、その時村を囲う丸太を使ったパリサード柵が破壊される音が響き、この村がもう限界なのを悟ったポーダロンはすぐに馬車の手綱を握る。
「お前たち乗ったな……!?よし行……」
なんとか妻子を乗せ、出発しようと鞭を振おうとしたその時、なにか頭部に強烈な衝撃が走ったかと思うと視界が傾き、ポーダロンは地面に落下する。
「そんな!あなた!」「パパァ!」
一瞬、何が起こったのか分からなくなり、呆けた表情のまま地面に墜落するポーダロン。そんな彼の視線の先では、暴徒化した村民やイグザイルが妻と娘を馬車から引き摺り下ろそうとしていた。
「いや!やめて!この子には触らないで!」
「歯向かうんじゃねえ!」「はぐっ!?」
「ママァ!」
(シンディ……!)
妻が娘を守ろうと抵抗し、それに逆上したイグザイルにやってナイフを突き刺され血を吹き出しながら倒れる。
「やだっ……!助けて!パパァ!ママァ!」
そして娘の方は男たちに囲まれ、衣服を破れる音だけがポーダロンの耳に入ってくる。
「やめてくれ……やめろ……やめろぉぉぉぉぁぉ!!」
息も絶え絶えのまま、力の限り叫び手を伸ばすポーダロン。その彼の視界に突然足が現れ、思わず視界を上に向ける、その先には邪悪な笑みを浮かべて自分に大剣を突き下ろそうとする大男が映っていた。
………………
「そこでオレの記憶は終わった、オレは……家族を守れなかった」
回想が終わり、ポーダロンが静かにうつむく。全てはループの中に消えた歴史だが、それでも大切なものを守れなかったことが彼を苦しめているのだ。
「そいつは難儀だったな、こうして話を聞くとクズ以外はみんな不幸になってるな。満足か?聖女サマ?」
「……私は、世界が平等に不幸になれと思ってただけよ、子供がそんな死に方をする世界を望んでなんかいないわ……!」
「落ち着け、その未来を変えるためにオレたちは行動しているんだろう?それなら互いに協力し合う必要がある、くだらない言い合いはよすんだ」
話を聞いてあっさりとした感想を返すアンミェル、さらに返す刀でエステルにも噛み付いたせいで二人の間で険悪な雰囲気が起きてしまい、そんな二人をポーダロンが諌める。
「ちっ、おっさんの言う通りだな。ボクもあの未来じゃクズ共に犯されて死んだ、大切な人も守れずにな、だからおっさんに同情してるんだぜ?」
「そうか……ならば守らなければいけないな、お前たちみたいな子供が、これ以上苦しむ必要はない」
「ポーダロンさん……」
「へっ、勝手にしろよ、でも無茶してくたばんなよ?」
記憶の中の後悔もあって、ポーダロンは目の前の少女たちに決意を表す。そんな彼にエステルは少し心配そうな表情を浮かべ、アンミェルは素直じゃない言葉を返した。




