追放と回想
「ちょっとアンミェル、なに寝てんの?」
「ん……?なんだ……夢……?」
「こんな所で眠ってしまうなんて…‥まだまだ子供なんですね」
「あまり突っ込むことではないでしょう?そこらでやめてくださいませ、さて……」
「アンミェルのせいで話の腰が折れたが……ズバリ言う、レイル、お前をこのパーティから追放する」
(ああ、思い出した……そういやレイルを追放するって、コイツ抜きで話し合ったんだっけ……)
大きなあくびをしながら、アンミェルと呼ばれた少女が思い出す。
近年攻勢に出た魔族に対し、人間の国家は対抗するために最高峰のスキルを持つ者で構成したパーティを結成させた。人々はそれを希望と羨望の象徴として『勇者』と呼び、その者達への全面的な支援を行っていた。
「な、なんで……僕は今まで君たちの役に立ってたじゃないか!?」
「なに勘違いしてんだよ、テメェの『置換法』は他人ありきのクソスキルじゃねえかよ、それ以外には戦闘にも参加しねえでボクのポジション取りの邪魔をするし、前からテメェの事は目障りだと思ってたんだよ!」
(思い出した……コイツずっとボクの邪魔ばかりしてやがったんだ……!)
………………
アンミェルの回想、魔族の首領である魔王バンディエスの討伐に向かって渓谷を進んでいた時、リーダーで剣士のバウンデンが進行方向を指さす。
「待て、先を見ろ」
バウンデンの指差す先、そこには前脚が翼膜のある翼になった、トカゲのような魔物が群れをなしていた。
「ワイバーンの群れかぁ……ちょっと鬱陶しいし、アンミェルに罠張ってもらおうよ」
後方にいる魔術師のシエノンが、めんどくさそうに前方を睨む。彼女の魔法でもこの数を捌くのは厳しく、一網打尽にするためにアンミェルを使うことを提案する。
「まあいいけどよ、その代わりお前のスキル使わせろよ?」
「どーぞ、あたしの『偶像劇』、有効に使いなよ」
そう言われてアンミェルはシエノンの肩をポンと叩く。するとアンミェルの真横から彼女と同じ容姿の半透明の存在が現れた。
この世界の人間は14歳で神に祈り、力を与えられるという「神祈の儀」を行い、一人一人独自の『スキル』というものを与えられる。
シエノンのスキルは『偶像劇』、これは本人と全く同じ身体能力と魔力を持つ半透明の偶像を生み出すスキルである。
「よし、じゃあボクがコイツと囲うようにして投網の罠を張るから、合図したら攻撃してくれ」
「ああ」
バウンデンの返事を聞いてアンミェルが行動する。アンミェルが右側を岩陰に隠れながら進んで各地点に罠を張り、反対方向の隠れる場所の少ない方も半透明な偶像が罠を設置する。
そして、もう少しで完全に囲える状況となったその時、
「あ、しまっ……あだぁっ!」
急に足取りの重くなったアンミェルがすっ転んでしまい、ワイバーンの群れに気づかれてしまった。
「やばいですわ!急いで助けませんと!」
「攻撃するぞ!罠を起動しろ!」
「なにやってんの!『炎斧』《ビナティオ》!!」
パーティの存在に気づいたワイバーンが翼を広げて戦闘態勢に入る、それに対して咄嗟に盾士のラカニアとバウンデンが突撃し、それをシエノンが炎の魔法で支援する。
「クソッ!!」
顔を顰めながら身体を起こしてアンミェルが罠を起動する。投網は無事起動して飛べなくなったワイバーンをシエノンが魔法で仕留める。
「チッ!少し逃げた!」
「『虚空侵犯』!」
後方にいた聖女のエステルがスキルを使う、すると上空に耳障りな音と共に空間を割って白い円形に灰色の紋様が描かれた障壁が現れ、それがワイバーン達の飛行を阻害して行動制限をかける。
「今です!シエノンさん!」
「りょーかい!『偶像劇』で連携魔法よ!」
そう言って、シエノンが自分の偶像を作り出すとそちらが先に魔法を唱える。
「『水弾』《レキリオース》!」
「それに合わせて……『雷槍』《ドラギミス》!」
偶像が水の魔法を放ち、それでワイバーンを弱らせると、それに合わせてシエノンが雷の魔法を放ち水に濡れたワイバーン達を一網打尽にする。
「ふい〜なんとかなった、罠がしっかり張れればバウンデンがやっちゃってくれてたのに」
「違う!ボクがずっこけたのは……こいつのせいなんだよ!」
「ぐあっ!?」
そう言って、アンミェルが最後尾にいたレイルを蹴り飛ばす。
「てめえ!足引っ張ってんじゃねえって、何度言ったらわかんだよ!ボケェ!」
「だ、だって仕方ないじゃないか!僕の置換法は距離が離れると逆効果になるんだから!」
レイルのスキル『置換法』は、彼を中心にした一定のエリアの中にいる者の魔力や身体能力を平均化し、尚且つその者の長所は平均化された身体能力に上乗せされる。
しかし、このスキルは範囲外に出てしまうと、急激に元の身体能力に戻り、その反動が範囲外に出た者に返ってきてしまう。
「んだったら前に出ろや!ボクが危険犯して罠張ってんだからそれくらいしろよ!オラァ!!」
「ごふっ!?」
怒りのままにアンミェルがレイルに蹴りを入れると、彼の鳩尾に綺麗に入りもんどり打って倒れる。
「そんな事してるからアンタは案山子呼ばわりされるんだよ?ほら、せめてワイバーンから食えそうなの捌いて詰めて、雑用君?」
「まあまあ、彼のおかげで我々はここまで来たんですからそこまでにしませんこと?雑用もしてくれてるんですし」
「ラカニアさんったら……でもそれくらいは自分で判断していいと私は思うんですが……」
「なんでいいさ、アンミェルがボコったからもういいだろう」
そう言い捨てると、うずくまるレイルを立たせてバウンデンが歩き出す。ほとんど引きずられるように進むレイルを、いまだにアンミェルは睨んでいた。