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気付いたら周りが百合色になってた  作者: ノリあきさん
須藤さんと牧原さん
4/30

茹でった黒髪ロングが聖母な金髪ギャルに秒で蒸発してる話

「杏ー行こー」


「うん。じゃ、ごめんね、また」


「ううんっ、いいの。ま、またね!」


いつかのいい子と別れて、愛美と一緒にいつもの場所を目指す。

あの時女子グループから生贄に捧げられてきた彼女は、宮永さんというらしい。

あんまりな距離感だが、興味もなかった頃に比べたら十分進歩したと言っていい。私が愛美の他に名前を覚えるとは。

宮永さんはあまり強く出られないタイプなようで、茶髪を肩辺りまで伸ばしてゆるくカールさせて……何だったか、ハーフアップ?だったか。彼女の雰囲気に合っていて可愛らしい。

入学してすぐ大学のサークルの飲み会でお持ち帰りされそう。

しかし私は母性に飢えているんだろうか?愛美といい、宮永さんといい、何故かそういうタイプに惹かれてしまう。

……いや、何故もクソもない。一人暮らしなんだから、そういう温かさに飢えるのも納得だ。そう、母性欠乏症だ。


「難しい顔してどしたの?」


「してた?」


「してた。期間限定ガチャが来て結構回したのに出なくて追い課金するか迷ってる時ぐらい」


「それは悩ましいな……」


期間限定ガチャというのはとても難しい。まず前提において、日本人は期間限定に滅茶苦茶弱い。

そして天井まで後半分、でも今月はもうきつい、いや無理をすれば、いや復刻がいつか……そうやって思考がぐるぐる回る。

十全な資金があるとは言えない我々学生には、優柔不断にならざるを得ない難しい問題だ。何の話だ。


「それでー?」


「色々考えて、私は母性に飢えているという結論を出したわ」


「うん、知ってたぁ」


「……やるわね」


「ばればれー」と言って寄りかかってくる彼女は、廊下でもお構いなしに引っ付いてくる。もちろん注目される。

彼女はピンでもこの高校だと目立つし、おまけに隣に居るのが見た目正反対の私だ。肩に手を回されて縮こまっている私は、さながらヤンキーに拉致されるがり勉君のようだ。

だが私にはそんな好奇の目は効かないし、慣れた。というか多分見ているみんなも慣れた。そりゃそうだ。もう何か月だこうやってこの廊下歩くの。


「今日は何ー?」


「サンドイッチにしたわ。たまには私も軽いの食べたい」


「おーいいじゃん!交換しよ!」


「いいわね」


はー癒される。階段歩いてる会話だけでもう癒される。

最近私やばいな、と思っているのは家に帰った後のことだ。それまでは一人でも全然余裕だったし、というか煩わしい家族が居なくていっそ楽でもあったんだけど、この間何故かご飯食べてたら不意に涙出てきて超驚いた。

その日は妙に気分が不安定で、何故かくる(理由は正直わかってる)寂しさに身を竦めながら布団を抱きしめて眠った。次の日愛美に教室の中なのにいの一番に抱き着いちゃった。

滅茶苦茶落ち着いてそのまま寝そうになった。


「よい、しょっと」


ところで、この屋上の危険が危ないところに上るときには、いつも初めて邂逅した時と同じように引っ張ってもらっている。

したがって愛美がまず始めに上るのだが、その時に何というかまぁ、その、見えるのだ。

いやこれは不可抗力だ。だってそもそも愛美はスカートが短い。その美脚を周囲にどうだ私の足はとさらけ出している。

だから見えてしまうのだ。しょうがないのだ。必然的に見えてしまうのだ。今日は赤のえっちぃやつだぁ。ハッ、私は一体……


「ほら、おいでー杏」


しかも上から屈んで手を伸ばしてくれるから第二ボタンまで開けた制服の首のところから見えるんだ谷間が!!

しかもその豊満なバストで受け止めてくれるんだぞ天才か?なんだこのアトラクションは毎時通うぞ私は!!!


「ほっ!」


「はい、おかえりー」


その豊満な双丘で私の顔面を受け止めた愛美は、そのまま後ろに倒れこむ。僅かに汗の匂いが混じったホワイトムスクが、私を包んでいく。


「……はっ!今天国の爺さんが手を振っていた……」


「んふふ、杏は面白いねぇ」


「いや、これは多分全人類が死んだ祖先と対面できる唯一の手段だと思う」


「杏は面白いねぇ」


「ほら、食べよー?」と愛美が私のサンドイッチを渡してくれる。ありがとう、好きだ。いい子は好きだ私は。


「おいでませー」


「失礼いたす」


「ごゆるりとー、んへへ」


あーかわいい。柔らかい。これだよこれ。ビールには枝豆、喉には龍角散、私には愛美だ。

早速もたれかかって、サンドイッチを取り出して頬張る。外は多少風はあるが普通に夏で正直暑いが、背に腹は代えられない。この心が休まるひと時は、誰にも縛られたくない。


「あー卵サンド!ちょうだーい」


私の肩口でひな鳥のように待つ愛美はそりゃもう愛おしい。可愛いものは愛でる。誰だってそうだ。


「ほら、あーん」


「あー……ん!んー♪」


ほらな?可愛いだろ?これウチの嫁。やらんぞ。


「美味しい!これ手作り?」


「まぁ、そう。正直サンドイッチに手作りも何もない気がするけど」


挟んだだけだし。


「えーあるよー。愛情とか?」


「今現在進行形で身体から滲み出してるとこ。全身で感じて」


「わーい!」


ぎゅーと抱き着かれると、もうとろけそうになる。いや、本当に溶けてるんじゃないか?だって足の感覚がないぞ。いやこれは痺れてるだけだ。

余りの尊さに自然と正座になっていた。痛い。


「こうしてると温かいけど……暑いねぇ」


「私もいま極楽浄土に居るけど……確かに暑いね」


いや、それにしても暑い。今日は何度なんだ?なんか朝見たニュースだと30……

もう季節は猛暑と言って差し支えなく、そういえば日中はあまり外に出るなと朝のHRで先生が言っていた気がする。

あれ、これ大丈夫か?大丈夫じゃないわ。

ゆでった私の頭が最後に冷却された。ギリギリ熱暴走を抑えることができた。熱中症はまずい。


「……ごめん、降りよう。今日は……というか夏休みまでは屋上は禁止にしよう」


「えー!なんでー?えみちん要らなくなっちゃった?」


「超要る!!!でも熱中症が心配なんだ。もしこのせいで倒れて後遺症が残ったりしたら私は耐えられない」


万が一入院なんてことになったらそこに寝泊まりしなければならない。私のせいだから。私のせいだからね。


「んー、それもそっかぁ。確かに暑いし、杏のことも心配だしぃ」


「私?私は愛美といるときはいつも熱中症だぞ。むしろねっちゅうしょうだ。ところで熱中症とゆっくり言ってくれないかしら?」


「えぇー?ねぇっ……ちゅぅ……しょぉ……?」


「しぬ」


「わぁー死なないでぇ!」


アホなことをやっている場合ではない。なんか本格的に頭がくらくらしてきた。これは熱中症なのか?それとも愛美の必殺技のせいか?

ただでさえ腐った私の思考が、より一層発酵されていく。まずい、まずい。このままでは本当にちゅーしてしまうぞ。やりますよ私は。


「今日は抱き着き回転無し!各自ささっと降りよう!」


「わかったぁ」


颯爽と愛美が降りると、私も続いた。ああ、さよなら、私のオアシス……明日からどうすればいいんだ……

廊下に戻ると、冷房が利いていて滅茶苦茶に涼しい。ああ、文明の利器……私のオアシスにも設置してくれ……


「涼しいな……」


「ねー。涼しすぎて、ちょっと寒いぐらい」


さっきまで猛暑の中にいたせいか、寒暖差からどっと汗が噴き出してきた。というか汗が冷えて寒い寒いさむい!


「いやこれすごい寒い。保健室でタオル借りよう」


「さんせー……うひゃあ、身体が冷たいよぅ」


「うぐぐ、いつもならくっついて暖をとるんだけど……」


「多分悲惨なことになるよねぇ……それに、恥ずかしいし」


「恥ずかしい?」


「だってぇ……今絶対汗臭いもん、あたし……」


顔を赤らめてもじもじする愛美はそりゃもうクソ可愛い。

その時の私の顔を見せてやりたいね。絶対この高校の面接の時より真剣な顔をしてたね。間違いなく。


え?そのあとどうしたかって?そりゃ、もう……




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