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気付いたら周りが百合色になってた  作者: ノリあきさん
橋本さんと秋山さん
26/30

中庭の二人

 

「おかえりー。おりょ?一人?」


「そう~。のぼせちゃいそうだったから先に上がったんだ~」


「ほーぅ?」


 真奈にキスしちゃって、あの場でもうこれ以上顔を合わせられなくなって、一人でみんなが居る部屋まで逃げ帰ってきた。

 咄嗟に出たのぼせたっていう嘘は、ゆまちん以外には多分バレてる。こちらを見る顔がもうそう言ってる。普通に心配してくれているゆまちんには少し申し訳ないな、と思うけどここは許してほしい。


「涼むんなら、ちょっと中庭に行ってみたらどうかな?ご飯がもうすぐ出来るそうだからあまり長くは居れないけど」


「前と変わってないなら、いい感じに星も見えるしオススメだよー」


 真奈と顔を合わせ辛い私にとってこの提案は渡りに船だ。正直今でも思い出したら顔から火が出そうだし、少し頭を冷やして落ち着きたいのは本当だったから素直に乗らせてもらう。


「ほんと~?じゃあちょっと行ってみるよ~。迷っても頭は冷えるってことで、適当に探してみる~」


「もし場所がわからなくなったらその時は電話してねー」


「ありがと~」


「いってらっしゃい」




「なんかあったね、あれは」


「そうですよね?私、のぼせているようには見えませんでした……」


「上手く着地してくれるといいんだけど」


「ねー。結果はどうあれ海とか行くときには気兼ねなく話せるようになっててくれると嬉しいなぁ」


「あんなに仲が良かったのに、ぎくしゃくしたままなんて悲しいですもんね……」


「それに何か変な気使っちゃって気軽にイチャつけないし」


「そこなんだ。というか今まで使ってたか……?」


「……ただいま」


「お、噂をすれば」


「おかえりー」


「あれ……凪は?」


「頭冷やしてくるって中庭に行ったよ」


「中庭?そんなんもあんの?ここ」


「ミニ庭園みたいな感じかな?……どうする、行くかい?ご飯はちょっと待ってもらえるから」


「……行ってくるわ」


「……」


「そんな顔しないの、由真。大丈夫だから」


「橋本さん……」


「それ。『橋本さん』って言うの禁止。もうそんな余所余所しい間柄じゃないでしょ?もっと気軽に呼んで」


「……真奈ちゃん。行ってらっしゃい」


「ん」


「泣かせるなよー?」


「あんたは気軽すぎ。じゃ」


「……だいじょぶそうかなー」


「ですね!」


「はぁ、全く手間のかかる」


「うん、君何もしてないよね……」




 ゆまちん達に見送られて、中庭を目指す。迷うことを示唆されたけど、出てすぐ近くの壁に案内板が張られていて、道や場所はすぐにわかった。

 静かな夜を歩きながら、さっきのお風呂での事を思い出す。


「真奈……」


 真奈が偏見を持ってないって知って、いてもたってもいられなかったと言うか。体が勝手に動いたと言うか。我慢出来なかったと言うか。気付いたら真奈の綺麗な瞳が目の前にあって、唇がくっついていた。

 もしかしたら自分がその対象じゃないからっていうだけで、偏見がないってだけかもしれないけど。それでも嬉しくて。もうこれ以上離れたくなくて、彼氏探しなんて、して欲しくなくて。


「いいところ……」


 そんなことを延々と考えながら歩いていたせいか、気づけば別荘の中庭に着いていた。入口に置いてあったクロックスを拝借して整えられた砂利を蹴る。吹き抜けになった中庭から見える月と砂の優しい音が、否が応でもノスタルジックな気分にさせる。風も程よく涼しくて、なるほどいい場所だ。


「ふぅ……」


 小さな池のそばにあったベンチで休みながら、暫くその水面に映った月をぼんやりと眺める。

 段々冷静になると、取り返しのつかないことをしてしまったという思いが浮かび上がってくるけど、ここで日和っていると先には進めなかったと自分を納得させた。そう、今までみたいに見守るだけでは、もう駄目だったんだ。


 ざっざっ。

 自分の想いを再確認していると、誰かが中庭の砂を蹴る音が背後から聞こえてきた。もうご飯が出来たのかな、それで迎えに来てくれたのかなと思い振り返ると、


「凪」


「……真奈」


 なんで。なんで真奈が来たの!?いや嬉しくないわけじゃないけど、そうじゃないけど!あんなことがあったのにわざわざ真奈が迎えに来ることないのに!


「どうして……」


「ここ、いいとこだね」


 そう言って私の動揺も気にすることなく、「隣いい?」と私の座っているベンチに腰かけた。

 迎えに来たわけでは、ないらしい。


「……そう、だね。星は良く見えるし、月は綺麗だし、落ち着くよ~」


「ね。……凪、さっきのことだけど」


「いいの、忘れて」


 心にも思ってないことが、勝手に口から発せられる。本当は忘れて欲しくなんかなくて、私のことを意識してほしいと思っているけど、今更傷つきたくない弱い私が顔を出して咄嗟に返事をしていた。けど、


「忘れない!……正直、凪のことそういう目で見たことなかったし、今すぐには答えなんて出せないけど。……でも忘れたり、適当に誤魔化したりなんかしたらあーしは絶対後悔すると思ってる」


 真奈は真剣に考えてくれて、私が欲しい言葉を言ってくれて、


「だからあーし、逃げないから。凪も逃げないでよね」


「……」


 ああ、好きなんだなぁって想う。


「……逃げないよ。もう、真奈のことで私も逃げたくない」


「凪……」


「それに好きな人の頼みなんだもん。反故にできるわけ、ないよ」


 そう言って隣の真奈に笑いかける。すると私を見た真奈は何かに耐えるように顔を少し歪めると、視線を前に向けてぽつりと言う。


「……ごめん、今まで」


「も~、なんで謝っちゃうの」


「最近のあーし、凪のこと蔑ろにしてた。凪の想いにも全然気づかなくて、辛い思いさせちゃってた」


 ……ああ、もう。


「……いいんだよ。私が自分から離れてたんだし、勝手に想ってただけなんだから。真奈がそう思うことなんて何も」


「思うの!凪はあーしにとって大切な、大切、な……」


 言い淀んで俯く真奈に、こう思うのは変かもしれないけど、嬉しくなる。本当に真剣に考えてくれてるんだって、私が真奈の中で大きな存在になれてたんだって。

 だから、これぐらいは許してくれる?


「……」


「凪?」


 勇気を出して隣に座る真奈の肩に頭を乗せて、寄りかかる。


「待つことには慣れてるから、ゆっくり考えてくれると嬉しいな。大丈夫、どんな答えになっても私は受け入れるから」


「凪……ありがとう」


 寄りかかった私の頭を撫でて髪を梳かす真奈の手は優しくて。幸せで思わず寝ちゃいそうになる。


「……私こそ、だよ」


 まだ答えは貰っていないけど、それでも私を受け入れてくれて。

 ありがとう、真奈。



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