橋本さんと秋山さん 3
佐藤に振られた翌日。あーしは注意されたにもかかわらず、友達と恋人は別腹だからとあがいていた。
「……ねぇ、出会い系ってホントに会える?」
須藤がトイレに行ってるその隙に、そういう話の噂が多かった牧原に聞きこむ。
すると意外そうに牧原は片目を吊り上げて、
「ふーん?何、興味あるのー?」
「いや、ちょっと出会いが欲しいってか、彼氏欲しいなって思って」
「ふんふん。まぁ結論から言うなら。余裕で出会えるよー?こっちは女子だから、需要しかないからねぇ」
言われて納得する。確かに、出会ってヤりたいなんて思うのは男が大半か。いや、偏見か?
「もう入れ食いフィーバーだよ。ピンキリってかほぼキリだけどー」
「ダメじゃないの……」
「そんなもんそんなもん。そっから良さそうなのを見分けて、メッセでやり取りして、ある程度相手が知れたらリアルで出会う感じ?まぁ正直橋本さんにはお勧めしないぜ」
最近のあーしって、何が向いてんの?と思う。やること成すこと全部お勧めされないんだけど。
「……やっぱり?」
「うん。絶対痛い目見る。橋本さん見た目良いし、絶対狙われる。……ね、焦ってる?」
ここまで言い当てられるんなら、もうあーしがわかりやすいってことでいい。
意気消沈しながら頷いて、うなだれる。
「それ、前にも言われたわ……」
「やっぱりー。男関係ってか人間関係なんて、焦ってもいいことなんかないよー?なんか最近例外があった気もするけど、あれは焦ると言うかお互い決断が早かったと言うかぁ」
「由真たちのこと?」
確かに、凄いスピードで距離を詰めていた印象だ。というか実際早い。初めて会ってから一週間も経ってないんじゃない?
「そそ。でもあそこが上手く行ったのは、お互いが思いやってたから。出会い系を否定するわけじゃないけど、それよりよっぽど尊いものだと思うなぁ」
「そうだ。由真は尊い」
「あ、杏ぅ。おかえりー」
少し話が長くなってしまったからか、須藤が帰ってきてしまった。トイレに行っているうちに話を終わらせてしまいたかったが、来てしまったものはしょうがない。
「ただいま。さて、橋本さん。とあるツテから聞いたんだけど、貴女焦ってるらしいね?」
「もう耳タコよ……あーしと話す人全員に言われてる気がするわ」
「ふーむ。では短く端的に行こう」
得意げに指を立て、もう片方を腰に当てて須藤は言った。
「よく考えることだ」
「……それだけ?」
「それだけ。考えなしに付き合うと、最悪私みたいになるぞ」
私みたいに?……あっ
「おいで、杏」
牧原に呼ばれた須藤は、最近見慣れたいつもの定位置に腰を下ろした。膝に乗せた須藤を後ろから、牧原が抱える。
そういえば以前、噂が出回っていた。須藤はすぐヤれるだの何だのと、悪趣味だからと殆ど聞く耳をもたなかった(関係ないし)けど、そうか。須藤は、深く考えずに付き合ってみて後悔をした、謂わばあーしの未来の可能性の一つだ。
「私みたいにって……あの?」
「そう。最終的に男性恐怖症からの人間不信になるぞ」
「……」
「大げさに言ったけど、まぁそんな感じになるよ。私は愛美のお陰で克服出来たけど、この子が居なかったらきっとまだ死んでた」
普段、ふざけているばかりの須藤だけど、少し前までは教室の隅で、いつも外を見ていた。
声に表情はないし、休み時間に友達と話している姿もみたことはなかった。
忘れていた。
「勿論、橋本さんがそうなるとは限らないけど。でも、ちょっと今の自分の周りを見てみるのもいいんじゃない?秋山さん、最近一緒に居ないし」
「……あっ」
そういえば、あれだけ一緒に居た凪が最近、あまり一緒に居なくなっていた。
朝は一緒に登校するけど、会話はあまり弾まないし、休み時間もあーしが彼氏づくりとかに奔走してまるで話せていない。
「ね。てかそんな彼氏探しなんかよりさ、私たちと遊ぼうぜ?折角夏休みなんだし川とか海とかプールとかさ」
「そーそー」
「泳ぐのばっかね。……てか、そんなに仲良かったっけ、あーしら」
「いいじゃん細かいことは。いつまでも友達の友達っていうのも辛いもんだし」
「……変わったね、あんた」
「ふっ、何時までも子供じゃ居られないのさ」
「適当だねー」
でも、大切なことに気づけたかもしれない。そこは感謝してる。
じゃれ合う二人を呆れた目で見ながら、心の中で深くお辞儀をした。
「秋山さん」
「お?ゆまちん~どうしたの~?」
「えっ、と、その……秋山さん、最近橋本さんと一緒に居ないなぁって思って」
「え、そうかなぁ~?……まぁそうだとしたらきっと、今までが一緒に居すぎたんだよ~。私が近くにいすぎても、真奈は自由に動けないでしょ?迷惑かもって思ってさ~」
「迷惑……そう、なのかな……」
「私がしたいことだから気にしないで~……そんなことより~、ゆまちんはど~お?荒木さんと良い感じ~?」
「う、うん。一緒に居ると落ち着いて、安心するんだぁ。でもドキドキもしてて、なんだか不思議な気持ちになるの」
「むむ、それは不思議な気持ちですなぁ~。荒木さんといるゆまちんの心は忙しそう~」
「そうなの!日向さんと居ると――」
……いいんだ。私は。
真奈はきっと、彼氏を作る。今は焦って上手く行ってないみたいだけど、真奈は可愛いし、優しいいい子だし。落ち着いて腰を据えたら、あっという間に捕まえる筈だ。
そんな時に私がそばに居たら、きっと真奈は私に構ってくれて、自分のやりたいことが出来なくなっちゃうんだ。だから、これでいい。
それに、真奈の彼氏がもし上手く出来たとして……私はきっと、近くに居たら、冷静でいられないから。
だから、真奈がしたいことを遠くで応援することしかできない。
でもいいんだ。私は真奈が幸せになってくれれば、それで……




