橋本さんと秋山さん 1
荒木と由真が付き合い始めた。
あと少しで夏休み、という良いタイミングで由真が(性別はさておき)最高級の恋人をゲットしたということだ。
「ね、荒木さんとはどう?いい感じ?」
正直、羨ましいと思う。背中を押したのは確かにあーしもだけど、まさか由真に先を越されるとは……という思いがどこかにあったんだろう。最低だし失礼だけど、負けた気分になる。
「うん。優しいし、かっこいいし、可愛いし、私もちょっとは家事とかで力になれている気がして嬉しいんだ」
笑顔でそう言う由真はあーしなんかと違って純粋で、いい子だ。きっとあーしがこんなことを思ってると知っても、許してくれるんだろう。そんなことを考えている自分が、嫌になる。
「そっか……よかったじゃん。付き合えて。あーし達が背中押した甲斐があったって言うか」
「うん。本当に橋本さんやみんなのお陰だよ!ありがとうね」
「……あー、あーしも良い人早く見つけたいなー」
本当に、嫌になる。
「橋本さんなら、きっといい人が見つかるよ!だって、私を引っ張ってくれた、いい人だもん!」
「いい人……か。由真がそう言ってくれるなら、そうなのかもね」
ネガティブになった自分を自省する。折角結ばれて幸せ全開の由真を、あーしのネガティブで引きずるわけにはいかない。
気持ちを切り替えようと表面に出さず四苦八苦していると、丁度いいタイミングで話に割り込んでくれた奴らが居た。須藤と牧原だ。
「ほーう?宮永さん、調子よさそうだね」
「日向は失礼してないかなー?」
「あ、須藤さん、牧原さん!その節はありがとうございました!すっかり元気です!日向さんはもうとってもよくしてくれて……夏休みも、その、マンションへ行って家事なんかをやろうかなって思ってて……」
「え、何、通い妻?」
「というか、住み込みと言うか……」
「わーぉ大胆。あのゆまっちが超押せ押せだぁ」
「ホントね。でもま、よかったわ。そんな人が由真に出来て」
「えへへ。それでね、もしかしたら一緒のベッドで寝ちゃったり……」
言いながら頬に手を当ててイヤイヤと照れる由真は、それはもう可愛い。
そんな可愛らしい期待の声にほっこりしていると、それに謎の対抗をし始めるのは当然須藤で。
「ぬぬ。私たちだって負けていないぞ!愛美、私たちも夏休みは一緒に暮らす!」
「えー大丈夫ー?」
「いずれそれが当たり前になるんだから、慣れるなら早い方がいいに決まってる!……さて、宮永さん。どっちがよりイチャイチャ出来るか勝負だな」
「ふぇっ!?そ、そんなことで勝負なんてできないよっ」
「とか言いながら、まんざらでもなさそうじゃんー?」
「にまにまですなぁ~ゆまちん」
恥ずかしながらも楽しそうに須藤たちと話している由真は幸せそうで、やっぱり羨ましい。
もう夏休みも始まりそうで、その前になんとか恋人を作らなきゃ。みんなに置いて行かれてしまう。女子高生が夏休みを一人寂しく、なんて許されない。多分目一杯遊べる最後の夏休みだし、折角ならちゃんと高校生らしいことをしなきゃ……
「……」
考え込んでいるのがバレたのか、少し遠い目で由真たちを見ていたあーしに凪が声をかけてきた。
「どしたの真奈、考え事?」
「そんなとこ」
「ふ~ん……あ、もしかして~……自分だけ恋人居なくて、焦ってる~?」
「……鋭いわね」
相変わらず、凪は鋭い。あーしが顔に出やすいだけなのかわからないけど、昔からあーしが何か考えてたり、悩んでいたりするとそれをズバリ言い当ててきた。以前なんでそんなにわかるの?と聞いたら、「ふふ~ん、真奈のことだからね~」などとはぐらかされてしまった。
「お、ほんとに焦ってる?」
「……ちょっとね。須藤と牧原はどう見てもラブだし、由真もかっこいい人見つけたし。あーしも恋しなきゃってなってねー……あ、そういえば凪はどうなの?」
そういえば、凪のことはあまり聞いたことはなかったっけと思い出す。そういった色恋の話は今までやってこなかった。そう思うと単純に気になってくる。
「え~、私~?……私はね、実はいるんだぁ。好きな人~」
「え!?うそ!」
全くそんなそぶりを見せないから、寝耳に水だった。思わぬ友人の秘めた想いの矛先が気になって、まくしたてる。
「いつから?どの人?かっこいい?」
「ど、どうどう、真奈~。……うーん、そうだなぁ……カッコよくもあるし、可愛くもあるかな。いつからとかそこら辺は秘密~」
「む、超気になる……」
「へへへ~」
いけない。これではもしかしたら凪にすら置いて行かれるかもしれない。なんとかしてあーしも恋人をゲットして、夏休みを満喫せねば!
夏休みの予定の話で盛り上がっている友人たちを尻目に、一人決意を固めたのだった。