ばったり出くわす二人
朝にみんなに勇気をもらって自信を持った(と思いたい)私はその放課後、決意を新たにおつかいに来ていた。
帰りに買ってきてほしいと母から連絡があったので、家の近くのスーパーに寄ってお買い物、というわけだ。
「……」
送られてきたお買い物リストをぼんやりと眺めながら、書かれているものを籠に入れていく。
それにしてもびっくりした。まさか、また会えるなんて。それも次の日に。
しかも荒木さんから会いに来てくれたことが、正直舞い上がってしまうほど嬉しかったのは秘密だ。
もう絶対、好きになっちゃっている。
「はっ、駄目だだめだ。お買い物しないと」
心ここにあらずな気持ちを引き締めて、お買い物を続ける。
そうして、買い溜めをしておく為に寄ったレトルトコーナーに居た後ろ姿に、全身が緊張した。
「……あれ、宮永さん。奇遇だね」
「……は、はひっ」
ど、どうしよう、なんで荒木さんがここに!?
「宮永さんもお買い物?何だか随分多いね」
「あ、は、はい、あの、お母さんに頼まれておつかいに」
想いを自覚したら、唯でさえかっこよかった荒木さんがもう5割増しで綺麗に見えてくる。
朝よりもっと挙動不審になって、上手く顔が見られなくなる。うぅ……!
「そっか。宮永さんはえらいね」
「そ、そんなことないですっ」
心の中で、不意に浮上してきたイメージ須藤さんが「もうなんでも褒めるじゃん」とツッコんで、少し落ち着いた。
荒木さんもレトルトコーナーに居るということはそういうものを買いに来たのかな?と思って彼女の手にした籠を見ると、そこには大量のレトルト、カップ麺、レトルト、カップ麺……
ふ、不健康すぎるっ!
「ところであの、荒木さんのそれって……」
「ん、ああこれ?いやぁ、自炊って思ったより難しくて面倒でね。気付いたらこういう物が手放せなくなったんだよ」
「……!」
……こ、ここだ。私が勝負を仕掛けるとしたら、ここ!
私が胸を張って言える、私の得意なこと!
「……じゃ、じゃあ、私が荒木さんにご飯を作っても、いいですか!?」
「え……宮永さんが?」
私の提案を受けて、目を点にする荒木さん。どうしよう、嫌じゃなければいいんだけどっ。
「はい。……駄目、ですか?」
「いや、全然!……寧ろ嬉しいよ。いいのかい?わざわざ」
「大丈夫です!私が、荒木さんに作ってあげたいから」
勇気を振り絞って、荒木さんの綺麗な目を見てお話しする。
荒木さんは何を思ったのか空いた手で顔を覆って俯くと、意を決したように顔をあげて籠に入ったレトルト商品を棚に戻していく。
「あ、荒木さん?あの、何を……」
「……君が、作ってくれるんだろう?迷惑でなければ、私は今日の晩、宮永さんの料理が食べたいんだ」
「えっ、今日、ですか!?」
突然の提案に驚く。てっきり約束だけで実行するのは後日かなぁと思っていたのに、今晩直ぐなんて!
……いや、これはきっとチャンスだ!この機を逃したら、ぐだぐだと引きずって段々自信を無くしていく私が簡単に思い浮かぶ。それじゃあ、私の背中を押してくれたみんなに情けない!
「どう、かな?」
「……はい、わかりました。今日、作りに行きますね!でもごめんなさい。この買い物は終わらせないと……」
「あ、そこは任せて」
そう言うと荒木さんは私が持っていた籠を奪うと、隣に立ってこう言った。
「私も着いて行くよ。荷物持ちくらいは任せて欲しい」
え、そ、それって私の家まで来るってこと!?
混乱する私に、荒木さんは畳みかけてくる。
「それに、宮永さんのご家族も気になるし、ね」
「あ、わ、う……!」
「ご両親に挨拶!?」と内なる須藤さんがツッコむ。こ、これってそういうことなの!?
「ほら行こう、宮永さん。買い物は後どれぐらい?」
「あ、えっと、あとは荒木さんが持っているレトルトで、全部です」
「お、丁度いいね。じゃあすまないけど、私がカップ麺を返すまで少し待っていてくれないか?」
「い、いえ、着いて行きますっ」
「そうかい?じゃあ、行こうか」
「はいっ」
ど、どうなっちゃうんだろう私!?いや、やることは帰って荒木さんにご飯を作ってあげるだけなんだけどっ!
「あ、そうだ」
「なんでしょうかっ」
「晩御飯って言うのは、その……私の家で作ってくれるってことでいいかい?」
「そのつもりでした!あ、でも食材とかありますか……?」
「食器や調理道具は一式あるけど、そっちは正直全然ないんだ。ごめんね」
「ど、どうしましょう」
「……よければ、こういう感じで君のお使いを済ませた後、またここで買っていきたいな」
「あ、いいですね!楽しそうですっ」
「そう言ってもらえてよかった」とほっとしたように言う荒木さんを見て、何だか癒された。
放課後にスーパーで食材を一緒にお買い物なんて、まるで、まるで……
(ひゃー!)
想像した二言に、自分で悶絶してしまう。
期待と不安を膨らませた私を伴いながら荒木さんは手早く用事を済ませ。
一緒に帰るという私にとっての一大イベントへ繰り出すのだった。
でもそれは布石。今日の本番はまだ残っている。
「……」
隣を歩く荒木さんを密かに伺い見ながら、私はドキドキしている胸を何とか落ち着かせようと四苦八苦するのだった。