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気付いたら周りが百合色になってた  作者: ノリあきさん
須藤さんと牧原さん
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恋愛いらない黒髪ロングが優しい金髪ギャルに秒で堕ちる話

恋ってなんだろう?

みんな当たり前みたいに誰々が好きって付き合って、そんでそのまま続くこともあれば、破局することもあって。まぁ大抵最初の人とそのままーなんてことはないんだろうけど。そんなみんなを好きだねぇって外野から眺めてた。



ある昼休みに男子に屋上に呼び出されて嫌な予感はしていたけど、やっぱり思った通りだった。


「好きです!付き合ってください!」


彼の微かに震えている手からは、勇気を振り絞って私に告白していることが読み取れる。


「……どうして、私を好きになったの?」


でも申し訳ないけど、私に付き合うつもりはない。まず彼とはそこまで親密というわけでもないし、というか碌に会話したことすらないし。


「それは……ほら、よく話してたし、陰のある感じがなんかいいなって前から思ってたんだ」


いや、大して話していないぞ。


「そっか……でも、ごめんなさい。恋愛なんてわからないし、誰とも付き合う気がないから」


でも申し訳ないけど私には「好き」がわからないから、付き合わない。正確には恋心が、だけど。

思春期になって、他の子たちが恋バナをするようになってもまるでついていけなかった。当時の友達は好きだったけど、それは多分恋の「好き」ではない。

実は以前、告白されて一度だけ付き合ったことがある。

付き合っていくうちに段々とその人が好きになることがあると聞いて、興味本位でOKした。まぁそれが間違いだったんだけど。

なんとびっくり、そいつは押せば行けると思ったのか私に強引に詰め寄ってきて、あろうことかことに及ぼうとしてきたのである。

私は咄嗟の機転を活かして、その無防備に垂れ下がっていたソレを蹴り上げて一命を取り留めたものの。その出来事は私を男女関係、というものから遠ざけるには十分だった。獣だあれは。


「そっ……か。ごめん、時間とらせたね」


私を屋上に呼び出した彼は、前の男と比べてもかなりいい人なようだ。何より潔いし、諦めも早い。

いい人は好きだ。あくまで人間として。


彼も不運だったと思う。よりによって私が相手なんて。勝算は、最初からなかったのだ。


「いいよ。すぐ終わったしね」


「はは、そうだね……じゃあ、また」


苦笑いを浮かべて彼は屋上から去っていった。幸い昼休みはまだあるから、持ってきた弁当を食べるとしよう。

告白されて正直陰鬱な気分だが、程よい天気に温度の中で腹を膨らませば、多少は気もまぎれるかな。

屋上は幸い私たち以外には人は居ないようだし、折角だからここで頂こうかな。


「ねぇ」


風呂敷を開こうと屈もうとするときに、不意に上から声がかかった。誰かが、居た。

ここは屋上なのに上?と思って振り向くと、先ほど彼の出て行ったドアの上(この入口が組み込まれた部分は何て言うんだ?)に綺麗な金髪が見えた。

綺麗に染まっているのか、太陽の光が反射して輝いている。


しかしそこは危険だろう。あそこには柵がないから、外に落ちたらそれでおわりだ。


「危ないよ」


「んー?大丈夫だいじょーうぶ。そう簡単に落ちないから」


金髪の彼女はずいぶんとお気楽らしい。私は止めたぞ。

ぼやっと眺めていると、彼女はこちらに身を乗り出してこんな提案をし始めた。

私は大きな胸が少し苦しそうだな、なんてくだらないことを考えていた。


「ね、こっちきなよ」


「え?」


「シケた顔してるからさー。きもちいいぜー?ここ」


「……」


そう言って私を命の危険に晒そうとする彼女は、確かに気持ちがよさそうだった。

濃すぎない化粧が映えるぽやぽやした顔は、私より随分悩みがなさそうに見える。

……そこへ行けば、何か違う色が見えるんだろうか。


「どうやって?」


「ドアノブに足かけて、ちょちょいっとね」


「わかった」


言われて素直に足をかけようとする。……が、ドアノブの位置が高いことに気づいた。これでは上がれない。

ここから見ても私より身長が高いらしい彼女と比べて、私の体は些か小さい。


「ねえ、足が届かない」


「あーそっか、じゃあジャンプしてドアノブに!あとはあたしが引っ張ってあげる」


「……それ大丈夫なの?壊れない?」


「あたしが何回もやってるし、大丈夫でしょ!壊れたらその時!」


笑顔がまぶしい。私にはないものだ。その顔が今日の天気より眩しくて、少し目を細めた。


「弁当、先に受け取っておいて」


「おっけー」


伸びてくる手も、私とは違う。飾った爪、細い指。……いや、指は私も細いか。


「……いくわ」


「よしきた!」


助走をつけて、飛び乗る。


「よい……しょおぉぉぉ!」


「わっぷ!」


差し出された手をつかんで、思いっきり引っ張られると、柔らかいクッションが顔を覆った。

いや柔らかいな。それにいい匂いもする。下で見ているだけでは匂いまではわからなかったが、柔らかそうなのは保証済みだったので期待通りだ。

いや、ムッツリか私は。


「いちち……」


「ありがと、どくわ。……怪我無い?」


「そっちこそない?」


「おかげさまで」


鮮やかな金髪、着崩した制服、微かに香る香水、そして顔がいい。ここにきて思い出す。彼女は私のクラスメイトだ。

正直言ってクラスでは浮いているが、それは私も同じなので強くは言えない。

方向性は正反対だが、仲間と言ってもいいんじゃないだろうか?なんてな。


「ね、いいとこでしょ」


言われて思い出す。彼女ばかり見ていたが、そういえばここは学校で一番危険な場所と言える所だった。


「……いい景色」


「ねー」


危険ではあるけど、眺めもそれ相応に良かった。柵がないだけで随分と見え方が違う。

ふと、こんなことを思った。……立ってみるとどうかな。

そんな思考を身体が反映させたのか、気づけば私は立ち上がっていた。


「……は?流石にそれは危ないよ?」


「ここにいる時点で似たようなものよ」


「そうかなー……って!」


不意に風に煽られて少し足をとられると、隣の彼女が慌てて足に抱き着いてきた。

なるほど確かに危なかった。反省しなさい私の身体。

心で叱咤する私にしがみ付く彼女の目は不安で揺れていた。ごめん。


「ほら言ったじゃん!お座り!」


「犬か、私は……ありがと、ごめん」


「はー焦った……あたしが殺人犯になっちゃうじゃん」


「ふふ」


「ほら、早くご飯食べよ」


「あっ、そうだった。私の弁当は無事?」


「無事も無事。はい」


「ありがと」


大人しく座り込んで渡していた弁当を受け取ると、彼女の隣で広げる。

上がるときに勢いあまって私ごと後ろに倒れた彼女は、ちゃんと弁当を避けてくれていたらしい。気の利く人だ。


「いただきます」


「あたしも続き食べよー」


私は弁当を、彼女はパンをそれぞれ頬張る。


(悪くない)


シチュエーションは謎だが、いつもより美味しく感じる。

不思議に思いながらおかずに静かに舌鼓を打っていると、隣から声がかかった。


「そいえばさー、告白されてたねぇ」


「そうね。されたわ」


「んで断った」


「そう」


「なんで?」


「恋愛感情がわからないから」


「ふうん」


「……正直、わからないでいいし、要らない」


「ほうほう」


「それに男はもうたくさん」


「……ほう?」


「猿ばっかりでうんざり」


「えー猿かわいくない?」


「私はそんなに寛容になれないわ……」


「まそれもそっかぁ。亮ちゃん優良物件だと思うけどなぁーセックスも乱暴じゃないし」


「え?」


「いい子だったよー?かわいかった」


「なに、あなた、前に付き合ってたの?」


「うんにゃ?」


「じゃあなんで?」


「付き合ってなくてもするでしょ、セックス」


「そう……なの?」


「あたしは趣味だけど。童貞って一杯いっぱいで可愛くて食えそうなら食ってるんだー」


「……可愛い、か?」


「あ、もしかして経験ない?」


「いや、あるといえばある?けどまぁ未遂かな。付き合った次の日とかに襲ってきたから撃退したわ」


「あーね。はずれ引いちゃったワケだ」


「そう、ね……はずれね」


ほのぼのと昼食をとっていたら、爆弾を何気なくぶん投げられた。

というか生きている世界がまるで違う。見た目の違いから分かっていたことだが、童貞を可愛いと食い散らかす彼女はもうレベル差がすごい。

というかなんなのだ?慈善事業か?ボランティアか?聞いたことないぞ私は。


「じゃあ、それがトラウマになって?」


「まあ、そんなとこ」


「おー、かわいそうにねぇ」


抱き着いてきた彼女は、「よしよし」と言って私の頭を撫でてくる。

繊細な手つきは気持ちよく、拒む理由もないためされるがままになる。

うーむ。まるで違う。程よい力加減で全くごつごつとしていない。気持ちがいい……

それに柔らかいし、いい匂いだ。碌に話したこともないのに、ひどく落ち着いている。

彼女から漂ってくるホワイトムスクの香りがそうさせるのか、気づけば身体を彼女に片寄らせていた。

左肩に頭を乗せて、忘れていた屋上の景色を眺める。


「……不思議だわ。初めてまともに話したのに」


「んー?」


「こんなにも落ち着く」


「きっと、今まで力入ってたんだよ。肩とかさ」


「そうなのかな」


「そうそう。元気出た?」


こんなに落ち着いて人とくっついたのは何時ぶりだろう。

一人暮らしだし、そんなに仲良い友達はいないし、男といたときは緊張してたし……

そう思っていると、なんだか無性に欲が出てしまう。相手が相手だからだろうか?

童貞を嬉々として襲う彼女だ。断られることはないだろう……いや、それは失礼だな。

湧き上がる感じたことのない欲求に、暫く身を任せてみようと思う。


「……もうちょっと」


「んー?ふふ、欲張りさんめぇ」


そういえば、ある国の研究で、女性は潜在的にバイかレズしかいないという研究結果が出ていたな、とふと思い出した。

男性と女性にそれぞれ同性の裸を見せて、性的興奮を云々する脳波を調べたところ、男性は全く振れない人がいたのに対し、なんと女性は全員が振れたらしい。


「前と後ろ、どっちがいーい?」


「……後ろ、かな」


彼女の声が、酷く甘い。垂れ気味の目が、ふにゃっと弧を描く。


「しょうがないなぁ。はい、どーぞ」


これは、いちころだ。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


「いらっしゃーい」


足を広げた彼女の胸に背中を預けて、密着する。

こうされるとよくわかるが、彼女は私より一回り大きい。すっぽりと埋まってしまった。

左腕が私の腰に回されて、右肩口からいい顔がぬっと出てくる。


「落ち着く?」


「……正月の実家の炬燵レベル」


「それ、誉め言葉?」


「これ以上ないくらい。なかったら生きていけない」


「……えへへ」


は?キレそう。内なる私が思わず悶絶した。

冷静になってみよう。

私は今日初めて話した属性が正反対な女子に、何故か後ろから抱き着かれながら屋上で昼食を食べている。

食べているのはいい。でも、抱えられているのは正直意味不明だ。現状を分析して、思わず口が止まる。

おかしい。何故私はこんなに動悸が激しくなっているんだ?


「早く食べなきゃ、時間なくなっちゃうよ?」


「っえ?あっ、そう、ね」


私の肩口で、形のいい唇がパンを食む。

しゃく、というレタスの音と、彼女の咀嚼音が右耳をダイレクトに突き刺してくる。

ちょっと待ってほしい。何をしているんだ私は?混乱してきたぞ。


「ごちそーさま!」


私が悶々としている間に、彼女は食べ終わってしまったらしい。

右手が空いた彼女は、自由になったそれを私の腰に回す。密着度が、上がる。


「……あ、ねぇ、ちょっと試したくなっちゃった」


「なに?」


「二人羽織!」


「あー……なるほど?」


「ね、やってみてもいい?」


「……いいけど、刺さないでよ」


どうやら暇になったらしい彼女が、謎の挑戦に挑もうとしている。

箸を受け取ると、私の眼下に展開されている弁当をのぞき込もうと前屈みにあああさっきより背中に胸が


「んー……ここ!」


「あむ。せいふぁい」


「にへへ、やった」


両手が自由になった彼女は私をぎゅーっと抱きしめて、「んー」とあろうことかほおずりまでしてくる。

私の気分は飼い主にやたらと可愛がられているふてぶてしい猫のようだ。

だからわかる。かの猫は別に嫌ではないから、振りほどいたりしないのだ。

手放す理由がない。


「……されるがままだねぇ」


「振りほどく理由がないわ。温かいし、柔らかいし、落ち着く」


「素直だねぇ」


「私の最たるものの一つね」


「……ふふ、こんなに面白い人だったんだね。教室ではいっつも一人でつまらなそうだったから。びっくりしちゃった」


「あそこでの私は、死んでる様なものだから」


所謂話しかけるなオーラを醸し出せているかは謎だったが、効果はあったらしい。

そんな私に気軽に話しかけてきた彼女が、気になった。


「どうして、こんなことをしてくれるの?」


「んー?してくれるって言ってくれるの?」


「そりゃ、元気づけてもらったし」


「嫌じゃない?」


「?ええ。どうして?」


「……あたしね、人肌恋しいんだー。くっついてないと寂しいっていうか、不安でさぁ」


少し声のトーンを下げた彼女は、人のぬくもりを求めているという。

「可愛い子限定でね」とまた頬をこすりつけてくる。


「だからかな、同じように寂しそうな子がわかるっていうか」


「じゃあ、私はあの時……」


「そそ。私基準で見てらんない!ってぐらいしょぼんとしててさぁ」


「……いい人ね、あなた。ビッチだけど」


「うぐぐ、喜んでいいのかわからない……」


「ふふ」


しょぼんとする彼女がかわいく思えて(いや既に可愛いんだけど)、思わず頭をなでる。

至近距離で目が合うと、彼女はにへら、と気の抜ける笑みを見せた。

……やばいかわいいぞおい。私の頬もなんかでろんでろんになるわ。

いや、これは誰でもこうなるだろう。全ての人類がムツゴ〇ウさんになる瞬間だと思う。


キーンコーン


「あっ予鈴」


「……もうか」


正直あのまま背中を預けて昼寝したいところではあったが、授業には出なければいけない。

食べ終わった弁当を片づけて、二人して這い這いで移動する。

「よっ」と言うと、さっきまでの極上のソファは先に軽々と降りてしまう。ああ。

すると、何故か上の私に向けて両手を広げて構え始めた。


「ばっちこーい!」


「いや、大丈夫?私小さいけど、一応人間だよ」


「考えがある!」


「ふ、不安……」


しょうがないので彼女を信じることにする。なるべく勢いをつけすぎないように飛んだ。


「ぎゅー!」


正面から飛びつく私から少しずれた彼女は、右腕でキャッチすると直ぐ左腕で支えてしがみつく私ごとぐるぐる回った。

目、目が。あとさっき食べた弁当ががが。

何回か回転して無事に着地できた私は、ふかふかのクッションさんと無邪気に笑った。

住んでいる世界がまるで違ったのに、気づけばすっかり仲良しになった。

そう思っているのが、私だけじゃないといいな。


「上手くいったね」


「自分でも驚き」


「おい」


「にへへ」


「超許す」


「許されたー」とはしゃぐ彼女は上がった息のまま、もう一度私を正面から抱きしめた。

私も、少し大きな背中に腕を回す。温かい体温が気持ちいい。


「恋愛なんてやんなくても死なないんだから、あんま気にしないようにねぇ」


「……うん、ありがとう」


「よし!」


そう言って頭をぽん、と叩くと、ゆっくりと彼女は離れていった。

そういえば最初はそんな話をしていたな……と、言われて少し経って思い出した。頭の片隅に追いやっていた。我ながらひどい奴だ。


「予鈴なったし、早くいこー」


「また、頼んでもいい?」


「んー?いいよぉー。可愛い子はいつでも大歓迎!」


朗らかに笑う彼女は、とても眩しく見えた。

その笑顔を見た瞬間の胸の高鳴りは、さっき飛んだせいにした。

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