第一話 転生人形
俺は何処にでもいる普通の高校生、不破優斗17歳。
東京都練馬区住みである。
そんな俺のことを一言で表すならクズ。
勉強なんて、出来やしない上にやる気すらゼロ。
寧ろ今高校に入れてること自体が奇跡だと言っても過言じゃないくらいだ。
せいぜい取り柄も運動神経かちょっといいだけで、それもクラスの上から5番目くらいという微妙な立ち位置。
これ以外にこれといった取り柄も思いつかず、母親に聞いたら「優斗は優しいから」の一言。
優しい?俺が?…あの母親は何を言っているのだろうか。
俺は他人の不幸を見て見ぬふりをするようなド屑だぞ、ド屑。
そんなやつのどこが優しいんだか…全く訳が分からない。
「よっ、優斗!」
「痛っ!…おい蒼依、それやめろって毎日言ってるだろ?」
こいつは俺のクラスメイトの桐生蒼依
一言で言うとバカ。この俺ですらテストで勝ててしまうレベルのバカ。
…このように、登下校中の俺の背中を毎日叩いてくる野郎でもある。
悪い奴ではないが、結構痛いのでムカつくものはムカつく。
ちなみにこいつ、実を言うと……。
「悪ぃ悪ぃ!…それよりさ、知ってるか?…最近この辺に通り魔が出現してるって話」
…割り込んでくるなよ。
「…あぁ、アレな。…いや、知ってるって言うか昨日のホームルームで言ってただろ」
「あちゃー! やっぱり覚えてた?…引っかかってくれると思ったんだけどなー!」
「うるさい。…俺がそんなバカに見えるか?」
「実際バカじゃん」
「お前が言うなお前が…」
とまぁ、このように毎日毎日他愛もない会話をしながら登下校する為仲が悪い訳では無い。
愛想はいいし、俺と違って良い奴だし。
…って……ん?ん?なんか前から走ってきてね?
おいおい嘘だろ?…こんな通勤中の社会人達が歩いてる街中を?
「…あのおっさん急いでるの?」
「いや……どうだろうな…」
……あれ?
…あのおっさん、なんか刃物持ってね?
…え、てことはあれが噂の通り魔?
…まじかよ、こんな時に遭遇するのか?
しかもこれ、このままだと標的蒼依になるじゃねぇか!
「…やば…!…おい蒼依!逃げるぞ!」
「はっ?!いや、なんで?!…このままだと遅刻すんじゃん!」
「いいから早く!!」
クソっ…。ダメだ、このままだと間に合わない。
どうするんだ?どうすればいいんだよ!
そんな風に頭の中で葛藤していると、通り魔は蒼依のすぐ側まで来ていた。
…そんな光景を目の当たりにした俺は、考えるより先に身体が動いていたんだ。
「っ……蒼依!」
俺は蒼依を突き飛ばす。
蒼依はそのままガードレールにぶつかってしまう。
…あぁ、きっと痛いだろうな。酷いことしたな。
そう考えていた次の瞬間、俺の横腹には痛く…そして、熱いという感覚が襲いかかってきた。
「うぁっ……!?」
あまりの痛さに、俺はその場に倒れてしまう。
その際、通り魔は俺の背中からナイフを抜いて走り去っていくのが最後に見えた。
……身体から血液が消えていく感覚を覚える。
段々と身体が冷たくなっているようだ。
「痛た…!…って…優斗?……優斗?!」
蒼依が俺を見て、慌てたようにハンカチで俺の傷跡を抑えつける。
…いや、もう遅いって。
なんとーなくだよ?なんとなくだけど、俺多分そろそろ死ぬからさ。
………ていうかそれ、お前のお気に入りの品じゃねえかよ。
そんなの死を待つだけの人間に使うだなんて無駄じゃないか?
「ーーーーー!!ーーーー!!」
あ…やべ。
…なにも聞こえなくなってきた。
いよいよ本格的にやばいかもしれないなぁこれ。
……まぁ、刺された瞬間から死ぬ気はしてたんだけどさ。
それも世界のためってやつ?…ほら、俺というクズを社会から消した。
……はぁ。
…………死にたくねぇなぁ。
漫画とかで見たみたいにさ、転生とか出来たらいいんだけども…。
無理だもんなぁ、そういうのって…。
「ぁ…………」
俺の意識は今消えた。多分、生命活動も消えた。
これが何を意味するかって?…簡単な話だよ。
【不破優斗】は死んだ。以上。
はぁ〜……マジで最悪。
俺こっからどうすればいいの?
………あ、死んでるからどうするもないか。
ハハハ!!……はぁ。
笑えねぇよ、ホントに。
………しかし俺の意識消えてるはずなのに俺はピンピンしてるな。
なんで?
…もしかしてこっからスキルとか手に入れちゃって、異世界でチート無双からのハーレム形成とか?!
…うんうん、そういうのも悪くない!…でも転生なんてできるわけねぇんだよな……。
……しかし腹減ったなぁ…朝ごはん抜いてきたからな…。
………起きるか。
「ん…………」
……見知らぬ天井だ。
しかし、本当に目を覚ませるとは思わなかった。
…ここは何処だ?俺は誰なんだ?
五感はあるらしい。
見えるし聞こえるし臭うし感じる。
味覚はまだ分からないが。
…ひとまず、そばにあった窓を使って俺は自分の顔を見る。
…え?……ん、はぁ????
なんだこれ。俺は誰?俺は何???
少なくとも人間じゃない。
……うん、分かってるよ。
これどう見ても俺…人ならざるものに転生してるね。
しかしそれとして種族がわからん。
感覚的にゴーレムとかスライムじゃ無さそうだし、悪魔とか吸血鬼のような高貴な感じもない。
じゃあ妖精とかエルフみたいな精霊系でもないし。
…いやどちらかと言えば人形に近いな。
でも人っぽさも無くはない。……なるほどそうか!
……俺はパペットだ、コレ。
要は人形ね、人形。
意思を持つ人形。
……は?よりによってパペットってマジ?
大体パペットってのは操られがちな下等種族だから転生先としてはだいぶハズレくじなんだよな。多分。
……とりあえず、俺は俺について調べさせて貰おう!
ー数時間後ー
「……なるほどな?」
調べた結果分かったことがある。
ひとつ、俺はこの世界では【ロキ】というとてもかっこいい名前を授かっているということ!
ふたつ、俺は【ニルヴァーナ】という職人がこの世界で初めて人形に生命を込めて誕生した世界初のパペットだということ!
わかることはこの位だな。
部屋を散策した結果、テーブルに日記が置いてあったんだ。
おそらくニルヴァーナさんの日記だろう。
……そこには、ロキというパペット…即ち俺の誕生した日について書かれてある。
2023年の12月29日に俺はパペットとして生まれたらしい。
この日は俺が刺された日ということになるから、多分ニルヴァーナさんは俺の魂をこの肉体…というか人形に封じ込めたのだろうな。
で、今は4326年。
軽く2300年は眠ってたのか俺…紀元後の人間の歴史より寝てるな。
まぁ…とりあえず!
「…腹減ったしなんか買いに行こ」
ニルヴァーナさんの日記って便利だな。
俺が食べ物を食べられるということも書いてあった。
如何せん、魂が吹き込まれる前の俺で実験してたとか何とか……。
そうして俺は、この世界の街へと飛び出した!
コレが俺とこの異世界との邂逅の序章である!
ーーー???ーーー
「………あれ。…もしかしてロキが起きたのか。…ふふっ…面白いことになりそうだね」
「…ニルヴァーナ様、如何なさいましたか?」
「……やぁやぁ我が執事モネ君!…以前わたしが作ったパペットの事を覚えているかい?」
「…ロキ様のことでしょうか?」
「そう!…ロキがね、遂に2303年と4ヶ月と2週間と4日と13時間と56分と2秒の眠りから覚めたのさ!…嬉しいことだよ、彼はわたしの実の息子のような存在だからね!…それに君も知っているだろう?……ロキはね…」
ロキの住む王国からは遠く離れたその地にて、ロキの目覚めを感じたロキの作者であるニルヴァーナは笑いを隠せずにいたのだった。
作者です。まぁ、最初の1話です。
皆さんもお察しの通りかと思いますが、この第1話は皆さん大好き【転生したらスライムだった件】を参考にしております。
というか参考にしすぎて死に方と転生先が魔物というのが同じですね。怒られないといいな。