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冒険者による風土記  作者: 疾風のナイト
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第5章 ~熱血コンビ~

冒険者となったディオン。一方、その頃、フレアはミヤマ池の調査依頼に出ていた。

しかし、それは非常に危険なものであった。

危険が潜むミヤマ池を舞台にフレアとディオン、2人の戦いが幕を開ける。

 トリン市の冒険者ギルド。冒険者達が集っている中、この場所を訪れたフレアは真っ直ぐミーシャのいる受付に向かう。


「こんにちは」

「こんにちは、フレアさん。そうそう、ディオンさんの冒険者証ができましたよ」

「本当?」

「ええ、後はご本人が取りに来るだけです」

「良かった」


 ミーシャから話を聞いてホッと胸を撫で下ろしているフレア。兎にも角にも、これでディオンは冒険者として活動ができることになる。


「それで今日はどんなご用件で?」

「この前、冒険者ギルドで話題になっていた依頼を受けてみようと思って」

「本当ですか?」


 思い切ったフレアの発言に驚きを隠せないでいるミーシャ。彼女達の間で話題になっている依頼、それは実に難儀なものであった。


 数日前、冒険者ギルドに届いた依頼。それはトリン市のミヤマ池に出現する謎のモンスター達を調査し、場合によっては討伐して欲しいというものであった。

 ここで問題になっているのはミヤマ池に出現するモンスターの全貌が明らかになっていないことである。僅かに寄せられた情報によれば、そのモンスター達は空中を移動し、池の中に潜んでいるとのことだ。


 依頼を遂行する上で情報は必要不可欠なものである。それが曖昧ともなれば、難易度と危険性は格段に増す。

しかも、僅かに提供された情報を正しいものと仮定すれば、討伐対象のモンスターは空を移動することができることになる。

言うまでもなく、冒険者は地上での活動がメインだ。空中を動けるモンスターが相手となれば、難易度と危険性はさらに上昇する。

そう考えれば、今回の依頼は調査がメインであるとはいえ、難易度と危険性が高くなっており、多くの冒険者達は尻込みをしている状態であった。


「フレアさん、この依頼を受けるのは待った方が……」

「それでも困っている人がいるんでしょ?見過ごせないわ」


 難色を示しているミーシャに反論するフレア。時間を置けば置くほど、モンスターの被害で困っていく人達は増えていく。一刻も早く彼女はそれを防ぎたかった。


「それはそうですが……」


 そうは言うものの言葉が続かないミーシャ。ここ最近、難易度と危険性の高い依頼の多くはフレアが引き受けている状態である。

 確かに冒険者ギルドとしては有り難いが、言い換えれば、フレアに頼りっぱなしの状況である。何とか彼女の負担を減らすことはできないものか、ミーシャが考えている時であった。


「ウサ」

「ピ」


 突然、フレアとミーシャの近くに現れるピョンとピート。普段、ほんわかとしている彼等であるが、今日は何時になく神妙な顔つきをしている。


「ピョン、ピート」

「まさか……」

「ウサ!」

「ピ!」


 驚いているフレアとミーシャに向かって、凛々しい表情で鳴き声を上げているピョンとピート。この時、2人は彼等の意図を瞬時に理解した。

 そう、ピョンとピートはフレアが受ける依頼に同行する気でいた。何かと負担のある依頼を受けることの多い彼女の手助けになろうとしていた。


「やめなさい。それにギルドの仕事があるでしょ」


 曇った表情でピョンとピートを止めようとしているミーシャ。そしてまた、この発言は彼女の本心ではなかった。

 本音を言えば、フレアの力になろうとするピョンとピートのことを送り出してやりたい。しかし、彼等は今となっては冒険者ギルドの一員である。同じ冒険者ギルドの職員として勝手な行動をさせる訳にはいかなかった。


「良いんじゃないのか」


 そんな言葉と共に1人の男が現れる。その途端、受付にいるフレア達は勿論のこと、ギルド内にいる冒険者達の視線が一斉に向けられる。

 冒険者ギルドの受付フロアに現れた男。それは厳めしい雰囲気を漂わせた大柄の男であった。彼の名前はアラン、冒険者ギルドのマスターである。


「ピョンとピート、見かけこそ変わっているが、身体能力や仕事ぶりは申し分ない」


 視線の先にいるピョンとピートのことをじっくり眺めつつ、評価の言葉を口にしているアラン。

 これまでギルドマスターとして、ピョンとピートの働きぶりを見てきたが、雑用係として十分に役立ってくれている。おかげでアラン自身、冒険者ギルドの責任者としての仕事に集中できている。

 身体能力にしてもそうだ。ピョンとピートの身体能力は並の人間以上を上回っており、駆け出しの冒険者よりもよほど頼りになる。


「しかし、よろしいのですか?冒険者ギルドが特定の冒険者に肩入れするなど」


 アランに苦言を呈するミーシャ。基本的に冒険者ギルドは全ての冒険者に対し、平等に接するべきであり、特定の冒険者を支援することは問題であった。


「確かに特定の冒険者に肩入れは駄目だが、それも時と場合だ。今、トリン市は過疎化で人手不足の状況で、それは冒険者ギルドも同じだ。おかげでフレアには負担がかかりっぱなしだ。少しぐらい支援してもバチは当たらないさ」


 ミーシャの苦言に力強い口調で答えてみせるアラン。確かに特定の冒険者を支援することは問題であるが、今はそう言っていられないほどの状況である。この時、彼は自らの判断と責任でフレアの支援を行おうとしていた。


「分かりました。私はギルドマスターの判断を指示します」


 すっきりした表情でミーシャは言う。これで何の後ろめたさを感じることもなく、フレアのことを応援できることを心から喜んでいた。


「冒険者ギルドマスターとして命じる。今回の依頼で冒険者フレアの後方支援を行え!」

「ウサ!!」

「ピピー!!」


 大勢の冒険者達が見守る中、トリン市の冒険者ギルドマスターとして、部下であるピョンとピートに対して、正式な命令を出すアラン。一方、彼等は敬礼と共に鳴き声を上げる。


「それじゃ、今回の依頼、よろしくね!」

「ウサウサ!」

「ピー!ピー!」


 にこやかな表情で語りかけるフレアに対し、同じく満面の笑みで返事をするピョンとピート。そんな彼女達の姿をミーシャとアラン、ギルド内にいる冒険者達は温かい視線で見守っているのであった。



 フレア達が出発してから数十分後、1人の男が冒険者ギルドの受付フロアに足を踏み入れていた。さっぱり整えられた黒髪が特徴的な青年、それはディオンであった。

 数日前にトリン市の冒険者として登録手続きを行ったディオン。本日、冒険者証ができたので取りに来たのである。


「ディオンさん、お待ちしていました」

「頼む」


 受付で待機しているミーシャから冒険者証を受け取るディオン。これで彼もトリン市の冒険者の一員である。


「そう言えば、フレアは来ているのか」


 不意に思ったことを口にするディオン。彼を冒険者の道に誘ったのはフレアである。そうであるならば、この場に彼女がいても良いはずだ。そう、このことを喜んでいるのは他ならぬ彼女のはずだ。


「フレアさんは今、依頼のために調査へ出かけています」

「何だって?」


 ミーシャの言葉に目ざとく感応しているディオン。この時、彼は今しがた話題に出た依頼に何かあると踏んでいた。


「もし良ければの話だが、詳しく話してくれないか。当然、話せないなら無理に話す必要はない」

「……分かりました。実は……」


 意を決してディオンに依頼のことを話すミーシャ。本来であれば、彼女の行動は守秘義務に抵触する違反行為である。

 しかし、今回の調査依頼はフレア以外の誰もが手を挙げなかった依頼である。しかも、ギルドマスターのアランを通じて、トリン市の冒険者ギルドが彼女を正式に支援している。状況が状況なのだ。


「くそっ……フレア、あいつ!」

「どうしたんですか?」


 ミーシャから依頼の内容を聞いた後、頭を抱えてしまっているディオン。一方、彼女はその様子が気になっていた。


「どうしたもこうしたも、今回の依頼はあまりにも情報が不足し過ぎているだろ……ハッキリ言って雑過ぎる。しかも、空中を移動するモンスター達がいる可能性がある……こんなもの冒険者が単独で行うものじゃない。せめて、あと何人か腕利きの冒険者が必要だ」

「……」


 悩ましげに語るディオンの様子を間近で見ているミーシャ。やはり、今回の依頼は相当に厳しい内容であるらしい。


「大方、お人好しのあいつだから見過ごせずに受けたんだろ」

「そうです」

「全く無茶な性分は子どもの頃と変わってないじゃないか!」


 ミーシャから話を聞いて、さらに頭を抱えているディオン。一体、どうすれば良いのだろうか。


「仕方がない!俺も行ってくる!」

「良いんですか?」

「このまま放っておく訳にはいかないだろう」


 あれこれと思案した後、ついに決断をするディオン。念押しするように聞くミーシャに彼は力説する。このまま、フレアの手助けをしなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。


 そして、冒険者ギルド内の様子をキョロキョロと眺めているディオン。この時、彼の眼にある物が留まる。

 ディオンの視線の先にあるもの、それは1人の男性冒険者が腰に装備している長剣であった。騎士として色々な武器に触ってきたこともあり、剣の良し悪しは分かるつもりだ。


「すまないが、この剣はどこで手に入れたんだ?」

「冒険者ギルドのすぐ近くにある武器屋だ。良い物を取り揃えているが、それなりに値は張るぞ」


 ディオンの質問に戸惑いがちに答える男性冒険者。続いて彼はポケットの中から財布を取り出して中身を確認する。

 今、ディオンの財布の中には何枚かの金貨が入っている。これならば、ある程度の買い物はできるはずだ。


「悪いが、これで失礼!」


 それだけ告げた後、急いで冒険者ギルドを出るディオン。ミーシャを始めとして、ギルド内にいる者達はその様子を静かに見守っていた。

 トリン市の冒険者の一員となったディオン。彼の初仕事は昔馴染みのフレアを助けることであった。



 トリン市内にミヤマ池と呼ばれる池が存在する。元々、ここはリホン海の一部であったが、陸地が形成されていくにつれ、海から切り離されて池となった経緯がある。

 そのため、ミヤマ池は池と言う名前を冠しながらも、その規模は並の湖よりも広大であった。

 そして現在、ミヤマ池の手前に到着したフレア、ピョン、ピート。彼女達の眼前にはミヤマ池の中に浮かぶ小さな島、さらに陸から架けられた橋が見える。


「嫌な気配がするわ」

「ウサ」

「ピ」


 目の前のミヤマ池の景色を眺めつつ、率直な感想を口にしているフレア。彼女の感想に同意の鳴き声を上げるピョンとピート。

 本来、ミヤマ池はトリン市の住民達からも親しまれている場所であり、池の周辺では散策を楽しむ者もいる。

 しかし、今はどうだろうか。ミヤマ池は薄暗い影に覆われており、他者を拒絶する雰囲気を醸し出している。依頼票によれば、モンスター達が潜んでいるのではないかとされるが、あながち間違いではなさそうだ。

 その時であった。フレアの着用している耳飾りが僅かに光を発する。間違いない。ミヤマ池には何かが潜んでいる。


「まずは先を進みましょ」

「ウサウサ」

「ピピ」


 今のまま立っているだけでは何も始まらない。先に進むことを宣言するフレア、頷くと同時に返事の鳴き声を上げるピョンとピート。

 ミヤマ池の調査に乗り出すフレア達。まず、手前に架けられた橋を渡ることで池に浮かぶ島に上陸する。


 何事もなく島に到着したフレア、ピョン、ピート。早速、ミヤマ池で調査を始めようとした時であった。

 突然、それまで何事もなかったミヤマ池の水柱が立ったかと思えば、その中から何かが勢いよく出現する。

 異変に気がついたフレア達はそれぞれ態勢を整える。背中から抜いたS-HARDを構えるフレア、ピョンとピートもまた身構えている。

 ミヤマ池の中から出現したもの。それはエイを彷彿とさせる姿をしたモンスターであった。しかし、本物のエイと比べて小柄であるものの、数が多く一種の群れを成している。


「滑空エイ!」


 エイのモンスター達を見た瞬間、その名前を叫んでいるフレア。同時に彼女は依頼票に記された空に浮かぶモンスターが滑空エイであることを理解する。

 滑空エイ。その名前のとおりエイを彷彿とさせるモンスターである。普段は海の中に住んでいるものの、時折、空中を移動して別の場所に移動する習性があった。

 恐らく元々、リホン海の中に住んでいた滑空エイが空中を移動して、このミヤマ池に移ってきたのであろう。

 フレア達の前に立ち塞がっている無数の滑空エイ達。モンスター達は彼女達に敵意を向けていた。


「ピョン、ピート、後ろにさがっていて」

「ウサ」

「ピ」


 S-HARDを構えながらピョンとピートに後退の指示を出すフレア。彼女の言うとおり彼等は後ろにさがる。

 次の瞬間、一斉に襲い掛かってくる滑空エイ達。モンスター達が殺到する先、それは仲間達の前に立つフレアであった。

 高速で迫りくる無数の滑空エイ達を前にして、S-HARDの柄を握り締めるフレア。それと同時に太刀の身に炎が宿る。


「回炎斬!!」


 次の瞬間、その場で自らを回転させつつ斬撃を見舞うフレア。勢いに乗った炎の太刀筋が滑空エイ達を次々と呑み込んでいく。

 回転の乗った斬撃が終わった後、フレアはその動きを止める。彼女の一閃は瞬く間に滑空エイ達を焼き斬っていた。しかし、これだけでは終わらない。

 突然、ミヤマ池から再び水柱が噴き上がる。しかも、その規模と勢いは先程とは比べものにならない。

 そして、巨大な水柱の中から何かが姿を現す。それは先程と同じ滑空エイの群れであった。

しかも、モンスター達の群れの奥には、より大きなサイズの滑空エイがいた。恐らくは彼等のボスなのだろう。


「これだけの数……流石に厳しいわね」


 無数の滑空エイとそのボスを目の当たりにして、苦い表情を浮かべているフレア。数ではむこうの方が有利な上、さらに後方には親玉も控えている。

 太刀を武器とするフレアは強烈な斬撃を相手に見舞う戦い方に長けている。そのため、複数の敵を同時に相手にする戦闘はどちらかと言えば不得手だ。先程はどうにかなったものの、今回も上手くいくとは限らない。


 すると、ボスの滑空エイは思念で配下に攻撃の指令を送る。その指令を受けて無数の配下達はフレア達に向かって迫ってくる。


「くっ!」


 迫ってくる無数の滑空エイを前にして、歯軋りをしているフレア。このまま成す術がないかと思われた時であった。

 次の瞬間、フレア達と滑空エイ達との間に何者かが割って入る。当然、両者の視線はそちらに向けられる。

 気がつけば、何体かの滑空エイ達の死骸が地面に落ちていた。恐らく先程の乱入者が仕留めたものなのだろう。

 フレア、ピョン、ピートの視線の先に立っている者、それは長剣を構えているディオンであった。そう、今しがた落ちてきた滑空エイ達の死骸は彼が仕留めたものであった。


「ディオン!」

「話は後だ。やるぞ!」


 話しかけてくるフレアに対し、落ち着いた口調で答えるディオン。積もる話もあるだろうが、今は目の前の厄介事を対処する必要があるだろう。


「フレア、ここは俺が引き受ける。お前はドでかい攻撃ができるように準備してくれ」

「分かったわ」

「ピョン、ピート、荷物番は任せる。しっかり頼む」

「ウサ!」

「ピ!」


 フレア、ピョンとピート、それぞれに指示を出すディオン。対するフレア達も各自の役割のために動き始める。


「そして……」


 呟くように言った後、滑空エイ達の方に向き直るディオン。いくらかは倒されたとはいえ、モンスターの群れは未だに健在であり、しかも、その敵意は彼の方に向いている。


「ならば!」


 長剣を構えたまま滑空エイ達の群れに突撃を仕掛けるディオン。一方、人間による思わぬ行動にモンスター達は戸惑いを隠せない。


「はああああああっ!!」


 次の瞬間、長剣を幾度となく振るうディオン。その勢いは激しく息を吐かせない程である。フレアによる太刀は烈火の一撃であるとすれば、彼の攻撃はさしずめ怒濤の連撃と形容できるであろう。

 ディオンによる怒濤の攻撃により、次々と倒されていく小型の滑空エイ達。このままでは危険だと察知したのであろうか、残った者達は後方のフレア達に狙いを定めて向かっていく。


「動けない女性や小動物を相手とせず……男と戦え!」


 しかし、素早い身のこなしをもって、残る滑空エイ達の前に立ち塞がると、目にも留らぬ斬撃で仕留めていく。その間、フレアは攻撃を発動するために力を溜め続け、ピョンとピートは惚れ惚れとした視線で彼の戦いぶりを見ている。


 これで小型の滑空エイ達は全て倒した。残るは彼等の親玉とも呼ぶべき大型のモンスターであった。


 次の瞬間、ディオンに向かって突進を仕掛けてくる大型の滑空エイ。その動きは速く得物を強襲する猛禽類のようでもある。


「ちぃっ!!」


 間一髪のところで大型滑空エイの突進を回避するディオン。敵は空中にいる上に動きも速い。こちらが攻撃を仕掛けても空振りに終わるだけだろう。


「フレア!そっちの方はどうだ!?」

「ええ。こっちは準備OKよ!」

「それじゃ頼んだぞ!」

「任せて!」


 今後のことについてフレアとやりとりをするディオン。昔馴染みであるためか、2人の会話は息がぴったりである。

 早速、ディオンは後方にさがり、今度はフレアが前に出る。まさしく前衛と後衛が入れ替わった形である。

 一方、大型滑空エイは標的をディオンからフレアに変更する。そして、そのまま彼女に向かって突進を仕掛けてくる。

 急速に距離を詰めてくる大型の滑空エイ。対するフレアの方であるが、これまでディオンが時間を稼いでくれたこともあり、攻撃の準備は完全に整っている。烈火の宿ったS-HARDを構える。


「闘炎斬!!」


 次の瞬間、大型の滑空エイを真っ向から斬り伏せるフレア。気がつけば、大型のモンスターの身体は真っ二つとなり、地面へと墜落する。


「一先ずはこれでモンスター達は倒せたようだな」

「そうね」


 ディオンの言葉に相槌を打っているフレア。彼等は今、自らの手で仕留めた無数の滑空エイ達、さらにはその親玉の亡骸を眺めていた。


 その後、フレア達は滑空エイ達の亡骸から魔石を回収し、親玉からは巨大な魔石と表皮と尻尾を回収する。

 念のためにミヤマ池周辺を調査してみたが、特に異常は見られない。どうやら、騒動の原因は滑空エイ達によるものだったようだ。

 何がともあれ、無事に滑空エイ達を倒して、ミヤマ池の調査を終えたフレア達。彼女達は冒険者ギルドに戻ることにするのであった。



 冒険者ギルドの検査室。ここには今、フレアとディオン、さらにギルドマスターのアランの姿があった。

 既に滑空エイ達から回収した魔石や素材等の鑑定は完了しており、アランは今、今回の依頼に関しての報告書に目を通していた。


「今回の騒ぎの原因は滑空エイによるものだったとな」

「ディオンにはかなり助けられました」

「そうだぞ。全くお前は無茶が過ぎる」


 報告書に目を通しつつ言葉を漏らしているアラン、一方でディオンはフレアに苦言を呈している。


「いや、今回の依頼はあまりにも内容として漠然とし過ぎた。もう少し情報等の収集や精査を行うべきだった」

「仕方がありません。今、トリン市は慢性的に人手が不足しています。その辺は今後の課題ではないかと」

「そうだな」


 ディオンの指摘に同意しているアラン。確かに無事に依頼を解決することができた。しかし、その一方でトリン市の抱える課題が浮上することになった。そしてまた、この課題は容易に解決するようなものでもなかった。


「それにしても、この報告の出来は良いな」

「前職の経験です」


 ミヤマ池の依頼に関する報告書を熟読しているアラン、少し照れた様子で答えているディオン。

 今回の報告書はディオンが作成したものであった。字体が丁寧であることは勿論のこと、一連の流れ、依頼遂行までの詳細が記されていた。

 元々、騎士として任務に従事していたディオン。任務等が完了した際、報告書を作成して提出することは日常茶飯事であった。この知識や技術を応用したのである。


「良かったね、ディオン」

「ああ」


 満面の笑みで話しかけてくるフレアに対し、同じく穏やかな笑みと共に返事をしているディオン。既に2人は今までどおりの昔馴染み、いや、それ以上の関係を築きつつあった。


「これからもよろしく頼むぞ」

「「はい!」」


 アランからの呼びかけに頼もしい口調で返事をするフレアとディオン。トリン市を舞台にした2人の戦いがこれから始まろうとしていた。

 そしてまた、ディオンの作成した報告書であるが、その後も冒険者ギルド内で作成・保存されていくことになり、いつしか、トリン市の風土を記した重要な記録として重宝されていくことになるのであった。

皆さんお疲れ様です。疾風のナイトです。

前回でもお話しましたが、今回の話は元々、1つの話の予定でしたが、想定以上に長くなってしまったため、第4章と第5章に分ける形となりました。

前回が再会編の前半であるとすれば、今回は再会編の後半といったところになります。


以下、元ネタ


>ミヤマ池

鳥取市にある湖山池をモデルにしています。元々は日本海の一部でしたが、陸地が形成された影響で池になったという経緯もあります。池と呼ばれていますが、その規模は湖畔を上回っています。この辺の内容は本編で触れたとおりですね。

鳥取市内でもかなり親しまれている池であり、湖山池周辺はウォーキングコースにもなっていたりしています。後は池の中では水上スキーを走らせたり、カヌーの競技を行うこともできます。


最後に今回の話でディオンの作成した報告書が冒険者ギルドで好評でした。

小説のタイトル「冒険者による風土記」ですが、これはディオンの報告書が主になってきます。そう、彼はもう1人の主人公になります。

今後はフレアと一緒に熱い……いや暑苦しい冒険者生活を送ることになりそうです。たまには暑苦しい主人公達がいても良いですよね(笑)


以上で今回のあとがきとしたいと思います。

鳥取には話のネタになるものがまだまだあるため、しっかり取り込んで作品として消化していきたいと思います。

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