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05. 失礼なイケメンさん(クララの視点)

「小娘が! よくも邪魔してくれたな!」


 私の目の前に現れたのは、さっきあっさり逃げていったゴロツキたち。ちょうど袋小路に入ったところで、退路もない!どうしよう!乙女のピンチ?


 なんてことは全く思わず、私は冷静に観察した。どう見ても素人のへっぴり腰。所詮はただの町民ギャング。

 心配症の父から強制的に習わされた護身術で、ここは無難に切り抜けられそう。


 ただし、こちらはお忍びの身。あまり大きな騒ぎになってしまうのは避けたい。

 ここは素直に従って、有り金を置いていくのが得策だ。貧乏男爵家の娘だから、もともとそんなにお金は持ってない。


「君!下がって!」


 真っ黒な影が、急に目の前に現れた。


 何者?もしかして、おじいさんが言った『素性の知れない怪しい人物』な腹黒狼? でも、お腹じゃなくて、全身が黒い!


 急に出現した謎の人に驚いた私は、その反動でバランスを崩して尻もちをついた。そして、すぐ後ろに放置されていた木材ゴミの切れ端に、うっかり右足と右手をこすってしまった。

 折れた木の断片はギザギザで、当たった瞬間にザリッと嫌な音がした。


「くそっ!覚えてろよ!」


 陳腐なセリフを残して、ゴロツキどもはあっさりと逃げていった。なんと分かりやすい展開。ゴロツキの名にふさわしい引き際だ。

 そして、この謎の人。か弱い女性が悪者に囲まれているところに、颯爽と現れて助けてくれるなんて。


 あまりにも状況が出来過ぎていて、逆にすごく作為を感じる。まさか狂言? 絶対にあやしい!


 転んだ格好のまま、私はコトの成り行きを見極めようと必死だった。この人がイケメンだったら、胡散臭さは更に増す。有罪確定?

 そして、こちらを振り向いたその人は、やはり予想を裏切らないイケメンだった。


 無造作に乱れた髪は漆黒で、瞳は群青色。黒めの騎士服を着ているせいで、最初は影のように見えたけど、男らしく精悍な顔立ちが目立つ。


「怪我は?」


 そのイケメンが手を差し出す。その手を取ろうとしたとき、自分の手の甲に血が滲んでいるのに気がついた。

 そこの木材でかすったんだ。チリッと痛みが走って、私は反対側の手で傷口を押さえた。


「ひっかけたのか。鈍くさいな」


 人を驚かせたくせに。それで私を転ばせておいて、その言い草は何?もしかして喧嘩売ってるのかな。


「自分の身も守れないのに、こんなところへ来るな」


 あなたが飛び入らなかったら、ちゃんと護身術で身を守ったし、こんな怪我だってしなくて済んだのよ。


「どうせ貴族だろ。世間知らずなんだから、迷惑かけるな」


 そんな言い方ないっ。こちらは限りなく平民に近い男爵家の出身だし、そこまで世間知らずじゃないのに。

 

「あなたが来なければ転ばなかったし、こんな怪我もしませんでした」

「助けてもらって、その言い草か」

「助けてなんて、頼んでいません」

「あのままだったら、どうなっていたか」

「自分でなんとかしました」


 今日はなんという厄日なの。私は自力で立ち上がって、ワンピースについた土をパンパンと払った。騎士イケメンは、その様子を呆気に取られたように見つめている。


「怪我は、大丈夫か?」

「かすり傷です。どうかお気になさらず」

「安全な場所まで送ろう。家はどっちのほうだ?」

「大丈夫です。すぐそこが大通りだし」

「いや、でも」

「大丈夫です!」


 確かに、あのゴロツキどもが本物なら、彼がいなかったら何が起こったかは分からない。怪我よりももっと悲惨な目に遭っていたかもしれない。


「それから、一応、助けてくれてありがとうございました」


 ツンツンとした態度を崩さずにそう言うと、何を思ったのか騎士イケメンはブーっと吹き出した。


「そんな態度でお礼を言われても……」

「笑うなんて失礼です!世間を知らないのは、あなたも同じようね!」


 歩き出そうとすると、右足がズキッと痛んだ。思った以上に出血している。ちょっと引きずるようにしてみた。大丈夫。ちゃんと歩ける。


 そのとき突然、体がふわっと浮いた。驚いてキャアっと悲鳴を上げてしまった。

 だって、騎士イケメンが私を横抱きしている!お姫様抱っこというやつ。


「ちょっと、下ろして!」

「その足じゃ歩けないだろ。危ないから暴れるな。少しだけ我慢しろ!」


 いやいや、ダメでしょう。見知らぬ人に触らせるなって、注意されたばかりなのに!淑女としては、不当な評価を受ける行為は避けるべき!


「重いな。女はみんなこんなに重いのか」


 キッと睨みつけると、失礼イケメンは楽しそうに目を細めた。性格悪い。そっちがその気なら、意趣返しするわよ。女子に口で勝とうなんて、十年早い!


「男なのにヤワですね。鍛え方が足りないんじゃ?」

「あんた、面白いな。名前は?」

「お教えする必要、あります?」


 ぴしゃりと遮ると、失礼イケメンは肩をすくめる。二人とも黙ったままで、かなり気まずい。


 それにしても、どうして今日は、こうも変なイケメンばかり出没するんだろう。あやしい!イケメンには要注意!


 それなのに、私はすぐにまた一人、別のイケメンと遭遇することになったのだった。

『鈍感男爵令嬢クララと運命の恋人 ~ 選ばれし者たちの愛の試練~』の「4. 騎士の失礼イケメン」と同じイベントが発生しました♪


アレク・ルートでも、ローランド・ルートでも「カイル・フラグ」はスルーなので、ほぼ同じ展開になっています。

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『アレク・ルート』

『鈍感男爵令嬢クララと運命の恋人 ~ 選ばれし者たちの愛の試練~』

『セシル・ルート』

『王女セシルの宿命と恋の行方 ~ 無償の愛が世界を救う礎となるまで~』
― 新着の感想 ―
[一言] 今回も積極的にフラグ折ってますね! それはもうバッキバキに。 重いってさらっと言ってたけど、ぶっきらぼうにそう言っちゃうところが好きかも笑 まーこれでフラグがへし折れちゃったんだろうけど。…
[気になる点] あーあーあーあーあー! カイル! このとき君は、君は、はたしてどうだったのかね? その、この助けた少女のことを、わかっていて颯爽と現れたのか。 それともまったく気が付かずに騎士道精神を…
[一言]  女の子に「重い」は禁句なのです。
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