表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/100

49. 見解の違い (クララの視点)

「なんで、そんなに怒ってるの?」


 謁見までは上機嫌で、いつも以上に軽口を叩いていたのに。ローランドは急に無愛想に、そして無口になった。

 控え室では私を放置していたのに、なぜか夜会ではそばに張り付いていた。学園の友達に会っても、うかつに話しかけることさえできないくらいに、それはもうピッタリと!


 どのくらい密着していたかと言えば、体半分は触れていない場所がないくらい?ガッチリと腰を手で引き寄せられていたら、たぶん嫌でもその距離になると思う。

 婚約者でもないのにベタベタして、恥ずかしいったらない!


 でも、気持ちの距離はいつもよりずっと遠く感じられた。そのくらい、ものすごく機嫌が悪い。触らぬ神に祟りなし。こういうときのローランドは、本当に面倒くさいんだ。


 無事に夜会は終わり、今は帰宅用の馬車の中だ。お互いに向かい合って座ったまま、もうかなりの時間が過ぎていた。


 このまま放っておこうかと思ったけれど、やっぱり思い切って聞いてみることにした。不機嫌の理由は、一体なんなのかを。

 私のタウンハウスまでは、あと三十分くらいの道のりだ。たとえローランドが癇癪を起こしても、ちょうどなだめられる程度の時間は残っている。


「ねえ、侍女出仕のことなら大丈夫だよ。私、そんなにヘマはしないと思う。これでも一応は貴族だし、生涯奉公ってわけでもないんだから猫もかぶれるよ」


 たぶん、ここだろうと思うところにポイントを当てて、私は話を切り出した。ローランドは、私が王宮で大失敗することを心配しているんだろう。許婚とされている私の所業が、ローランドの出世に響くから?


 いやいや、私の躾がなってないからって、ローランドが怒られるわけがない。私はローランドの子どもじゃないんだから!だって、ローランドは保護者どころか婚約者でもない。

 私のせいでローランドが失脚するはずないのに。私にそこまでの影響力があるとは思えないし、ローランドの能力がそんなに脆弱なわけもない。


「お前、殿下と王女の婚約の話、聞いてるだろ?滞在ってのはつまり永住だろ。結婚が遅れる」


 そこか。ローランドは、私が侍女として生涯キャリアを積むのが不満なんだ。職業婦人になると適齢期を逃すと聞く。でも、私の嫁き遅れを心配するとか、すごく余計なお世話なんだけども。


「キャリアを目指すわけじゃないよ。結婚しても王宮に勤めてる人いるし、寿退職というのも問題ない。王女様がこの国に慣れるまでの話よ」

「王宮なんてのは、男ばっかの職場で危ないだろ!死角もたくさんあるし、どこで何をされるか分かったもんじゃない!お前みたいな、知力も体力もないような小娘が、上手く渡っていけるようなところじゃないんだ」


 そこまで言う?確かに男性をあしらうのには慣れてないけど、私はローランドとは違って貞操観念は高いほうだと思う!令嬢としての護身術だって、それなりに身につけている。

 それ以上に、男性を惹き付けない自信がある!それが色気の欠如のせいということは、あまり声高に叫びたくないけれど。


「ちょっと、やだ!私が、そんなことになると思ってんの?ありえない!職場でグチャグチャするような馬鹿じゃないわよ!それに、王女様は専属の騎士を付けてくださるって言ってた。身の安全は保証するって!」


 ローランドは、ふーっと息を吐いて頭を振った。私の頭に手を置いて、じっと私の目を覗き込む。綺麗なローランドの顔が近すぎて、私はいたたまれなくなった。

 同じくらい近い距離で、私の顔も見られてるんだ。おでこと鼻、テカってないよね?化粧室で、あぶらとり紙すればよかった。


「騎士も男だろ。お前のそういう、物事を素直に受け取りすぎるところが馬鹿だって言ってんだよ。ユルすぎる!」

「そんなこと言ってたら、女はどこにも行けないじゃない!」


 私はムキになって反論した。なんだろう、これはどう見ても、恋人の就職を心配する男と、それをなだめる女の図じゃ?私たちは結婚を約束しているわけないんだから、この構図はどこか間違っている。


「働く女が嫌とか、理解ないこと言わないでよ」


 言ってから、しまったと思った。変な思考のせいで、テンパった言い方をした。これじゃ、私が働くのにローランドの許可がほしいみたいじゃないの!

 どーでもいいから!ローランドが嫌がろうが、そんなのどーでもいいから。私には関係ないことだから!これはあくまで一般論の話!


 それなのに、ローランドはバッチリ誤解したらしい。ちょっと目を見開いてから、視線を少し逸らした。


「男は惚れた女を、他の男から隠したいもんなんだよ」


 え、それはどういう意味?えっと、誰が誰をどうしたいって言ったの?これは一般論の話だよね。それとも、ローランド個人の……?


 ローランドは、手で髪を梳くようにして、私の頭を撫で下ろした。頬がうっすら上気している。ちょっとやめてよ!そんな顔を見せられると、こっちも赤面してしまうのに!


 ドキドキに心臓が爆発寸前。何か言わなくちゃと思うと、ますます思考が分裂していった。なんだろう。この気持ちは何? 私、どっかおかしいのかも。

 私は頬の火照りを隠そうと下を向く。今の顔を、ローランドに見られちゃいけない気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別ルートにご興味があれば、ぜひこちらも読んでください!

『アレク・ルート』

『鈍感男爵令嬢クララと運命の恋人 ~ 選ばれし者たちの愛の試練~』

『セシル・ルート』

『王女セシルの宿命と恋の行方 ~ 無償の愛が世界を救う礎となるまで~』
― 新着の感想 ―
[良い点] >男は惚れた女を、他の男から隠したいもんなんだよ  あら♡ いい感じにストレートに言えたじゃない♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ