勇者追放
「シェイディ、お前パーティ抜けろ」
突然集められたと思ったら、パーティ仲間の前でリーダーから脱退命令を勧告された。
「え? は? な、なんでだよ? イミわかんねー」
「なんでもクソもあるか! 見ろ!」
ドン!とテーブルの上に勇者が置いたのは石板。そこには今まで俺らが今まで討伐してきたモンスターが刻まれていて、ゴト、ゴトとどんどんテーブルの上に石板が置かれて行く。その一つ一つに数多くのモンスターの名前が連なっている。石板の重さでテーブルがみしみし言っているのだが大丈夫なのだろうか。
そして刻み込まれているのはモンスターの名前だけでなく、その後ろにはフィニッシュを決めた仲間の名前も書かれている。
これは勇者の趣味、というか日記みたいなもので、勇者は色々と旅の記録を残している。この戦績表もその一つだ。
「これがなんだってんだ?」
「昨日これを見てみてわかったことがある。シェイディ、お前フィニッシュを決めすぎなんだよ!」
「おーほんとだ、俺の名前がズラ〜と並んでる。どうだ参ったか」
「参ってんのはお前の行動だこの野郎! 後衛の闇属性の魔法使いがこんなにフィニッシュを決められるわけねー! お前後方に待機して、俺ら前衛がダメージを稼いだ後で、トドメだけを刺してるんだろ!」
「あ!? 俺は普通に攻撃してるだけなんだが? フィニッシュ決めてんのも仕方ないことだろ!」
「いいやウソだね! 信じるものか! 俺は光属性の剣士でお前は闇属性の魔法使い。海と山、空と大地、炎と氷、月と太陽、これらのように俺とお前は当然相容れない関係のようだ! この! 自分ばかり目立とうとしやがって!」
「なんだとこのやろう! テメェだってトドメまで押し切れてない証拠だろうが! テメェの火力が足りないだけじゃねーの? このウスラトンカチ!」
「言ったなヤンキー野郎! お前とはもうやっていけない! でてけ!」
「ああ言われなくても出て行くよ! こんなパーティでやっていけるか!」
大きな足音を立てて、ドンドンと踏み鳴らす。イラつきを抑えきれないまま俺は集められたギルドから出ようとする。
が、そこでハタと気が付いた。くるっと振り返るとパーティ仲間達と、中央に勇者がいる。勇者は立ち止まった俺に眉をひそめて不機嫌そうに口元を歪めた。
「あ? なんだぁ? 今更心残りができて帰りたくなったか? バブちゃん」
「いや、おかしくないか?」
「はあ? 文句あるならさっさと言えよ」
「勇者ーーいや、グリーム。なんでお前が出て行かないんだ」
「え」
また大きな足音を踏み鳴らしながらテーブルに戻って行き、ダンッ!とテーブルを叩く。
「このパーティで俺のやり方に不満があるのはわかった。でも数々のフィニッシュ決めてんのも事実。ならお前が出て行ったほうがこのパーティもより良いものになるんじゃないのか」
「は、はあ!? お、俺はこのパーティの中心……」
「だから、その中心が実績からして頼りない奴だからこうして抜ければいいんじゃないのかって言ってんだよ」
「ふざけんな! 俺はこのパーティのリーダーだ! 勇者だ! 希望だ! そう簡単に抜けてたまるか! てかそれは戦いから背を向ける敗北者じゃあないか! 情けないだろうが!」
「いいや俺が中心になる! このパーティのリーダーになってやる!」
「な、なんだと……」
「テメェは役不足なんだよ! 俺が仕切ってやる!」
「ふざけるな! お前みたいな奴にできるわけないだろ! このパーティメンバーを集めたのだって……半分はお前が集めたけど、もう半分は俺の功績だ! お前がいなくなれば済む話なんだからさっさと消えろ!」
「消えるのはお前だね! グリーム! さっさとパーティから抜けやがれ!」
「お前がパーティを抜けろ! 追放だ追放!」
「だったらお前も追放だ!」
「やだよ!」
「こっちだって断る!」
どったんばったんと掴み合いにまで発展し、目の前の野郎をボコボコにして追い出さなければ気が済まない。しかし相手は前衛を張る鍛え抜かれた肉体を持つ戦士だ。魔法使いの俺では筋肉量に差がある。こうなったら魔法でぶっ飛ばすしかない、と思ったところでーー
「シャイニングサンダー!!」
「ダークインフェルノ!!」
「「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」」
グリームの方に光り輝く雷が、俺の方に真っ黒な炎が落ちてきて同時に苦しみ悶える。あっちぃぃ!!
こんなことをするのは誰かわかっている。俺らはパーティメンバーである2人、雷の魔法使いライニーと、炎の魔法使いブリッツだ。ライニーは黒いマントとその下に何故かビキニを着ている青い髪の少女で、ブリッツは修道服をあちこちビリビリに引き裂いたこちらも露出の多い赤髪の少女だ。
「何すんだテメェら!」
「あっちぃなぁ! もし炎と雷で爆発が起こったらどうするんだ!」
「アンタら2人の喧嘩を諌めるにはこうするしかないでしょう? それにグリームくん、あなた今、剣を抜こうとしてたでしょ」
「それにシェイディくんも、魔法使おうとしてたよね。シェイディくんの強力な魔法をこんな建物の中で放ったら大変なことになるよ」
「いや爆発が起こっても大変だろ。つーかずっと思ってたんだけどなんでライニーとブリッツってずっと露出高い格好なんだ? 目にお得だからほっといてツッコまなかったけど、この際だ」
「魔法使いとして魔力を集めるために露出を高めて外気と肌を接触させ、周りの魔力を集めやすくしてんだよ。女だけじゃなくて男も露出高めてるやつ何人か見たことあるだろ」
「でもお前は全然そんなことないじゃんか」
「お前だって前線で戦う騎士なのに鎧勝てないじゃんか。剣も訓練用の木剣だしよ」
「鎧は邪魔だからいらねーんだよな」
「ま、俺は魔法使い界最強だからな。普通の魔法使いのやり方なんて、そんなんいらない」
「嘘つけ無名だろお前。てか、そんな最強様がみみっちぃ横取りなんてするとはな、けけけ」
「あ!? 無名だと!? テメェが全然有名になろうとしないからだろうが! せっかく倒したモンスターも受けた依頼も全部『名乗るほどのものじゃない』なんてカッコつけて帰るから、全然このパーティの名前が広まらないんだよ! やっぱりお前が中心だとこっちが迷惑だ!」
「ならお前が抜けて新しくやり直せばいいだろうが!」
「「いい加減にしろ!!」」
もう一度雷と炎が降ってきた。今度は躱したが、しかしたしかに冷静になって考えてみるとどちらが抜けるかなんて考えは違うのかも知れない。今グリームが言った『新しくやり直す』という言葉が答えだ。向こうも同じことを考えついたらしい。あの目はそう言っている。
「そうだな……そうだよな」
「ああ、どうしてこんな簡単な方法に今まで気づかなかったんだ」
俺とグリームは頷きあって同時に言う。
「「2人して抜ければいいんだな」」
「アホね」
「おバカさんですね」
ライニーとブリッツの声が聞こえたが無視して、俺とグリームは腕を組んで、笑顔を向け合う。しかし目は笑っておらずギラギラした獣の目だった。
「このパーティに相応しくねぇってんなら、俺とお前で新しくパーティを作り上げて、それで競えばどっちが相応しいか分かるはずだ」
「上等だ。パーティの人集めからやって、どっちが強いかを決める。それでいいな」
「へん! 集まった人が役に立たなくて、泣きべそかいてこっちに助けを求めるようなことにならないよう頑張れよ!」
「お前こそ全然人が集まらなくて街中でわんわん駄々っ子のように泣かないよう気をつけろよ!」
同時に走り出してギルドから出ようとする。一刻も早くこいつよりも強力なパーティを作り上げて、見返してやるんだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
するとライニーに呼び止められた。振り向くと不安そうな顔をする仲間達。ブリッツが代表して前に出て、俺らに訴えかけてくる。
「わ、私たちはどうなるの……?」
たしかにこのまま俺とグリームが抜ければこのパーティはどうなるんだろう。全員俺とグリームがパーティを結成してから必死に集めて、仲間になった連中だ。このまま放っておくのも忍びない。
グリームと顔を見合わせて、同時に答えを出す。
「「全員追放で」」
「「なんでだよ」」
グリーム
剣の達人。光属性でありシェイディとは相容れないが、ひょんな経緯でパーティを組んでいた。しかしやはり相容れないようでパーティは分裂。
シェイディ
魔法の達人。闇属性でありグリームとは相容れないようで、パーティを組んだものの結局分裂することに。