4話 天国……ではなく?
4話 天国……ではなく?
心地よく涼しい風が俺の頬をでくすぐった。
背中がヒヤッとしている。どうやら俺は、どこかの床に横たわっているようだ。
…………天国?地獄?
瞼は重いが、それ以外は全てが軽い。
先程まで痺れていた体とは思えないほど、とてもスッキリしている。
感覚だが、服も違っている気がする。グルネスと戦ったときは、革のローブを来ていたはずなのに今は、シルクの布?麻布じゃないな。とても滑らかな布だ。
それにしても、どうして瞼が開かないんだろう。なかなか力が入らなくて、身体を動かせない。
ここが何処なのか確認したいんだけどな…………
なんていうか、脱け殻の身体に魂だけが生きているみたいだ………
コツ………コツ………
硬い何かが床にあたる音。……………足音?
コツ……コツ……コツ……………カッ
その足音は俺の頭の横で止まった。
「めを開けていいわよ。身体も起こしちゃって」
女性の声かと思われる人がそう言うと、すんなり俺の瞼は開いた。
最初に目に写ったのは、薄黄緑色の髪を軽くパーマにしたような透明感のあるミディアムヘアの女性。
黄金色の瞳は俺の目をとらえている。
身体が動かせるようになったので俺は、身体を起こそうとした。
「あなたの瞳…………左目が私と同じ黄金色なのね」
突如、女性が呟いた。
師匠が左目を人前で見せるなと言われていたのを思いだし、反射的に手で覆った。
そういえば、なぜ師匠がそう言ったのか詳しく教えてくれなかったな………ただ師匠の魔力の入った瞳ってだけなのに……。
「そ、それで…ここは何処なんですか?」
話を誤魔化し、即座に切り替える。
辺りを見回すと、どこかの神殿の中にいるようだが………壁がなく太い柱のみで天井が支えられており、外の様子が見えるようになっている。
………といっても、外は奥までずーっと群青色の空間が広がっているだけで、なにか見えるというのはなかった。
女性は人差し指を顎に当てて、周りをぐるりと見た。
「ここはねぇ、いわゆる天国と地獄の境よ。ここから、天国と地獄にわかれるの」
「…………俺は、地獄に行くんですか?」
恐る恐る聞いてみると女性は目を見開いてビックリしていた。
「まっさかぁ!君は地獄には行かせないよ!……まぁ天国にもまだ行けないけどね」
天国にも地獄にも行かない……じゃあ俺はどこに向かうんだ?
転生して、ちがう世界に行くとか?……そんな空想的な現実ではないし……。それに、この世界以外の世界があるのかも怪しい。そういうのは、本のなかだけに起こることだと思うんだけどなぁ。
自分がどうなるか色々考えていると、女性はクスクス笑っていた。
「……?どうかしたんですか?」
「そんなに難しい顔をしなくても、大丈夫よ。ほかの世界に転生………なんてしないから」
もしかして、俺の頭のなかを読み取ったのか?
「ちゃんと詳しく説明するから、焦らなくて良いわよ」
「あ、はい」
俺が返事をすると、女性は先程までの笑顔を消して突如真剣な顔になった。そして語りだす。
「まず、この世界の生物についてね。この世界には元素というものがつまっている箱みたいなものでね、一番最初の人間やエルフ、獣人、人魚やは創造神様が元素を集めて作り出したものなの。そこから生き物は増殖していったわ」
「へぇー」
ここまでは村の図書館にあった内容だな。でも、創造神様が作り出した生き物じゃないものもいて……
「そう。あなたがいま思っているように、この世界の全てを創造神様が作ったわけではなく、そうねぇ……例えば、魔族とかかしら。あなたが倒したグルネスもそうで、それらは邪神が生み出した元素の新しい組み合わせによって出来た"魔瘴"によって凶暴化した者もいるわ。……ここまでの内容は理解できたかしら?」
「うん、多分わかってると思います」
この世界は元々動物、精霊、それぞれの種族たちのみが生きていたが、邪神が作り出した魔瘴によって善良な生き物が凶暴化しモンスター、違う生き物となった。
もし、グルネスもその被害者だったのなら………と今さら思ってしまうが、今憐れんでも意味はない。
「それでね、いま世界に生きているものたちは、増殖された生き物たちであって、創造神様は手を加えていないのよ。」
「うん」
自分の住んでいた村は相当古い歴史の本ばかりあった。そのため、今この女性がはなしていることは本の内容を答え合わせしてるようなものだ。
………ここまでの話で、俺が天国にも地獄にもいかない理由とどう結びついているのだろうか…………?
焦る気持ちを抑え、女性の話に耳を向ける。
「だけどね、加えてない………そう断言はできない。たとえ手を加えてるとしても、大体邪神が関係しているときだけ………のはずなのよ。まさかあんなことをするなんて私、腰抜かしちゃったわ」
あんなこと?ってなんだろう。創造神様が何千年ぶりに生き物を作り出したとか?それとも、新しい元素を生み出したとか?
「一つ目の疑問が正解よ。」
「一つ目の疑問って……神様が生き物を作り出した?」
「そう。創造神様は人間をオリジナルで作ったのよ。その人間は神様に作られたことにより人離れした能力と思考を授かったわ。」
「……もしかして、今までにないほどの力を持った勇者とか?」
「いいえ、勇者としては作っていないと言っていたけれど、というか強さは今の勇者以上ね。勇者はまだ子供だし。まぁ、創造神様が作った人間もまだ子供だけれど………」
「……………最強の人間?」
「いずれ最強になる人間ね。」
そんな人、聞いたこともないな………小さな村とはいえ、外から来た商人や旅人から情報収集はしていたが……話題に出なかっただけか?
生前のときの記憶を探っていると、またも女性が俺の思考を読み取り話し出した。
「創造神様が作り出した人間はあなたが住んでいた村の人しかわからないと思うわ。だってあなた、村の周辺でしか戦ったりとかしてないでしょ?」
「そうだけど、え?でも、村の人しかわからないなら………」
別に村から離れていなくてもわかるのでは………?
「でも、実際は誰かわからなかったでしょ?……薄々気付いてる人もいたけれど……。」
「どうして僕は神様が作った人が誰なのかわからないんですか?」
「………………」
俺が質問すると女性は顎に手をあてて遠くを見つめた。そして、少し難しい顔になりながらも口を開く。
「だって、創造神様が作った人間は……………あなたなのよ。」
「………………え?」
凄く驚きだ。確かに言われてみれば俺は村のなかでとびきり強かったけど、それは戦い方を教えてくれた師匠のおかげで…………師匠が育ててくれなかったら弱いままだったと思うし……?
「そうねぇ……確かにあなたの師匠があなたを鍛えたおかげで予想以上に強くなったと言えるわ。でもね、たとえその師匠がいなくてもあなたは強くなっていたわ。」
「師匠が……いなくても、自然に?」
「そう」
女性はコクリと頷いた。
俺が…………神様に作られた人間………どうして創造神様は俺を作ったんだろう………?
「勇者だけじゃこの世界を守りきれない。だから勇者を支える者、聖友がいるのだけれど…………その子の身体が弱くてねぇ」
「強いものが聖友に選ばれるんじゃないんですか?」
「聖友になる条件はいくつかあるの、一つ目は優しい心を持ち、二つ目は浄化魔法と光魔法の両方を操れる、そして三つ目は勇者よりは劣るけど硬い意志と勇気の心をもつ者。」
優しく、勇気のある心、浄化魔法に光魔法……この全てを持っている者が勇者の相棒、聖友となるのか………
「…………!!まさか!俺を天国にも地獄にも行かせないのは、聖友の身としてもう一度ステンシアの世界に降りろってことですか!?」
「そう」
この人外な力を使って世界を救って欲しいとか、ありがたき御言葉として受け取りたいところだが………
俺の心の深い奥深くに小さな傷がいくつもあり、それは人々からの罵倒の思い出を思い出させた。
一瞬俺の目から光が消えるのを見逃さなかった女性は、俺に近付いてきた。そして俺のまえで手のひらを上向きにすると、なにやら呪文のような言葉を発した。
すると、手のひらから真っ白な光が現れ、やがて光はダイヤモンドのように輝く石をはめたペンダントとなった。
「これ……は?」
ペンダントを見つめながら問うと、女性は穏やかな笑みを浮かべて言った。
「これは、色々な事がおきる旅に慣れていないあなたを支えるピクシーよ」
ピクシー………妖精のことか。支えるってことは、案内役みたいな?
「そんな感じね。このピクシー……ヴィナーは世界の常識と、彼女のもっている知識をあなたに与えるための妖精よ。精霊じゃないから、属性をもたないし、戦力外だけどね」
「……わかりました、戦力は俺一人で十分なので大丈夫です」
「…………そう……それじゃあ、ステンシアに飛びましょうか!」
「え!?もういくんですか?」
準備とか、あと何処に降ろすのか聞いてない!何をすればいいかも詳しく聞いてないし……
「やることは、一つよ。“聖友となりこの世界に危機が迫ったときは守ってほしい”それ以外はあなたが幸せになれる生き方をしてくれてかまわないわ。ステータスは今のままだから、出来るだけ回りのレベルに合わせて戦うのよ?」
「わかりました全力を尽くします」
「ええ、でも無理はしちゃだめよ……虐められたらピクシーを呼びなさいね」
女性は柔らかな微笑みをして両手を前に出し、呪文を唱えた。
………あれ?そういえば、この女性が何者か聞いていないぞ?!
そう気付いたときには視界が真っ白になりつつあった。
「まってください!あなたの名前は…………!」
すぅっと意識が遠くなってゆく……すると、女性の口が微かに動いた。
「…………創造……………娘…………命の…………」
くそっ、聞こえない!あぁ意識がもう………
視界が完全に真っ白になり、俺の意識は途切れた。




