ひだまり
「アキ、こっちおいで。」
彼氏である雅治に呼ばれて、暁は彼の胡坐の上に向かい合って座った。
ひどく心が落ち着いて、安心する。抱きしめられるだけで、どうしてこんなにも安心するのだろうか。相手が雅治であるからだというのは第一前提ではあるが、この世界に二人だけしかいないのではないかという錯覚するような、けれどもそれとはまた違う、幸せでちょっぴり不思議な感覚に包まれる。
「なぁアキ、肩に力入ってる。」
雅治は暁の肩をさすりながら耳元でささやいた。暁の体温は一気に上昇した。
出会って19年、世間では幼馴染といわれる関係が恋人へと変化したのは3年前、暁が高校2年生、雅治が高校3年生の時である。お互いの両親同士が仲が良く、さらには家が隣同士だったため、物心つく前から毎日のように一緒に遊んでいた。
思春期の頃ですら気まずくなる時期はなかった。兄妹でも家族でもなく、二人にしか分からない空気感が心地よかった。いわゆる「恋人」と呼ばれる関係になり、男を出して甘くなる雅治を暁は知らなかった。毎日新しい一面を見せてどきどきさせてくるのだ。雅治は不本意らしいが。
ゆりかごのようにゆったりとしたリズムで、抱きしめられながら左右に揺れる。穏やかで心地よい。恋人とのハグはストレスを軽減させるというがそれは正しいと暁は思った。片方は腰、もう片方は肩に腕を回してくるのがいつものポジションだ。雅治の体温がじんわりと伝わってくる。
「ハルの匂い落ち着く。」
「ふっ、好きなだけ嗅いどけ。」
余裕そうなセリフに暁は顔を上げると、暁を愛おしそうに見つめている雅治と目が合った。その視線に暁は恥ずかしくなって雅治の胸に顔をうずめた。
「なんだよ。甘えたなの?」
「ちょっとだけ。」
「ちょっとってなんだよ。」
そう笑って言いながら抱きしめる腕が強くなった。暁も負けじと抱きしめ返す。
「ハルとぎゅってするの好き。」
「今日はほんとに素直だな。疲れた?」
「ううん、大丈夫。一旦休憩。」
暁はそう言ったが、それは強がりだと雅治は分かっていた。自分のことをあまり話すことがない暁は、昔からよく溜め込んでしまう。
「なぁアキ、もうちょっとしたら散歩しに行こう。」
「うん。」
「ついでにアイスも買いに行こう。」
「うん。じゃあ課題終わらせちゃわなきゃ」
よしっと言って膝の上から降りようとする暁の腰を雅治は引き寄せた。
「まだここにいろよ。」
雅治に不意に抱き寄せられ、暁は顔を赤くした。
「まだ充電できてない。」
「ふふ、私も本当はもうちょっとハルにくっついてたい。」
開いている窓から風が流れ込んでくる。ゆっくりとした時間が二人を包み込む。
お互いを見つめ合って、どちらからともなく笑みがこぼれた。
雅治は暁の頬を撫で、髪を梳いて耳にかけた。そして暁のおでこにそっとキスをした。
はじめまして。祥と申します。
やわらかで温かな、日常に溶け込むようなラブストーリーを書きたいなと思っております。
よろしくお願いいたします。