大魔王伝承歌
「なろうラジオ大賞2」応募作品その3。詩は初挑戦です。
お聞き及びの 大魔王
悪逆の徒を 解き放ち
川の対岸 東の国を
火炎の踊る 舞台に変えた
お聞き及びの 大魔王
悪路気にせず 乗り越えて
自慢の大群 南の森へ
風を操る 部族が消えた
正義は何かと尋ねれば
人は皆 こう言っていた
哀しみと絶望を撒き散らす
あの大魔王を討てと
お聞き及びの 大魔王
悪行絶えず 語られる
それに対して 西の都は
勇者を擁し 武を募る
正義は我らの下にある
宣誓は 広場に鳴り響く
非道にして卑劣で残酷無比な
あの大魔王を討つと
お聞き及ばぬ 大魔王
向き合った 今際の際で
抱く大望 破れても
これで良いと 振り返る
かなわぬことは悔しくて
無念も 胸にくすぶれど
空になるほど全て出せたと
あの大魔王は笑う
どうして考えなかったのだろう
奴らにも守るものがあったのだと
どうして話し合えなかったのだろう
奴らにも願いがあったというのに
どうしようもなかったとしても
「勝ったのだからよく生きろ」なんて言う奴
どうして息の根を止められるのか
この——卑怯者め
お聞き及びの 大魔王
その存在も 今はない
すでに平かな世になって
人の記憶も 薄れゆく
それでもあのときの念いは
こうして 胸の内にある
哀しみと絶望を振り切って
あの卑怯者を想う