第7話
第7話
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「クーデター?」
異世界生活125日目の朝。いつも通り朝食を食べてから冒険者ギルドに向かった隼人はギルド職員に連れられ、応接室に通された。出されたお茶を飲みながらしばらく待機していると、ギルドマスターがやってきて開口一番、『帝国でクーデターが発生した』と言ってきた。
初日の『大型新人現る』の後も次々と偉業を叩き出したことから興味を持ったらしいギルドマスターに数々の指名依頼を受けさせられ、今ではすっかり『ギルマスのお気に入り』とか『ギルドの懐刀』とかと言われるようになっていた。ギルドで何かあったらまず隼人に。と言う雰囲気はあったが、流石に国際情勢や安全保障政策にかかわる大事にかかわる気はないし、かかわったこともなかった。
「と言っても、クーデター自体はほとんど成功している。帝国北西部駐屯の第3騎兵軍団がマラール侯爵家を主体とする貴族連合とともに帝国亡命政権軍と言う形で抵抗しているようだが以て半年だろう」
話を聞く限り、だいぶ前から用意周到に準備されていたらしい。ストリピタル対外情報総局の分析だが、そんな情報がどうでもよくなるほどの緊急報告が対外情報総局とストリピタル都市総督の元に届いた。
宛:ストリピタル都市総督
発:ユーティスピア帝国臨時代表ギリアス=イーグラット
帝国体制再編に伴い、新総督を就任させることとなった。新総督ルーフェリア=アルバニア到着までに身辺整理をしていくように。
ストリピタル都市総督の元に届いた魔法を利用した電報のようなものには、そう書かれていた。確かに、ストリピタルは名目上帝国の自治州である。そのため、都市総督の任命は帝国政府の権限の内ではある。だが、ストリピタル自治州成立以来、その都市総督はストリピタル内部で決定されてきた歴史がある。事実上の侵略である。同時に、対外情報総局にも緊急報告が届いた。
緊急報告
帝国軍8万以上ストリピタルへ進発
ただちにげいげきのじゅんびをされたし(直ちに迎撃の準備をされたし)
内容は以上であり、文法がめちゃくちゃである点や、途中から走り書きになっている点からかなり急いで書いたのであろうということが良くわかる。
「まぁ、それはどうでもいい。問題は、ここストリピタルに約8万の帝国軍がくるという点だ」
よかねぇーだろ。と思っていた隼人だがこれには驚く。その様を見て流石にこれで驚かないほど人間をやめているわけではないのか…。と安心するギルマスだが、それこそどうでもいいことだ。
「ストリピタル警備隊は精強だ。3倍の敵を跳ね返したこともある。だが、最近の帝国軍は急速に近代化しつつあるし、……」
「勇者という戦況をひっくり返すジョーカーがわんさかいる」
「そうだ。現在までに250名前後が召喚され、そのうち確定戦果は23名。療養中と訓練中を考えたところで、最低でも50名が稼働している」
「それをどうにかしない限り、負けることは確定であるし、それを覆したところで、近代化しつつある帝国軍相手に少数精鋭の警備隊が勝てる見込みはほとんどない」
「そういう事だ。よって、協定に従い、我々冒険者ギルドも義勇軍を組織することとなるのだが、貴様に前衛を頼みたい。2カ月でオークを3000体も狩るような規格外だからな。人間の8万如き危険でも何でもないだろう?」
「そりゃもちろん」
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「クソォォォ————!!! 乗せられたぁ!!!」
ギルドの応接室から出てきた、食堂で適当な軽食を頼んで、頭を抱えながら叫ぶその姿は軽くホラーだった。流石に場所が場所だけに、ママー変な人が。見ちゃいけません。的な会話は発生しなかったが周りからドン引きされていた。なお、ギルマスはしてやったり。と笑みを浮かべていた。
しかし、冷静に会話を思い出してみても乗せられるような会話ではない気がする。……ん? やけに待たされたような……? もしかして暗示効果のあるクスリを盛られたのか? あり得るな。意識が混濁しているような気もするし。
ともあれ、妙に律儀な男、林隼人。受けるといった以上、ちゃんと全力を出し切り、完遂を目指すために準備をするのであった。