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第6話

第6話

……………


「え~~~~~!?」


「どうしました?」


「『どうしました?』じゃないですよぉ~~~~!!!???」


 異世界転移16日目。この街に来てから3週間目の夜。ギルドの受付終了時刻ギリギリのタイミングでやはりと言うか、ギルドには驚愕(きょうがく)の声が鳴り響いた。最初の内はなんだなんだ? と野次馬根性丸出しだった冒険者たちも次第に『もう驚き疲れた…』とか『クッソどうでもいいんだけど、あの受付嬢ってオペラに出れるんじゃないの』とか、好きかって言い酒のつまみにしている。



==========

==========



「おはようございます。これの受注処理お願いします」


「はい、おはようございます! この依頼ですね!」


 時はさかのぼること12時間ほど、朝8時ごろ、隼人はいつもの様に宿で朝食を食べてギルドに向かい、クエストボードから適当な依頼を選び、依頼受理票にもなっている張り紙をギルドの受付に持っていった。


 受注したのはオークの討伐とオーク肉の素材回収の2つだ。ソロで受けるような依頼ではないという点を除けば普通の冒険者が受ける普通の依頼である。ただ、その普通の冒険者と言うのは通常中堅以上かつ十数人の臨時クランで行うモノなのだ。


補足:クランと言うのは複数のパーティーの集まりを言う。RPGでいうとこのギルドだが、冒険者ギルドなどと被るために変更した。


 どこかから茶々が入れられた気がするがそれは放っておく。オークの身長が2メートル50センチほどで体重は500㎏を超える個体もある。そのため運搬にすさまじい手間がかかる。荷馬車をレンタルしてそこまで引いてくるか、マジックボックスを持ってくるかのどちらかなのだが、マジックボックスは高価な魔道具であるため、それを入手可能な冒険者はたいていが中堅以上の余裕がある人間に限られる。


 ほかにもいろいろあるが、少なくとも登録から1カ月もたっていないような新人冒険者がソロで受注しようとしたら誰もが止めるレベルの話なのだが、ここ2週間で築き上げた様々なぶっ飛んだ偉業でだいぶマヒしていた。そのため簡単に受理されてしまった。



==========

==========



「まずは場所を調べないとな」


 とりあえず、依頼書に書いてあった場所まで来た隼人はキャンピングチェアと折り畳み式のアルミテーブルを出し、その上に、PELICAN1510ケースを出す。中に入っているのは脱出の時にも使ったRQ-11Hハイパーレイブンとそれとリンクしている無線機、タフブック、各種ケーブルが入っている。レイブンをハンドロンチで空中にあげ、初期モードである自動旋回待機モードの指定高度(Angel10)まで上昇する間に、無線機とタフブックをケーブルで接続して、ランチャーを起動する。


 そして、アプリケーションを起動したら、飛行モードを自動旋回待機モードからプログラム対地捜索モードに設定して、熱源反応全てにマーカーを設置する。そのうち冒険者らしき反応にアルファ幾つのコードを付与して、盗賊と思わしき反応にはブラボー幾つのコードを、オーク以外のクリーチャーにはチャーリー幾つのコードを、オークにはタンゴ幾つのコードをそれぞれ付与していく。


 マーキングとコード付与が終了したら、ドローンの飛行モードを自動追従モードに変更して周辺警戒をしてもらう。タフブックを片付けて、別のガンケースを取り出す。中身はAPR338と言うスナイパーライフル。射距離1500メートルで射撃精度は0.8MOAを誇る.338ラプアマグナムを使用する。

 B&T社がへカートⅡで有名なPGMライフルを再設計したモノなのだが、フリーフロートバレル、レールマウント、サプレッサー対応と基本となる点をちゃんと抑えており、ボルトハンドルの旋回角が60度と若干ではあるが連射や速度を上げやすい構造にもなっている。比較的小型であるため携行も楽ちんであるという点がいいところだが、何よりも気に入ったのはお値段だ。


 今はあんまり関係ない気もするが、このゲームはロット割と言う制度があった。M4A1やG36であれば5000挺、M14やG28であれば800挺などのロット丸ごと購入で最大4割引きになるという制度だ。大体コルトやHKなどの大企業が製造しているものは数千丁単位の大型ロットなのだが、B&Tの製品はロット数が20挺になっているのだ。20挺買うだけで15%引きが受けられるのであれば、フレンドとカンパで20挺買うだろう? ということで買った狙撃銃がAPR338だった。


 まずは小手調べに単独行動中のタンゴ33を狙撃して本当に死亡させられるか調べる。事前にピンを打っておいたポイントに到着した俺はスナイピングマットを引いて膝、肘、腹部の順で地面につけて基本的な伏射の姿勢、ブローンサポーティッドポジションで銃を構える。


 射距離、風速、風向、温度、湿度、エトセトラエトセトラ。それらのデータを基にゲームシステムが自動的に狙点を演算してくれる。これがスナイパーのスキルレベルが低いと誤差がひどいのだが、このゲームはかなりやりこんでいるため、ここ半年以内に新規実装されたもの以外はほぼすべてのスキルをカンストさせている。当然、スナイパースキルもだ。


 呼吸を整え、狙点とタンゴ33の胸部が重なった瞬間にトリガーをしぼり、タンゴ33に死を届けた。



「…っよし。回収したらオークの村に行こう」


  胸部を打ち抜かれ絶命したタンゴ33をインベントリーに入れ、タンゴ1~タンゴ31までがいるオークの村落を一望できるポイントに向かう。そして、1体ずつ順番に倒していき、夕方になるころには177体のオークが絶命していた。


 その日の午後8時ごろにギルドに到着し、最近新設された隼人専用の素材受取エリアに26体目のオークが並んだ時点で冒頭のセリフに戻るわけだ。


「全部で何体倒したんですか!!!!!????」


「え~~と(インベントリーを調べている)……177体ですね」


「ひゃく……」


「ななじゅう……」


 さすがにギルド職員も驚きを隠せない。というか半ば専属のような立場になってしまいある程度慣れているはずの受付嬢も絶句したまま二の句を続け……いや、フリーズしていた。どうやら情報を頭で処理しきれなかったらしい


「おいおい……」


「オークを177体って、どんな剣でもなまくらになるんじゃないか?」


「いや、そもそも体力とか時間とかいろいろ足りないものがあるだろ?」


「というか、私は1か月かても177体も見つけられないんだけど」


「だよなぁ。単純な戦闘力もすごいけど、発見能力の方がヤバいよな……」


 さすがの冒険者たちもこれには絶句するしかない。それでもいろいろ言えているのは理不尽に襲われ続けた人生経験によるものか? いずれにせよ。またもや“偉業”を達成したのだ。当初、隼人に対するやっかみがすごかったのだが、最近それはめっきり減った。何故なら……


「これいくらですか?」


「……え? あ! 状態がきれいなので1体当たり金貨20枚です。ここに177体すべてが同じ品質だと仮定して……金貨3540枚です」


「じゃあ、ここにいるのみんなに、一番いいものをおごってやってくれ」


「「「「「「お~~~~~!!」」」」」」


 何の躊躇もなく、先輩冒険者たちに貢物をするのだ。新人によくある下心満載のごますりではないため、やりすぎて不快感を感じることもなく、普通の新人が生活費を切り詰めて貢いでくるマズいエールよりもよほど上質なものを酒場にいる冒険者全員にたらふく食べさせてくれるのだから悪い気はしない。そして何よりも感心してしまうのは、自分が腹いっぱい食べているので、どう考えても稼ぎからしたらはした金レベルであってもそれに不満は起きないということた。


 なお、ギルド直営の食堂からしてみると苦情の一つや二つ言いたい気分であった。何故なら売り上げは増えた。それはいいことだ。だが、いつもはギルド以外の酒場に行く冒険者も隼人のおごりにありつこうと、ギルドの食堂で夕食を食べる者が多くなったために混雑してしまい従来の収益予想の元に料理人や給仕を雇っている直営食堂の職員はすさまじく忙しくなっていたのだ。また急速に食材需要が増えたことで仕入れを増やそうとしたが急にできることではなく、品切れの続出で冒険者たちから苦情が増えたし、どうせおごりだからと酒の量が増えた冒険者たちによって給仕がセクハラを受けたり、皿やテーブルなどを破壊したりとトラブルが増えていたのだ。


次回か次々回以降、物語が大きく動き出す。……かもしれません。

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