第5話
第5話
……………
ッチュキン ッチュキン ッチュキン
バタ バタ バタ
「しゃばの空気はうまいのう」
深夜23時50分。部屋を抜け出した俺は特に波乱なく、バレずに王城を抜け出すことに成功した。唯一の交戦例は門衛だった。石を投げて確認に行かせたが、3人だけは門のそばを離れなかったため、3発だけ発射した。M4A1のバレル先端に取り付けられたAACサプレッサーが発砲炎と発砲音を大きく抑制し、ボルトキャリアが前後するする音だけが妙に大きく響く。その死体をトイレに隠して、さらに王都と郊外を隔てる一番外側の城門を同じような手段でくぐったのは日付が変わって午前1時を少し過ぎたころだった。
ただ、悲しいかな。今は一人だからネタ発言をしたところで誰も突っ込んでくれないのだ。
ウォン…ウォィィィィィィン
「ヒャッフォ~~イ!!」
さえぎるもののない平原をバイクで疾走する。ヤマハオフロードの最高峰、DT200WRは2ストエンジン特有の癖はあるものの、単気筒エンジン特有のレスポンスの良い吹き上りは心強い。社外品に交換したサスペンションとブレーキングシステム、陸自仕様に換装したライティングシステム、マフラーは新車の状態であっても最高峰のバイクをさらにワンランク上に持ってきている。
DTのDはデュアル。オンロードとオフロード対応…つまりデュアルパーパスと言う意味ではなく、砂漠と荒れ地の両方に対応しているという意味であり、Tはトレイル、つまり小道を指し示している。つまり、マウンテンバイクが通るような獣道のような道でも軽快に走る。
で何が言いたいかと言うと…隣町までの約8㎞を20分もかからず走破しました。それはもう、大騒ぎだったよ。うん。蜂の巣をつついたかのように兵士たちがワラワラと。
で、結局逃げました。と言うかよくよく考えたら朝まで門は閉まっているはずだよな? ということで、朝になるまでひたすら東に向かいました。何故東かと言うと太陽は東から登ってくるはずだから、若干早くなるんじゃないんかなと言う希望的観測だ。
そうして、たどり着いたのが、独立交易都市ストリピタルだ。隼人を召喚したユーティスピア帝国と、帝国に侵略されているカールスバルト共和国の間に存在する永世武装中立の都市国家だ。両国経済交流の元栓ともいえる存在であり、両国の高等弁務官事務所と情報機関の支部、犯罪組織の拠点、帝国を代表する大企業LF工業の大規模工場、共和国を代表する老舗財団ロズウェル財団の研究所などが集まり、資本と人の流入が激しい都市でもある。両国の資本を人質にして、国家規模の割には強力な軍隊、多数の冒険者によって支えられた独立は両国にとっても戦時経済を支える上で必要不可欠な生命線にまでなっており、スイスの様に帝国と共和国の間でストリピタルの安全保障条約が結ばれるに至る。
つまるところ、ストリピタルは準軍事的には世界で最も安全な国なのだ。しかし、大規模な資本の流入はそれを狙う犯罪組織の流入と同義であり、低賃金者が生活する地区の治安はよろしくない。
夜が明ける少し前に到着した俺は、ストリピタル手前2キロの地点でバイクをインベントリーにしまって、そこからは徒歩で移動した。そして、門衛をほぼノーチェック(交易都市という立場上いちいちチェックしていたら物流が滞って大変なことになるという判断らしい)で通過して、冒険者ギルドに登録して早速依頼を受けた。依頼内容は薬草採取だ。
これが意外と簡単に終了した。ドローンで群生地を発見、マップ上にピンを置くことで探す手間を大幅に削減。スコップで土ごとゴッソリと掘り起こして、そのままインベントリーに入れることでリスト上の表示は「○○の薬草・保存状態最高」と「良質な土」に分けられる。ギルドの受付嬢に言われた通り、群生地の3分の1程度を残して次のコロニーに。ということを10回ほど繰り返すことで3カ月ぐらい遊んで暮らせるだけの報酬金を初日で手に入れた。
ただ、これは「失敗した」と思った。と言うのも、『大型新人現る!』と新聞に載ってしまったのだ。これでは帝国にバレるのも時間の問題かもしれない。バレたら、確実に捕まえに来るだろう。なぜなら王城から脱出するときに宝物庫の中身をすべてインベントリーに突っ込んで来たからだ。つまりルパン三世もびっくりの世紀の大泥棒である。
当然、国のメンツにかかわる大事件であり、とっ捕まえないとまずいだろう。だから、余りばれないように静かに生活する予定だったのだが……。やらかしてしまった。
なお、その日は宿にチェックインした直後に泥の様に寝てしまった。まぁ、午後一の授業中に召喚されて、そのまま寝ずに、夜な夜なバイクを走らせ、朝になったら、街の中に入り、冒険者登録。街の外で夕方まで薬草採取でチェックイン。流石に、夏休みにゲームのイベントの時に2鉄するのとは全然違う疲れがたまっていた。
なんで飛ばしたんだって? 異世界転生か転移モノを見れば10本に8本は同じような描写がされているのでわざわざやんなくてもこんな感じかな? って読者が想像できるはずなので省きました。