第18話
第18話
……………
俺が地図屋をやるうえで、いくつか約束させたことがある。1つ、むやみに情報を外部に流出させない事。2つ、この仕事によって今後の行動に掣肘を受けないようにギルドは最大限の努力を行う事。3つ、必要経費及び成功報酬、迷惑料に関しては適切な価格を提示する事。
このうち、2と3に関しては現段階でわかることではないが、1に関して。現段階では此方の望み通りとなっている。だが……
「次の分岐が匂いますね。クリアリングするので少しお待ちを……」
静かに角に近寄り、壁を背にしつつ角に近づきながら正面をカッティングパイでクリアリングする。そしたら、180反転して反対側を同じようにカッティングパイでクリアリングする。それで約8割の索敵が終了したことになる。最後に2割を掃討するためにクイックピークで左側を100%掃討し、最後の1割を掃討するために右側の確認をする。まず逆手でハンドガードを持ち銃を構えなおし、壁寄りに足を一歩踏み出して銃口を回す。
「っな!」
ザッ!
「GYAAAA!!」
ババババン!
サイクロプスの脇腹に突き刺したコンバットナイフを回収してから、後ろの二人に振り返り再開を告げる。
「ちょっとしたトラブルがありましたが先を進みましょうか」
「いやいや待て待て! 今のはなんだ!?」
たまに詮索がうざい。今のは何だって言われても、タクティカルクリアランスでT字路をクリアリングして出合い頭でサイクロプスにアサルトライフルを奪われそうになったから、プレキャリの左カマーバンドに挟み込んであったコンバットナイフを脇腹に刺して、ひるんだ隙に距離を取り、アサルトライフルでハチの巣にしただけなのだが? それ以上どういう説明をしろと?
「いや、サイクロプスを一人で討伐すること自体おかしいのだけど……」
条件その1その2で事実上詮索するなと言っているようなものだから此方が聞くなと態度で示せば、そこで諦めてくれるのはいいがいい加減うざい。
それでも、各々の戦闘スタイルが分からないと戦略を組み立てられないと言われたため、教えてもいい情報を話し、役割分担や戦闘時の対応を話し合い、探索を再開した。
そこからの探索は順調そのものだった。余計なおしゃべりは消え、俺が斥候と先制攻撃を行い、多方面から敵が接近してくる場合は、俺が一方を二人がもう一方をと言う風に戦闘を進めていった。角に突き当たるごとに、俺が万歩計とにらめっこしつつ、アドミンポーチの方眼紙にサインペンで書き込む。その間は俺を中心に二人が前後を固める形で警戒に当たる。と言う戦闘スタイルを確立した。当然、最初はうまく行かなかったが数度の戦闘を経た後はスムーズに合わせられるようになった。
グレッグはハルバートを持ち、ハードレザーの鎧を着ていることから重装戦士だと思っていたが、以外と軽やかでジャンプからの空中攻撃や天井や壁を蹴って、敵にめがけてミサイルの様に突っ込みながらの攻撃など、人間をやめているとしか思えないような攻撃を続けた。その相方のエリスは魔法騎士ともいうべき戦闘スタイルで、バフやデバフを掛けながら、自身も細身の片手剣とソードブレイカーの二刀流で戦う。その戦闘スタイルはグレッグの様に見た目を裏切ることなく、速度を重視して、敵の対応能力を超える速度で動き回ることで翻弄するスピードファイターだ。なお、魔法戦士や魔法剣士ではなく魔法騎士と評したのはその戦いの美しさからだ。グレッグがもう少し見身だしなみに気を付けて、片手用直剣の二刀流で全身黒コーデだったらSAOのワンカットに見えただろう。そんな戦闘だった。
二人の職業は戦士と魔法剣士だという。戦士はいいとして、魔法剣士は魔法職と戦士職のスキルが両方習得可能だという。その中の詠唱省略や詠唱破棄、発動待機など様々な詠唱関連スキルを効果的に活用することで美しい戦闘を実現している。一ゲーマーとしてそういった戦闘に憧れる。
「この先に大部屋があるようです。複数の敵の気配がします」
ここに来る前に調べた情報によると迷宮とは主に通路と大部屋の二つに分類されるのだという。そのうち通路は読んで字のごとくだが、大部屋には階層ボスの部屋、その前室、安全地帯、たまり場の4つに分類される。階層ボスの部屋と安全地帯に関しては読んで字のごとく、説明の必要はないだろう。とにかくボスがいて、それを倒すのが目的の部屋だ。その前室と言うのはボスと同系統の下級クリーチャー(階層ボスがゴブリンキングだとしたら、ゴブリンファイターやゴブリンメイジなど)が100体程度がいる部屋で撤退可能だが撤退するごとに損害分が補充されるようになっている。
最後のたまり場。別に不良がハーレーの隣にうんこ座りして煙草とビールをちょびちょびしているコンビニ。等ではなく複数のモンスター(時と場合によるらしいが今回は12体だ)がいる大部屋で、特にボスの前室と言うわけでもないし、安全地帯と言うわけでもないその他と言うべき部屋なのだが、兵力比は3対12である。普通に無理だ。こういう時は大抵3択。1つ、逃げる。2つ、釣り上げる。3つ、手榴弾のような多数を殺傷可能な武器で数の利を生かせなくする。
「~~~~~、~~~~~、~~~、空気刃!」
エリスの魔法によって、15個のかまいたちが発生し、ゴブリンたちの腕や首を切断した。かまいたちが着弾する少し前に、俺は大部屋の中に入り、片膝を立ててその上にサポートハンドの肘を乗せて銃の安定性を増すブレーストニーリングをするのではなく、スピード重視でスピードニーリングで食べ残しにダブルタップで確実に死ぬまで弾丸を叩き込む。そして、頭上を再びかまいたちが通過し、左横からはグレッグが飛び出す。
数秒後、かまいたちや銃弾により行動不能となったゴブリンたちがグレッグのハルバートにはねられ、SAOの死体の様に消えて魔石だけが地面に転がっていた。特に誰かが怪我をするということはなく、3倍の敵に無傷で勝利した。
「ちょうどいいから、ここで10分ほど休憩して、キャンプに帰りましょう」
「そうだな。そろそろ戻る時間だ。休憩したら帰るとしよう」
==========
==========
「お疲れさん。地図の方はどうだ?」
「これから清書です。どこか座れる場所を貸してください」
「ならこの天幕を使え。俺らは外で話しているから終わったら教えてくれ」
「分かりました。では」
キャンプに戻ってきたところで迎えたのはキースさんだった。早速天幕を借りて地図の清書に取り掛かる。道中下書きを書いていたがあれはカモフラージュ。清書用の紙と同じ大きさに拡大したマップを重ねて、ペンでなぞるだけだ。一応カモフラージュとは言え、歩数基準で距離を測り、フリーハンドで地図を描いているが所詮はプレキャリの上部の小さなスペースに収まるアドミンポーチに入る紙だ。そんなに情報量は多くないし、探索範囲の半分もかけていない。
地図が書けたら、それを渡して夕食を食べて、寝るだけだ。