第12話
第12話
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異世界生活149日目朝。その日は、前日の襲撃や日付が変わった直後の襲撃を考えれば穏やかな朝と言えた。第3梯団の糧食部隊が作った朝食を食べながら出発の準備を始めた。第1梯団の工作部隊は早めに朝食を取り、道をふさぐ大木をのこぎりで細かくして、順番に取り除いていた。その間散発的に狙撃を受けるが、主に第2梯団の将校たちであるためそれほど怯えていなかった。野営中の襲撃以外は悲鳴を聞いていない第2梯団の人間は大分怯えていたが……。
勇者召喚してからの帝国は泣いていい。『俺は勇者だ!だから好き勝手していい!』等と勘違いした不良一歩手前だった奴らが本当に不良になって、どんなに家格が低くても子爵家以上の身分を持つ侍女を強姦(レイプのこと)して、その侍女の実家から謝罪と賠償を求められたり、初日に1人脱柵(主人公のこと)して行方不明になったり、勇者たちにとっての貧相な生活のレベルが上級貴族ですら滅多にできないレベルの贅沢であり、それに対して文句を言ったら、『うるせぇ! お前らに顔を立ててやって死刑囚並みの劣悪な環境に耐えてやっているのにその態度はんだ!?』と怒鳴られて、忠告しようとした宰相が全治半年の大けがしたり、何故か急にストリピタルから流れてくるオーク肉の流通量が増えて富を吸い取られたり……。
とにかく帝国にとって不幸が増えすぎた。それに耐えかねた革新派閥が蹶起したというのが表向きの説明であり民衆はそれで納得した。だが、ストリピタル対外情報総局を始めとする各国情報機関はそれでは納得しなかった。そんな急に作った雑な蹶起計画ならそんなにうまくいかないだろうと。
だが、それはインテリジェンスの何たるかをよく理解して、それを武器として、それを飯のタネとしてきた人や、そういった人間から日々報告を受け、その報告をもって政治と言う仕事をしてきた政治家とそれを支える官僚に、下手すると政治家よりも俗世権力におぼれている宗教関係者だけである。ほとんどの民衆、特に帝国臣民やそれを中核とする帝国軍は『これから帝国は更なる躍進の時代を迎える。それは我々の輝かしい未来を保障するものだ』と考えていた。
だが、それがどうだ? たった1日行軍するだけで1500名の将校その他が戦死している。第1梯団の約2万は怒りを覚えていたし、第2梯団は、『ふがいない第1梯団』に怒りを覚えていた。そして今、本来被害担当であるべき第1梯団が攻撃を受けず、我が第2梯団が一方的に被害を受けている。第1梯団と第2梯団のすれ違いはこの時始まったのである。
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「ありゃ? 外れたぞ。……突風が吹いている」
敵がようやく有効な対策を始めたらしい。狙撃は魔法ではない。弓矢をさらに強化したモノととも取れる以上や矢避けが目的の強風を吹かせる魔法で防護可能なのだ。一つ難点を上げるとすれば、狙った目標から外れたとして、その結果流れ弾が別の誰かに当たらない保証がないという点だろう。事実、参謀ぽいやつを狙ったら、隣の司令官と思われるヤツのシチューが入った皿に命中した。結果ローブにとんがり帽子と杖と言ういかにもなおっさんが司令官ぽいヤツに鉄拳制裁を食らってた。
それはそうと、今日は第1梯団を一切攻撃していない。俺はね? ただ本日移動するはずの約10キロにクレイモアが40個とSマイン10個が埋まっている。クレイモアの司令起爆に関してはドローンの赤外線カメラで殺傷範囲内に帝国軍が入るとコンピューター側が自動で起爆信号を送る方式になっている。この為にRQ-11Hハイパーレイブン5機を自動ローテート監視モードにしている。
このモードは簡単に言うと常に監視が途切れないように複数機でローテーションを組み、着陸と離陸をシステム側で自動的に行う全自動モードだ。ただこのモードを維持するためには様々な問題がある。どのようなモノなのかと言うと、ドローン自動回収用のスカイフックと、自動ドローン射出用カタパルトにカタパルト蒸気供給用ボイラーというかなり大掛かりな設備が必要になるほか、スーパーヘロンに無線中継をさせる必要があるためスーパーヘロンの行動域に制限がかかるという点だろう。
とりあえず、騎兵をつぶす。『将を射んとする者はまず馬を射よ』とは違うが、騎兵と言う戦場の主力をつぶすためには動きが大きく的も小さい人間よりも動きが小さく、的も大きい馬の方が良いだろうという判断が一つと、人間じゃないから心理的なショックが少ないというのがある。
そうして、第1梯団が大木を排除するまでに馬を46頭、第2梯団が出発するまでの間に25頭、出発してからも25頭が殺され、第2梯団の騎兵たちは怒り狂っていた。優秀な軍馬1匹で家が建つのだ。それをむざむざやられ有効な対策が出来ないというは、本来騎兵を守るべき歩兵の献身が足りないと怒り狂っていた。
さらに第2梯団内の司令部も怒り狂っていた。森の中に敵の弓兵がいるのだと考え山狩りを行ったが、様々なトラップによりコテンパンにされた不甲斐ない配下の歩兵達を見ることしか出来ないのだ。これで怒り狂わない方がどうかしている。
だが、それも出発から20分ほどで途絶えた。1つ目の監視拠点から射線が通らなくなったのだ。最初の監視拠点は2泊3日の予定であったため、それなりに快適であったが、これから移動する場所は監視拠点ではなく、スナイパーハイドだった。スナイパーハイドは長くて1時間の予定であるため本当に擬装するだけのベリーハイドと言われる簡易的なモノだった。当然、防護には気を使ったが、居住性は低いためさっさと移動できるようにそれ程しつこい攻撃をしなかったのだ。
そして、このスナイパーハイド、M60発火具が置いてある。昨日設置した合計30㎏のTNT爆薬だ。1回に起爆するのは15㎏。最初の1回目は第2梯団に、2回目の起爆は第3梯団に使用する。
ということで、ズドォォ——ン! こうかはばつぐんだ! ヘロンの観測データを集計したタフブックのアプリケーションによると戦死者850名、負傷者2000名とのこと。
そして、爆発の混乱を収めようとする優秀な指揮官たちを狙撃で負傷させていく。狙うは足。手もでいいんだが、身振り手振りで忙しく動いていらっしゃるから当たりそうにないのだ。
そうして、10人ほど転ばしたところ治療魔法のようなものをかけていくいかにもな魔法使いが駆け寄ってきたのでそいつにも胴体と足の泣き別れを体験させてあげる。そして、魔法使いと言う高価値目標が負傷したことで別の魔法使いが……となったので、それも攻撃する。いわゆる友釣りというモノである。10分後、魔法使い20名が精神崩壊して、治療が間に合わなかった指揮官と魔法使いの合計15名が出血多量で戦士した。