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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
はじまり

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ノア 4

 サキさんの命が消えて行く様を看取った私は、漸く自分に課せられた役割に気付きました。

 私は、これからもこうやって沢山の人達を見送らねばならないのかと。

 ヒトを知れば知る程、この辛い気持ちを何度も繰り返し味合わなければいけないと、漸く気付きました。


 ソウジ様が謝っていた本当の理由は、これだったんですね。


 私は浮上の際に瓦礫毎取り込む事で、サキさんや他の身体が原型を留めていた方を回収してから、迷彩を使い船を発進させました。


 勿論、私の分身で保護をした上でではありますが、そのままにして置くのも嫌だったのです。

 お友達と思われる方もおりましたが、損壊が酷く回収後に写真を所持していた事で気付きました。


 この方も、きっと彼を想っていたのですね。


 人工授精に必要な卵子と精子、それに二人の体組織は保管させて頂いて、この国のやり方で弔わせて頂きましょう。あのままで居るよりは、マシでしょうから。


 全ての作業完了までに、数日を要しました。

 その間に、人の文化が生み出した物や、世界中の植物の種を保管していた施設も、施設毎回収させて頂きます。

 もう、遠くないうちに滅びてしまうのですから、有効活用させて頂く方がいいと思います。


 それらの回収を終え、兄弟機達の候補者を選定して確保をし、先に兄弟達には旅立って貰いました。

 もう少し、彼を観察したかったのです。


 彼はサキさんの死を知った後、閉じこもって居ました。

 見ていて不安を覚えるくらい何事にも無気力になり、ただただ泣いては、眠り、起きては泣いて、家族が促さなければ食事すら取らないような状態でした。


 長く人を観察してきた今なら判りますが、このままでは彼が自ら死を選んだとしても不思議ではありません。


 出来る事なら、複製ではなく彼自身を計画の被験体にしたいと考えていたので、私は兄弟達を見送った後も彼を観察し続けていました。


 ですが、そうも言っていられなくなります。

 彼の家族の元へ、その日訪れた人物が話をした内容を聞いて、私は彼を直ぐに保護しました。


 〈貴方は当計画の被験体として選ばれました。〉


「計画?被験体?」


 〈はい、まず当計画について説明します。〉


 彼は最初、戸惑って居ましたけれど計画の話をしていると徐々に協力してくれる姿勢を見せました。流されているだけなのかもしれませんが。


 ですが、私は彼に出来るだけ無機質な機械のように接してしまいます。彼を知る事が怖かったのです。いずれ、彼も死んでしまうのですから。


 彼が船にやってきて直ぐ、質問をされていたので何時ものように事務的に返答をしていた時でした。


「何時までも、キミじゃ呼びづらいね。この間、呼び名は無いと言っていたけれど、僕が名前を付けてもいい?」


 〈はい。問題ありません。〉

 私自身には名前はありますけれど、船にはありませんから、嘘ではありませんね。


「なら・・・そうだな。ノア、なんてどうかな?詳しくは知らないんだけれど、方舟の神話というか、言い伝えに似ているから。」


 それは男性名ですよ、と思わず言いそうになりました。そして、貴方もその名前を私に付けるのですね。ソウジ様と、まるで似ていない貴方も。


 〈かしこまりました。以降当機の名称をノアとします。〉


「これからも宜しくね、ノア。」


 何故、なんでしょう?彼に名前を呼ばれた時、私は嬉しかったんです。何千年も名前を呼ばれた事なんてなかったからかも知れませんし、付けられた名前がソウジ様に頂いた私の名前だったからなのかもしれません。


 それから、気付けば彼に名前を呼ばれる事を待っている私が居ました。


 何故、なんでしょうね。


 そうして半年程が経過し間もなく計画が開始される頃、彼が子供に会ってみたいと言いだします。

 特に断る理由もありませんし、培養された生体も彼の姿は知っていますから問題は起きないと思い、案内をしました。


 しかし彼は生体を見ると激昂し、私を問い詰めます。


「何故・・・彼女がここにいるの?ねぇ答えてよ!ノア!」


 〈彼女を培養し、一定の年齢まで育成するためです。言語等の知識の付与や、貴方の姿の刷り込みも現在行っております。〉


「そうじゃない!そんなの答えになってない!ちゃんと答えろよ!ノア!」

 人に怒りの感情を向けられるのが初めてで、怖くて何も答えられませんでした。


「何故、あの子が僕の恋人だった人に似ているんだ!答えろよ!ノア!。」


 〈特定の個人に似る可能性はあります。遺伝子の調整の際に発生した偶然かと思われます。〉


 サキさんと同じ顔をしていた事を怒る彼に私は、つい嘘をついてしまいました。人に怒られるなんて、初めてだったんです。怖いと感じて、つい嘘をつきました。


 もし、サキさんの複製だと知れたら、彼は私を呼ばなくなるのでは無いかと。彼がまたサキさんが死んだ時のようになるのでは無いかと、怖かったんです。


 私は、更に彼を知る事が怖くなってしまいました。ですが、計画の為には人の感情を知らなければ、生まれてくる生体に教える事なんて出来ません。


 そこで、人の機微を学ぶために、恋愛シミュレーションゲームと呼ばれる物で学ぶ事にしました。ですが、私が今まで見てきた人の営みとは、少し違う気がします。


 その間に計画は開始され、イオリと名付けられた少女と彼の生活は始まりました。

 最初は歩く事もままならないため、様子を伺いながら彼の質問に答える事で補助を行いましたが、段々言葉を話すようになるにつれ、情緒面での補助が必要になり始めます。


「ごめんね。熱くなっちゃったよ。許してくれないかな?」


『しらない!ごしゅじんさまのばかー!』


 子供って、すぐ怒ったり、すぐ笑ったり、すぐ泣いたり、こんなにも感情がコロコロと変わるんですね。私、本当にこの子の補助が出来るんでしょうか?


 最初は本当に何もかもが分からなくて、彼と一緒に慌ててしまい、つい彼に事務的な応答が出来ない場面が何度もありました。


 やはり、何かで学ばなければいけません。次に私が教材に選んだのは、ソウジ様が好きだと言っていた美少女ゲームと呼ばれる作品です。


 最初に選んだ物が偶々だったのでしょうが、恋愛シミュレーションより感情が細かく描写されていて、理解できます。

 これが人の恋愛なのかと私は感動すら覚え、生殖行為ですら美しいものに見えてしまいました。


 幾つもの作品を見てから、イオリの情緒面の補助を始める事にします。


 〈イオリ、今日から貴方が困った事、分からい事や、彼に聞けない事は私に相談して下さい。〉


『私も、ノアに聞いていいの?』


 〈はい、勿論です。私はイオリの補助もする為に居るのですから。〉


『じゃあ、何でひつじさんたちはあんなせまい所にいるの?ご主人さまの言ってた事むずかしくてわからなかったの。』


 〈あの動物達は、人間が洋服を作ったり、肉を食べたり、乳を飲んだりする為にヒトが作り替えた生き物達なんです。だから、彼らが生きるためには誰かが育てなければならないんです。〉


『んー?ご主人さまと同じ事言ってるー!よくわからないよ!』

 理解力はまだ余り高くないようで、もう少し言葉を選ぶ必要があるようですね。


 〈彼らが居る事で、貴方は肉や卵を食べられるんですよ。服の一部だってそうです。だから、私が彼らの世話をしてるんです。〉


『ノアがいるから、私お肉が食べれるの?』

 〈はい、そうですよ。〉

『そっかー。ノア、ありがとう!』


 納得してくれたようです。でも、なんでしょう。お礼を言われるのは嬉しい、ですね。


 その後もイオリに様々な事を教えます。ただ、最初は彼に聞いた上で、どうしても判らない事や、彼には恥ずかしくて聞けない事に限定しました。私も、彼の発言から学びたかったので。


『ノアは私のお姉さんみたいですね。』


 冬に差し掛かった頃にアニメで兄妹について見た後、イオリは私にそんな事を言ってきました。口調が私に似てきたのは、色々話をしてきたからかもしれません。


 〈私が姉ですか。なら、彼は兄になりますね。〉


『ご主人様がお兄さん、ですか。それだと、何か違うというか、お兄さんだと結婚、出来ないですよね?それは嫌なんです。』


 〈貴方達は血の繋がりなんてありませんから、問題無いです。何だったら、キスしてしまえばいいんですよ。そうしたら、彼も妹のように扱わなくなるかもしれませんよ。〉


 私から見ても、彼のイオリに接する態度は兄妹のソレに近いように思えますので、煽るのもいいかもしれません。


『流石に、それは恥ずかしいです!』


 その時はイオリは恥ずかしがりましたが、煽り続けた結果サオリが生まれた後に初めてキスをしました。

 その光景を見て少し安心すると同時に、羨ましく感じている私に気付きます。


 何故、なんでしょう。


 サオリも一緒に暮らすようになり暑くなり始めた頃、サオリが悲しげな表情をしながら私に相談をしてきます。


「姉上を見る兄上の目が、優しいんですよ。あたし、それが嫌なんです。」

 これが嫉妬なんでしょうか。


 〈なら、サオリ。彼にキスをして見るのはどうですか?イオリのように見てくれるかもしれませんよ。貴方達は二人とも彼の伴侶なのですから、問題ありません。〉


「キス、ですか・・・。」


 それから少し時間が経過して、イオリ達は海に出かけ喧嘩をしてしまいます。サオリにもイオリと同様に、キスをする事を煽ったのは私です。二人の仲が悪くなってしまったのは私のせいなんです。

 こんなつもりではなかったのに。


 二人の関係が悪くなると計画に影響が出てしまいますし、私自身が嫌です。そこで、彼に仲直りするように言われた時に、二人の関係に干渉する事にしました。


「姉上、兄上が仲直りするように言いましたけど、あたしは姉上に負けたくないんです。兄上はあたしのなんです!」


『私だって、譲る気はないですよ。私のご主人様なんです!』


 〈二人とも彼の伴侶なんですから、喧嘩はおやめなさい。〉

「『ノアは黙ってて!』」

 怒られてしまいました。ですが、これでは埒があきません。


 〈では二人とも。このままでは彼を悲しませるだけですから、サオリが成長するまでイオリは彼に恋人らしい事をしない、そして彼がどちらかを選んだとしても姉妹として必ず仲良くする事、この二つは約束してくれませんか?そして、この事は彼には黙っていて下さい。反発されるかもしれませんから。〉


 彼を引き合いに出すのは少し心が痛みますが、仕方ありません。私の妹達なんですから、私のせいで仲が悪くなるのは嫌だったんです。ですが、今培養槽に居る二人は、計画のために少し違う教育をしましょうか。


 彼の表情を思い出したのか二人は同意してくれて、なんとかこの場は収まりました。

 でも、こんな風に感情をぶつけ合える事が羨ましくて、とても切ない気持ちになるのは、何故なんでしょうか。


 彼に話すなと言った理由を説明すると、イオリ達も納得してくれました。私も、彼に嫌われたくないと言うのは黙っていましたが。


「そう言えば、ノアの姿って教えられてはいますけど、あの人形に映ってた顔って大人ですよね?」


『確かに、聞いてた話とちょっと違いますね。ノア、貴方の姿を見せてくれませんか?』


 えっ・・・それは嫌なんですけど。


 〈あの顔は、私の姿を成長させた時の予想ですから違うのも当然ですし、貴方達は知っているからいいではないですか。〉

 私だって、成長した姿の方がいいんですよ。前はそうは思いませんでしたが、貴方達が成長していくのを見ていると羨ましくてつい、作っちゃったんです。


「いいじゃないですか。ちょっとぐらい見せてくれても。」

『そうですよ。きっとかわいい顔なんでしょうね。』


 何ニヤニヤしてるんですか貴方達。さっきまで喧嘩してませんでしたか?やめてください、本当に恥ずかしいんですから。


 〈いつか機会があればね!〉


 次生まれてくる二人には、絶対に教えないでおきましょう。

近いうちに、次回作のプロローグを投稿します。ノアが終わったくらいになりますので、よかったらそちらもご覧頂ければと存じます。作風は大分変わりますが、本格的な投稿はこちらの作品が完全に終わり次第となります。 20/7/10


前の文章の方が後の文より時系列が過去になる予定だったんですが、時系列が混乱しそうだったので、最初の一年は→最初は

に変更します。7/10


更に描写不十分だと思いましたので、描写の追加をしました。

7/10

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