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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
はじまり

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89/100

おわり

『あはは、そんな事もありましたね。』


 夕陽に照らされながら力なく笑う、僕の奥さん。


「あの時は、本当にごめんね。僕が意気地なしだったばかりに、君をひと月も待たせたんだから。」


『大丈夫ですよ。こうして、幸せにして頂けましたし。それに、何度も同じ事で謝らないでくださいな。』


 イオリは僕に手を伸ばそうとするが、力が入らないせいか途中で力尽きる。その様子を見て、涙が溢れた。



 あれから僕達は結婚をして、二人の子宝に恵まれる。

 一人は赤い髪、もう一人は桃色の髪の双子の女の子だった。イオリは女の子が良かったらしく嬉しそうで、皆で凄く大事に育てたんだ。

 名前はミクと、モモ。名前は皆で考えた。


 娘達の成長速度は、培養槽から生まれていないのに早くて、でもイオリ達よりは遅かったかな。


 勿論、サオリとも結婚式をしたし、子供も出来た。そちらも女の子の双子だったけど、イオリの子供と同様に皆で育てたんだ。


 マホとシホとは一緒に結婚式をする事になって、自分とはしないのかとノアにも泣き付かれ、三人と同時にしなくちゃいけなくなったんだけど、それも今から思うと良い思い出かな。

 当時はかなりドタバタだったけれど、たまに皆で思い返しながら、笑っていた。


 ちなみに、マホとシホの子供も双子だった。双子が生まれるのは培養液の影響だそうだけど、マホとシホの小さな身体では相当大変だったようで、手術をしなくてはいけなかったんだ。


 そして、もう二人。ノアは自分の子供だと言い張るけれど、僕達に秘密で培養槽を使い、生み出した。

 聞いた時は正直怒ったのだけれど、ノアの思いも理解出来た。本気で僕との子供が欲しかったのだろう。悲痛な表情で僕の遺伝子を使ったと言われたら、何も言えなくなるよ。


 それから、娘達にも子供が生まれ、近くに何軒か家を建てて、皆で農業をやりながら暮らしていたんだ。



『泣かないでください。貴方が泣く姿はみたく無いと言ったじゃないですか。今の私には、抱きしめる事も出来ないんですよ。私まで・・・辛くなっちゃうじゃないですか。』


 結婚してから10年経ったのに、イオリは当時のまま美しい。

 元々細かった手足は更に痩せ細り、顔も窶れてはいるが、結婚式をした頃とあまり変わりない。


 ある程度成長すると、老化が進行しなくなると聞いていたし、僕より長く健康でいるハズなのに。

 なのに何故、こんな事になっているんだろう?


 異変の始まりは、1カ月位前になる。

 ふとした拍子にイオリが転んだので、大丈夫かと声をかけると、起き上がれないと僕に伝えてきたのだ。


 助け起こそうと慌てて駆け寄り、抱き起こすと、明らかに・・・軽かった。

 その2週間程前に夫婦の営みがあった時は、何ともなかったはずなのに。


 ノアに問いただすも、原因は分からないらしい。

 治せないのかと聞くが、既存の病気では無く、老人のように身体のあちこちが衰えていってるのだという。しかも急速に。

 そこからイオリが立ったり出来なくなるまでに、余り時間は掛からなかった。


 治療する術はなく、僕達には見ている事しか出来ない。

 ノアに原因を調べて貰っている間、未知の病原体の可能性もあるため、僕とノア以外は子供達の家に避難してもらった。


 僕は、辛くても側に居なくちゃいけない。彼女を一人にしたくないから。


『貴方の髪の毛、綺麗な黒だったのに、真っ白に・・・なっちゃいましたね。』


 僕の髪の毛は、マホ達と結婚する頃に、お米や小麦等を育てる際に使われた培養液を食事で摂取した影響で、真っ白になった。その兆候は数年で現れていたらしい。


「真っ白は変かな?」


『いえ、似合ってますよ。貴方が変わるわけではありませんもの。』


 穏やかに微笑むイオリを見ているのが苦しい。僕は、なんて無力なんだろう。

 でも、目を背けてはいけない。


「きっと、ノアが原因を突き止めてくれるから。君のお姉さんだから、何とかしてくれるハズだ。」

 気休めにしかならないのかもしれないけど、希望をまだあるはずなんだ。


『それは、どうでしょうね?そんな事より、抱きしめてくれませんか?貴方の暖かさを感じたいんです。寒いんですよ。』


 夏が終わったとはいえ、まだ寒さを感じる時期では無いのに、少し身震いをしている彼女。

 イオリの願いを叶えるために、そっと抱きしめる。少しでも力を込めると、折れてしまいそうなくらい細く、体温も低い。


 〈原因が・・・わかり、ました。〉

 久しぶりに、音声だけで声をかけられたかもしれない。でも、その声は暗く口取りは重い。僕はイオリを離してから、ノアに問いかける。


「原因がわかったんだね。それで、イオリは元に戻るの?」


 〈・・・なさい。〉

「ノア?」


 〈ごめんなさい!私にはどうする事も出来ないの!ごめんなさい!〉

 彼女の悲痛な叫びが響く。一体どういう事だ?


「ノア。落ち着いて、話してくれないか?」


 〈はい。取り乱してすみません。イオリが起きられなくなってから、彼女の体組織を分析したんです。原因は培養液でした。〉


「培養液が、原因?」

 ちょっと待て。それじゃ、この状態ってサオリ達も・・・。


 〈はい。なので、私は培養液の影響を取り除けないかと思い、ここ暫く実験用のネズミを使い、実験を繰り返していました。ですが、どうにも出来なかった。〉


 〈基本的に生物の細胞分裂の回数は一生のうちで決まっています。培養液はその速度を向上させると共に、細胞分裂の回数を増やし、分裂を繰り返す事での遺伝子の損傷を治す作用があるはずなんです。勿論、実験もしていて延命にも成功していたので、計画に利用しました。〉


 〈そのハズだったんです。実験ではそんな事なかったのに!〉

 ノアも感情が抑えられないようで、また取り乱し始める。当たり前だよな。自分の妹のような存在がこんな事になるなんて、冷静で居られる筈がない。


「ノア、落ち着くんだ。ゆっくりでいいから。」


 〈・・・ごめんなさい。実験でわかった事は、培養液の影響を受けて成長した人や動物が、培養液の影響を受けた食物を経口で摂取した場合に許容量を超えると、細胞に備わっている自壊作用が働いてしまうようです。そして一度そうなってしまうと、もう・・・止められません。〉

「そんな・・・。」


 目の前が、真っ暗になる。方舟の中は植物の育成等にも培養液が使われている。その為、土にも培養液の成分が含まれているのだ。だから、方舟にいる限りその影響を受けずに生きるなんて・・・出来やしない。


 〈魚等が偶に死んでいたのには気付いていたのですが、寿命の短い生き物ばかりでしたから、こんな影響があるなんて、分からなかったんです。何で、こんな事に・・・。〉


 ノアのせいでは、ないよ。君はただ、自分の役目を全うしようとしただけだから。

 そうノアに伝えたかったのに、上手く言葉が出なくなる程、僕の中は感情で溢れていた。


『やっぱり、無理でしたね。動けなくなった時から、そんな気はしていたんですよ。』


 何で、死ぬ事を宣告されたのに、そんな穏やかに笑ってられるの?


『姉さん、ありがとう。ずっと研究してくれたのは、サオリ達の為でもあるのでしょう?これからも、姉さんの優しさでサオリ達や、ミク達を守ってあげてくださいね。』


 〈ヤダ!嫌だよ!イオリ、貴方もいなきゃ、嫌だよ!〉


『私は、充分過ぎるぐらい皆に愛されて、ここまで生きて来ました。たった、13年でしたけれど、私も私なりに皆に気持ちを伝えてきたんですから、後悔はありません。』


 やめてくれ!お願いだから。


『あぁ、ごめんなさい。一つだけ、ありますね。貴方を残して先に行ってしまう事。貴方の恋人だったサキさんと、同じ事をしてしまうのは、本当にごめんなさい。』


 謝らないでくれ!そんな事、言わないでくれ!


『そんな顔して、泣かないでくださいよ。貴方が泣く所は見たくないって、言ってるじゃないですか。』


 だったら何でそんな風に笑うんだよ。


『だって私、幸せだったんですよ?貴方にこんなにも愛されて、私も精一杯貴方を愛して。私の生きた証まで残せて、これ以上何を望む事があるんですか?贅沢すぎますよ。』


 僕とずっと一緒に居るって言ったじゃないか。


『私はずっと一緒に居ますよ?貴方が姉さんに言ったじゃないですか。』


 僕が?


『貴方が語り手になって、私の事を忘れないように、伝えて行ってください。それなら、私は貴方の中で生き続けますから。ずっとずっと私の分まで、生きてください。すぐに私の所に来たら怒りますからね。』


 キミが怒ると怖いから、勘弁してほしいな。


『それに、姉さん。今すぐ私は死ぬわけじゃ無いんでしょう?妹達や、娘達、孫達にもお別れをする時間くらいはありますよね?』


 〈貴方がまだそんなに話せるなら、多分・・・まだ何日かはあると思います。〉


 皆、きっと泣く、だろうね。サオリの子供達もキミを母さんと呼んでいたから。


『貴方みたいに泣かれると、私も辛いですよ。ミクやモモの子供はまだ小さくて上手く喋れませんから、おばあちゃんと呼ばれなかった事が寂しいんですけどね。見た目が若いせいか、お姉ちゃんって呼ばれますし。』


 おばあちゃんって呼ばれたかったの?


『んー?微妙なところですね・・・。呼ばれたいけど呼ばれたくないんです。乙女心は複雑なんですよ。』


 イオリはお姉ちゃんでいいと思うよ。


『憧れでもあったんですけどね。・・・ごめんなさい私、ちょっと話疲れちゃいました。少し寝ても、いいですか?』


 うん、おやすみ。明日はミク達も呼ぶからね。


『はい。おやすみなさい。愛してますよ・・・勇樹さん。』


 最後に、僕の名前を呟いてイオリは瞳を閉じた。

この話を書くために、1か月と少し毎日投稿してきました。

蛇足と思われるかもしれませんが、想いを繋いでいく話なので・・・。ご批判がありましたら遠慮なくお願いします。


初期案と大分性格が変わってしまったキャラ(主にノアの性格がかなり悪かった)も居ますが、全体的に書いていて楽しかったです。


コメントや評価、ブックマークをして頂いた方や、お読み頂いた方々へ、短い間ではございましたが拙い作品にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。


これで本編は完結となりますが、今まで名前だけで使わないでいた設定や前日譚がまだありますので、お楽しみ頂ければと存じます。

ただ、内容補完と各キャラの結婚式くらいで間にあった出来事等は書きません。


ただ、完結済みに設定するのは、次話以降も内容としては「はじまり」に含まれるので、少しの間お待ち下さい。



次話から、ノアの話です。

本当は恋人の辺りで挟む予定の話でしたが、ノアがヒロインだと丸わかりになるため、完結後に持ってきました。


まだ設定を練っている段階の次回作も、蛇足なのかもしれませんが、どうしても書きたい部分があるため、必ず書きます。

改めて、最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。


眠る人

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― 新着の感想 ―
[一言] あー!? 忙しくて読んでない日に完結してた!? 完結おめでとうございます! 毎日投稿本当凄いと思います。 続きと次回作、楽しみです!
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