9 あおはる 11
二度目は一度目より長く、キスをした。
唇を離し、サオリと向き合う。きちんと謝らなければいけない。
「ごめんね。悲しませるような事をしてしまって。」
「苦しかったんですよ。兄上に見捨てられたような気がしていて。せめて、妹扱いでもいいから、側に居たいって。辛かったんですよ。」
ここ三か月の事を思い出して相当辛かったのだろう、表情を歪ませている。
「本当にごめんなさい。サオリの気持ちを知っていたのに。」
「やめてください。確かに自分からキスした事もありますけど、兄上から言われると恥ずかしいですよ。」
「確かに、温泉でもキスされたね。」
「え?兄上?あの時寝ていませんでしたか・・・?」
あ、しまった。思わず言ってしまった言葉に慌てて口を押さえるが、手遅れだった。
「兄上?まさか、寝たフリだったんですか?」
「えー、あー。えーと、うん。」
僕の答えに、サオリは俯き、肩を震わせる。そりゃ怒らせたよね。自分の失言の多さは、判っていても直らないのか。
その様子に慌てて謝ると、彼女は顔を上げる。たが、表情は笑っていた。
「焦らなくていいですよ。起きているの判ってましたから。兄上は隠し事が苦手なの、自分で気付いてないんですね。このくらいの仕返しは許してください。」
彼女は笑いながら、知っていた事を打ち明ける。からかってたのか。怒られるよりいいけど、複雑な気分だ。
でもそれだと、知っていてキスをしてきたって事になる。
「兄上に振り向いて欲しくて。姉上を見る目が優しいのが、羨ましくて。あたしの気持ちを知れば、あたしの事も見てくれるんじゃないかなと思ったから、あの時キスしたんですよ。」
起きている事を知った上で、意識して欲しいために口付けをしたのなら、僕が思っていた以上に、ずっとサオリを傷付け続けていたんだと、漸く解った。
僕は、サオリに償えるのだろうか。
「そんな顔、しないでください。兄上はすぐに顔に出ちゃうんですから。あの時狸寝入りだって気が付いたのも、表情が曇ったからですよ?姉上も笑いそうになりながら、兄上をからかってましたし。」
僕は、これから先ずっと彼女達の手の平の上で弄ばれるような予感を覚えた。
「ごめん。」
「謝らないでください。でも、本当に悪いと思ってるなら、お願い聞いてくれませんか?」
「何かな?」
サオリはモジモジしながら、僕を見ていた。言いにくい事なんだろうか?
「あたしを、今抱いてください。」
「抱きしめるって事?そのぐらいなら、幾らでもするけど。」
「違います!赤ちゃんをくださいって事です!」
サオリの想定外の発言に思わず吹き出して、咳き込む。大分成長したとはいえ、まだ肉体は15歳前後のはずだから、そんな事させられる訳がない。
「それは、まだ早いよ。せめて来年まで待たないと、身体の負担だってあるんだから。」
「イヤ!姉上とはもうしたんじゃないんですか?」
「そんな事、まだした事もないよ!」
「なら、あたしが!」
僕の答えにサオリは嬉しそうになり、僕を押し倒した。
え?何これ。凄い力で押さえられてて動けないんですけど。
というか、これ、普通逆じゃない?
「兄上・・・。」
サオリの顔が近づいてくる。
『ダメー!』
その時突然声が響き、足音がこちらに近づいてくる。
「サオリねぇさま、赤ちゃんはまだ早いです。」
「マホも赤ちゃん欲しい!」
『それは私が先なんです!サオリ、ご主人様から離れなさい!』
イオリだけでなく、マホやシホもいた。マホさん、キミはまだダメだと思うよ。倫理的に。
「居たのは気付いてましたけど、そのまま見てたらよかったのに。」
サオリさん、キミ見られているの知ってて押し倒したの?
僕は見られながらはイヤなんだけど。ってそうじゃなくて、まずは落ち着こう。
「サオリ、離してくれないかな。」
「イヤです。兄上が抱いてくれるまで離しません。」
「サオリがもう少し成長したらね。」
「姉上より先がいいんです!」
何でそんなに必死なんだろうか?また泣き出してしまいそうになっている。
「姉上に赤ちゃんが出来たら、また、あたしを見てくれなくなりそうだから!イヤなんです!」
『サオリちゃん・・・。』
気持ちが解るのだろう。イオリは、何も言えなくなってしまったようだった。
「そんな事はしないよ。」
「先の事なんてわからないじゃないですか!そうなってしまったら遅いんですよ!だから、兄上があたしを見てくれている内に、あたしにも赤ちゃんをください!」
心境を叫んだためか、拘束が緩んだ。サオリを落ち着かせないといけないと思い、抱きしめる。
「大丈夫だから。約束する。サオリを悲しませる事はしないよ。」
優しく呼びかけながら、彼女の頭を撫でつつ抱きしめる。
暫く頭を撫でて続け、サオリが落ち着くのを待った。
段々と落ち着きを取り戻し、サオリがもう大丈夫と告げたので、離す。
「兄上、ごめんなさい。痛かったですよね。」
「大丈夫だよ。痛くはなかったから。」
『サオリちゃん、落ち着きましたか?』
「はい、姉上。あたし、焦りすぎてました。兄上が、今あたしを見てるうちしかないって、思っちゃって。」
それは、僕がサオリを不安にさせてしまったからなんだろう。胸の奥がチクリと痛む。
『なら、サオリちゃん。提案があるんですよ。』
「提案ですか?」
『はい。初めての時は、二人一緒にしましょう。勿論私からしてもらうのは譲れませんが。』
えっ?何言ってるんだ?
「あ、姉上?」
『勿論、冗談ですよ?』
イオリは場を和ませたかっただけのようだが、少し思惑と違う反応だったらしく、やや不満そうだった。
イオリの冗談は割と重くて、反応しづらい。
そうしてキャンプ二日目も終わり、翌日僕達は帰宅した。




