9 あおはる ⑥
着替えや、タオル、作成した簡易テントや鍋等を詰め、準備が完了したので朝食の後に出発した。
目的地までは15キロあるが川を辿れば着けるため、到着まではあまり心配はしていない。
歩きやすい道だけでは無いようなので、時間は余裕を持って7時間程を予定していた。
火を維持出来る程燃料は持ち込めないので、生木を燃やせるよう窯を作る必要があるのと、食料の確保のため早めに到着したいが、マホやシホの体力を考慮して長めに休憩を取る必要があったからだ。
僕が一番体力がない可能性もあるが。
「じゃあ、最初は僕とサオリが魚釣りをする係で、イオリ達はキノコや山菜の係でいいかな?」
歩きながら役割を決め、少しでも確保出来るようにする。
『はい。シホちゃんには辛いでしょうし、マホちゃんも余り魚を捌くのは得意ではないでしょうから。サオリちゃんは器用なので、私とサオリちゃんを分けた方がいいと思いました。』
イオリの言う通りだな。最近はお姉さんというより、お母さんのように感じる事がある。
「魚がダメそうなら、僕達も採取に回るよ。」
「そうですね兄上。釣れるとは限りませんし。」
釣竿と針は用意してもらった。僕は釣りの経験はあるけれど、流石に自作まではした事がなく、針の加工も出来なかったためだ。
暗くなるまでの数時間で確保は難しいだろうから、最悪今日は収穫無しでもいいように食材は持ってきた。
4時間程歩き、日も高くなったので昼食を摂る。
既に行程の七割を過ぎていて、予想よりは大分早く、後1時間半も歩けば到着できそうだ。
「大分早く着けそうだね。マホ、シホ、大丈夫?」
「はい。ボクは大丈夫です。」
「マホも大丈夫!」
『二人とも、水分はちゃんと摂らせてますから大丈夫ですよ。これを生理食塩水と言うんですか?お砂糖とお塩だけで、こんなに飲みやすくなるんですね。』
暑いし、移動しながら糖分と塩分を補給出来るからいいよね。甘めに作ったからイオリ達にも好評のようだし、畑仕事の時もまた作ろうかな。
お昼休憩を挟み、歩き続けた僕達は湖に到着した。
「兄上、ここもかなり綺麗ですよ!」
「まだ少し冷たいけれど水も透き通ってる。こんな綺麗なら水着持ってくればよかったな。」
『ありますよ水着。私達の分とご主人様の分も。』
「えっ?あるの?ありがとうイオリ。」
『また泳げるかなって思いましたから。持ってきて正解でしたね。』
サオリの提案との事だったので、サオリにお礼を言い、まずは遊ぶよりも寝場所と竈を作る事にした。
食料の確保状況によっては二日程滞在しようかと思っていたためだ。
テントはサオリとイオリに任せて、僕はマホとシホと一緒に石を集めて積み上げていく。
石を拾っている最中岩場を見つけ、少し湖に迫り出している場所があったので、そこで釣りをするのが良さそうだ。
石を50センチ程の円筒形に積み上げ、開口部分を作って薪を焚べる事が出来るようにする。その開口部分と反対の位置に少しだけ隙間を残して、開口部と空気穴以外の側面は泥で覆う。最後は上部に金属の網を置き、完成となる。
途中から、テントの設置を終えたイオリとサオリも手伝ってくれた。
完成した後、持ってきた着火用の木の皮に火を着けている間、皆に少し枝を拾い集めてもらい、火が安定するかを確かめた。
「大丈夫そうかな?」
「実際に、料理をしてみないと判らないですね。兄上、試しにお湯でも沸かしてみますか?」
「それがいいかも。サオリ、任せていいかな?」
「はい、任されました!」
窯はサオリに任せて、予定通り食料の調達を手分けして行う。
魚釣れるといいんだけれど。
餌はミミズを岩の下等から探して確保した。この区画で農業をやり始めた当初は見るのも嫌だったのに、慣れるものなんだな。
先程の岩場の上で釣りを始めると、20分程であっさりと一匹釣れる。30センチ程の魚だが、名前は知らない。
ノアに聞いてもいいのだが、食べられればなんでもいいので、気にしないで釣りを続けることにした。
バケツは持ってきていないため、鍋に水を入れてそこに確保していく。
それから10分程で丁度二匹目が釣れた時、サオリがやってきた。
「兄上、もう釣れたんですか?」
「二匹目だよ。これはちょっと小さいけどね。」
僕はサオリの声に、少しビクッとしてしまう。彼女は少し顔を顰めるが、すぐに笑顔を作り釣れた事を喜んでくれた。
「凄いですね。二匹目ですか。」
「そうかな?多分、人の姿が見えてたら、こんなに上手くいってないと思うけど。」
岩場で正解だったのかもしれない。
僕はサオリにも餌の付け方を教えて、彼女も釣りを始めた。
二人で六匹目を吊り上げた辺りで、日が陰ってきたので、捌く必要もあるため窯まで戻る。
魚は内臓を取り除き、串に刺して塩を振り網の上で焼くのがいいだろう。
魚の処理を終えた頃、イオリ達も戻って来た。
「姉上、これなんですか?」
『フキという山菜みたいですね。タマゴタケって言うキノコも見つけました。ノアに聞いたらどっちも食べれるそうですよ。』
「旦那さま!これ食べてみて!」
マホが僕に何かの果実を食べさせる。甘く酸っぱいが美味しい。
「それはキイチゴの一種だそうです。ボク達も食べてみたら美味しかったので、旦那さまにも食べてほしくて。」
「ありがとう、マホ、シホ。美味しいよ。」
食料が簡単に見つかって拍子抜けしたが、多分そうなるように調整されているのだろう。人が生きれるように作られている区画だから。
山菜のアク抜きや、キノコを使った料理等今まで食べた事のない品に、彼女達も満足だったようだ。
そうして、キャンプ初日は歩いた疲れもあってか暗くなってすぐ、皆で眠ってしまった。




