3 すき ①
秋が過ぎ、冬になり、かなり冷え込み食器を洗ったりするのも辛くなってきたなと思いながら、食事の後片付けをしていた僕のお尻に、突如衝撃が走った。
『すきやきー!』
「うわ!びっくりした。」
振り向くと、どこかの体術秘伝奥義を僕に放った姿で痛がるイオリの姿があった。いつか絶対真似すると思っていたよ。
しかも台詞も、真似してほしくないアニメの真似ですよね、それ。
「スキヤキじゃなくて、隙ありだよ。」
冷静にそう返すと、今日はスウェットじゃなくてデニム履いててよかったと心底思った。
「痛かったでしょ?」
『うん、ご主人さま。結構痛いです。』
「その技はやる方も痛いから、やらない方がいいよ?」
また幾らか成長したイオリだが、まだまだ子供だなと思いつい笑ってしまった。
『何で笑うんですかー!』
「ごめん、ごめん。」
『また笑ったー!』
笑われたと思ったイオリは抗議の声を上げるが、違うんだ。こんなやり取りをするのが久しぶりで嬉しいんだよと、そう伝えたかったんだけどそれはやめておいた。
聞かれるだろうから。
そしてそれに答えてしまうときっと、泣いてしまうだろうから。
少しむくれた彼女の頭をよしよしと撫で、もうそろそろ2年経つんだなと思いながら後片付けを終わらせた。
「さて、午後は何をしようか?」
『今日は畑はいいんですか?』
そう聞かれるが、今の気候だとビニールハウスでも作らない限りはそこまで手が必要な作物は作っていないため、大丈夫だよとだけ返しておいた。
『じゃあ、一緒にアニメ見ませんか?』
「うん、そうしようか。イオリが選んでくれる?」
『わーい!』
何にしようかなー?といいながらタブレットを操作するイオリを見ていたら、その姿が最近ますます僕の大事な人に似てきたなと思い、ふと疑問がわいた。
僕1人だけになる一か月前に、彼女は死んでしまった。遺体は見つからなかったが、彼女の最後はどんな風に訪れたのか、そして髪の色は全く違うけれど何故イオリが彼女に似ているのか、当時の僕は生きていく気力を無くしていたため考えもしなかった。今更考えても仕方の無い事なんだけれども。
そんな事を考えながら、2人で見る作品を選ぶイオリを見つめていた。
僕の視線に気付いたイオリは少し照れながら僕に尋ねる。
『どうかしましたか?』
「イオリはかわいいなぁと思って。」
ますます赤くなり、うーうー唸っているイオリを見て、とりあえず思考を放棄して一緒に見るアニメを決める事にした。
『女の子ばっかり描かれてますね。』
「あれ?そのフォルダの中あんまり見た事ないの?」
『はい、魔法少女とは違うような?』
最近は僕の手伝いをして畑をしたり、家事等もやってくれるようになったため、アニメを見る時間はかなり減って来たから仕方ないかと思いつつ、じゃあこれにしようと僕が作品を決めた。
というか、少年漫画作品とか、魔法少女物だとかを好んで見る所まで彼女に似てるのか。そんな事を思った瞬間、胸が苦しくなった。
『ご主人さま?大丈夫ですか?具合悪いですか?』
余程顔色が悪かったのか、イオリが不安そうな顔で覗きこんでくる。
「大丈夫だよ。」
『調子が悪いなら、寝ますか?』
ますます心配をしてくるイオリを見て、この子にこんな顔させちゃいけないと強く感じ、イオリの頭を撫でると少し照れはすれどまだ表情は不安そうなままだ。
「本当に大丈夫だから。」
『無理はしないでくださいね。』
こんな風に、心配するようになったイオリを見て僕は感慨深いものを感じたが、それを伝えてしまうときっと心配してるのにと怒り出してしまうので、それは伝えなかった。
「イオリは優しいね。」
そう言いながらイオリの頭を撫で続けると僕の顔色も良くなったのか、彼女も安心したようだ。
『また辛くなったらいつでも言ってください。お布団の用意しますから。』
「うん、ありがとう」
そんな風なやり取りが終わり、漸く2人でアニメを見始めた。
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