9 あおはる ①
翌日、朝起きると全員が僕の部屋で寝ていた。鍵をかけて寝たはずなのだが、確認をすると鍵がかからないようになっている。
え?ナニコレ?
本気で怖いんですけど?
『おはようございます。サオリちゃんと私で、ご主人様がお風呂に入っている間に細工をしたんですよ。』
「おはようイオリ。いや、そうじゃなくて、君達何してるの?」
僕が起きた音でイオリも起きたようで、後ろから声をかけられた。何て物騒な事を、しれっと言っているのだろうか。
『だって、昨日の様子ですと本当に鍵をかけて寝そうだったので、仕方がなかったんです。』
「えぇー・・・。」
ドン引きである。
そして何故、僕が悪いみたいに言われなければならないのだろうか。
『私達の楽しみを、奪われる訳には行かないので仕方ない事なんですよ。理解してください。』
真面目な顔でイオリが言うが、真剣な顔をして言うような事ではない。
「ちょっと、ノア?何で止めてくれないの?」
思わずノアを呼んでしまったのだが、まぁ止める手段はないよね。
〈当機からの提案です。〉
お前が主犯なのかよ。
その後、朝食の席で全員に抗議をするも、僕以外の全員に却下され、自分で鍵を直そうと試すが構造が分からず、ドアノブの分解さえ出来なかった。
それから1週間の間、扉の前に荷物を置いて寝たり、つっかえ棒を仕掛けたり等したのだけれど、物を置いても彼女達は僕より力が強いので意味はなく、つっかえ棒は一回目は効果があったが、以降隠されてしまい二度目は出来もしなかった。
寝ている間は何もされてはいないようなので、最後は僕が折れ、彼女達に何もしないと約束をさせ、一緒に寝る事は了承した。
流されていると思うのは、間違いではないだろう。
朝食を摂りながら、僕はつい思っていた事を述べる。
「何でそんなに必死なのさ?起きている時だって一緒にいるのに。」
「何を言っているんですか兄上。あたし達と一緒がイヤなんですか?」
嫌じゃないけど、僕も男の子なんだから色々あるんだよ。とは恥ずかしくて言えなかった。
『サオリちゃんが美人さんだからですよ、きっと。』
それは間違いない。サオリは顔にあどけなさは残るけれど、以前より多少髪を伸ばし、セミショートぐらいの長さになった。吊り目なために、かわいいと言うより凛々しく美人だと思う。身長も高めで、180センチある僕の肩よりは頭が上に来ているので170センチ程だろうか。
体型も控えめなイオリより、大分自己主張が強いため、お風呂上がりは本当に目のやり場に困る。よくバスタオル1枚で歩き回り、イオリに怒られているから。
「兄上、顔赤いですよ?大丈夫ですか?」
そう言って僕に顔を近づけて覗きこむサオリ。青空教室以来、かなりサオリを意識してしまっている。こんな麗しい女の子にキスをされたら仕方がないだろう。
「大丈夫だよ。今日は暖かいからかな。」
我ながら言い訳が苦しいと思うが、どうしても照れてしまう。
「ならいいですけど。そうだ、兄上。あたしお花見したいです。」
『お花見ですか。いいですね。』
「いいね。もうそろそろ、お花見出来そうなくらい桜の花も開いて来ているし。」
家の近くに桜が植えられていて、家からでも色付いているのかわかるようになってきていた。
『去年もしましたし、今年もお弁当作って是非皆で行きましょう。』
「はい、ボクもさんせいです。」
「マホもー!」
「もう少ししたら満開だろうから、そうしたら皆で行こうか。今日ちょっと様子見てくるよ。」
折角なら、満開の桜が見たいからね。
「なら、あたしも行きます。」
『じゃあ、私とマホちゃん達は畑に水を撒きましょうか。マホちゃん、シホちゃんお手伝いしてくれるかな?』
「はい、イオリねぇさま。」「はーい!」
様子を見に行くのは僕1人でもいいのだけど、サオリが花見をしたがったって事は桜が見たかったのだろう。
「わかったよ。まぁ確認してくるだけだから、すぐ戻ってくるけど。そうしたら、皆で水撒きしようか、」
「はい、兄上。」
朝食の後、僕とサオリは様子を見に行く。
とは言っても、歩いて10分もかからない距離ではあるのだが。
「じゃあ行ってくるね。」
イオリ達に畑は任せ、サオリと歩く。
心地よい日差しがあり、いい散歩日和だな。
他愛もない会話をしながら二人で歩いていると、ふと会話が途切れてしまう。
一度途切れると中々言葉が出てこなくなるけれど、嫌な沈黙ではないからゆっくりとそのまま進んだ。
ふいに、僕の左手が握られる。
隣を見ると、サオリが頬を染めやや俯いている。
桜に辿り着くまでの間、ずっと手を繋ぎ無言で歩いていった。
桜を見たら、俺を思い出してくれないか。




