8 がっこう ⑥
イオリとのやり取りの後、僕は草の上に横になり、先程の会話を思い返していた。
自分の思い違いで、彼女にあそこまで言わせてしまったのだから、僕がちゃんとしなければならない。
正直、彼女達全員が僕の伴侶となる事は受け入れられないけれど、でも、だからって今のままな訳にはいかないのだろう。
僕はどうすべきなのか考えるが、答えは出ない。
横になりながら、目を瞑り、今までの思い出を思い返しているうちに、僕は眠ってしまった。
『ご主人様、寝てますか?』
どのくらい寝ていたのだろうか。肩を揺さぶられている事に気付いて目を覚ます。
「あれ、ごめん。考え事をしていたら寝ていたみたい。」
言いながら身体を起こし空を見るも、まだ日は傾いておらず、余り長くは寝ていなかったようだ。
起こしてくれたイオリにお礼を言うため、彼女に振り向く。
『どう、ですか?似合い、ますか?』
イオリを見た僕は、言葉が出なかった。
黄色と白の花で作った草の冠は、彼女のピンクがかった赤い髪に良く映え、今日着ていた白いワンピースも相まって、本当に花嫁のように見えたんだ。
『ノアに聞いたら知っていたらしく、教えてもらいながら作りました。サオリちゃん達もご主人様もお昼寝しちゃってたので、今のうちに貴方にだけ見て欲しくて。』
イオリは顔を染めながら僕の隣に座り、片手で冠を押さえながら僕を見つめていた。
『変、ですか?』
違うよ。本当に花嫁みたいで、綺麗なんだ。
僕は見惚れている間に口走っていたようで、イオリは益々顔を赤くして、僕を見つめてから目を瞑る。
これは、もう、抑えられそうにない。
僕は初めて、自分からイオリにキスをした。前みたいに誤魔化すんじゃなく、唇に。
まるで、本当に結婚式をしているかのような気分だった。
今ならはっきり言える。僕はイオリの事が好きなんだ。
唇を離し、僕を潤んだ瞳で見つめながら、イオリは改めて思いを告げた。
『私は、貴方の事を愛しています。これは私だけの気持ちです。作られてなんかいません。』
「僕もイオリが好きだ。ずっと一緒にいたい。」
そう言って、彼女を抱きしめる。
『痛いですよ、ご主人様。でも、今は離さないでください。私も一緒に居たいです。』
力が入りすぎていたのだろう、イオリは痛いと訴えたけれど離す気は起きなかった。
「そう言えば、元々恋人だったはずだよね。最近色々あり過ぎて忘れてた。」
『酷いですよ!私は忘れてなんてなかったのに!』
照れ隠しのつもりが、本気で怒りそうだったので慌てて訂正をする。
「冗談だよ!改めて言うと恥ずかしかっただけなんだ。ごめん。」
『わかっていますよ?少し、からかいたくて。』
僕の慌てた様子を見て、クスクスと笑いだすイオリ。
これは、彼女には勝てそうにないなと悟った。
『あんまりこうしていると、皆が起きちゃうと大変ですから、そろそろ皆を起こして帰りませんか?』
「うん。そうしようか。」
また、イオリとサオリの喧嘩にでもなると困るから、名残り惜しいけれど仕方がない。
『ご主人様があんな事言うから、我慢出来なくて独占しちゃいました。ごめんね、サオリちゃん。約束、破っちゃった。』
僕はその呟きに何も言えず、イオリを離してから立ち上がると彼女を立たせて、サオリ達を起こす為3人の元へ向かった。
マホとシホとサオリは、昼食を摂った場所で川の字を書いて寝ていたので、サオリをそっと揺さぶって起こす。
「兄上、姉上、おはようございます。」
「おはよう。そろそろ帰るから、マホとシホも起こそうか。」
「はい、兄上。」
僕達が起こすとマホとシホもすぐに起きたので、荷物を回収して家路へと着いた。
「だんなさま!楽しかったね!」
「だんなさま、ボクまたおうまさんに会いたいです。」
マホとシホは僕の手を引きながら、まだ興奮しているようではしゃいでいた。
「うん、また皆で来ようね。」
「わーい!」「はい!」
こんなに喜んでくれると、僕も嬉しくなるな。
シホも大分恐怖感が薄れたみたいだし、何度か行けばきっと大丈夫だろう。
「イオリとサオリも、また一緒に来ようね?」
そう言いながら振り向くと、イオリと冠を付けたサオリも同意してくれて、皆で帰宅して夕食を摂り、1日を終えた。




