8 がっこう ④
2キロ程の距離ではあるのだが、マホやシホの事も考え休憩を取りながら、1時間ぐらい先の目的地を目指す。
地図はあるが僕達の家にも食料として運んでいるためか、以前よりしっかりとした道が出来ているので迷う事はない。
道中は野原で、蒲公英や土筆といった春に咲く草花が自生している。それは都会で育った僕にも、美しいと思える光景だった
マホやシホは余程嬉しかったのか、僕とイオリの前をはしゃぎながら、サオリと一緒に歩いている。
『花の冠を、作ってみたいですね。』
イオリがポツリと言うが、僕は作り方を知らないから教える事は出来ない。
「イオリが付けたらきっとお嫁さんみたいで、綺麗だろうな。」
なんとなくその姿を想像して思わず呟いたら、イオリが短く『えっ』と零し、僕はその声に横を向くと、彼女は顔を赤く染め、目を見開いて僕の顔を見つめていた。
その様子を見て、自分が何を言ったのかに気付き、僕も顔が熱くなり、恥ずかしくてイオリを見れなくなる。
僕とイオリはその後会話もないままに、少し多目に時間をかけはしたけれど目的の施設に到着した。
「ついたー!ひつじさん!」
「ここですか。ボクは早くおうまさんみたいです。」
「シホちゃん、マホちゃん先に行かないの。兄上、姉上も早く来てください!」
シホとマホは、まだまだ元気いっぱいといった感じで先に走って行こうとしている。その二人を、サオリが手を引いて止めていた。
僕の少し先に居るのだが、サオリは二人を制止するので大変そうだ。
「サオリごめんね、お待たせ。」
「兄上、姉上、あたしも早く見たいので行きましょう。あれ?姉上、どうしたんですかボーッとして。顔も真っ赤ですよ?」
「さ、さぁ?どうしたんだろうね。」
僕とイオリも3人に追い付くと、サオリがイオリの様子を見て訝しむ。原因は間違いなく先程の一言なのだが、黙っておこう。
「イオリねぇさま?だいじょうぶですか?」
「イオリおねぇさま、どうしたの?」
『あっ。うん。ごめんね。体調が悪いとかじゃないから大丈夫ですよ。』
シホやマホにも声をかけられて、漸くイオリは我に返ったようで少し安心した。
施設は牧場のように柵で囲って放牧をしている場所と、近代的な建物で養鶏や養豚を行っている場所に別れている。
餌を供給するための畑も機械を使って管理しているため、かなり広大な施設になっていた。
「はぐれちゃうと探すのが大変だから、皆で行こうか。それと、動物に無闇に触ろうとすると危ないから、あまり触れないようにね。」
特に馬は脅かすと危ないから、気をつけないと。
「ノア、道案内をお願い。まずはそうだな、羊にしようか。」
ノアに案内をしてもらいながら、鶏や豚、牛、羊、ヤギ等を見ていく。
ひとえに鶏や牛と言っても種類は存在するので、中々に時間はかかるのだけれども。
「ひつじさん、思ったよりもふもふしてなかったですね姉上。」
『そうかな?私が前見た時は、毛を刈られた後だったから、もっと細くてショックだったなー。』
「ひつじさんかわいかった!ねー、しーちゃん?」
「にわとりさん、せまい所にたくさんいてかわいそう。においもくさかったです。」
それぞれ思い思いの感想を述べながら、芝のある場所で休憩をする。お昼ぐらいの時間になっているけれど、馬の管理をしている場所が近いため、馬を見てからお昼を摂る事にしたためだ。
ただ、シホだけは動物の匂いや、管理をされている姿にショックを受けてしまったらしく、表情が浮かない。
「匂いは動物も生きているのだから、仕方ないんだよ。羊とか人の手が無ければ生きて行けない動物だっている。でもそういった動物が居なければ、僕達はお肉を食べたり、服を作ったりも出来ないんだ。これが正しいなんて思わないけれど、シホが感じた事も間違いではないよ。」
僕の言いたい事はまだ解らないかもしれないけれど、色んな考え方があるべきなのだから、シホの感じた事だって大切にしてあげなきゃ。
僕の言葉の意味を考えているシホの頭を優しく撫で、もう少し休んだら馬を見に行こうと伝えた。
「だんなさま、ボク動物がちょっとこわいです。」
休憩を終え馬を見に行こうとしていると、僕の手を握りながらシホが呟く。イオリ達は、僕とシホの少し前を歩いていたので聞こえてはいないだろう。
シホが怯えるのは無理もない。見て初めて家畜の現実を知ったのだから。
どうしたものかと思案していると、馬の飼育場所についてしまう。これ以上怯えさせるのは不味いと思っていたら、ポニーが目に入った。
「シホ。怖いだろうけれど、優しい動物だっているから大丈夫だよ。」
そう言うと、ポニーのいる場所へシホの手を引いて向かう。
近づいて見るが、僕とシホに驚かないようだ。
これなら多少は大丈夫だろうか?
僕達の姿を見たポニーも柵越しに近寄ってくる。興味を持ってくれたらしい。
「だんなさま、こわいです。」
「大丈夫だよ。僕もいるから。」
近寄ってきたポニーを僕が先に撫でる。少しでも怖くないと示してあげなければ。
僕が撫でた後、シホを抱き抱えてポニーに手が届くようにする。
「だんなさま!?」
「優しく撫でてごらん。叩いたりしなければ大丈夫だから。」
先程よりも怯えてしまったシホを落ち着かせるように優しく語りかける。
シホを片腕で抱き抱えるのは中々辛いが、空いた手でポニーを撫で、怖くないと教える。
そうしていると、シホも落ち着いたのだろう。そろりと手を伸ばし、恐る恐るではあるが、ポニーの顔を撫で始めた。
「あったかい。」
「うん。暖かいね。どう?怖くないでしょ?」
「はい。かわいいです。」
少しの間僕とシホで撫でていると、別の種類のポニーを見ていたイオリ達3人もやってきて、シホと同じように撫でる。
どうやらこのポニーは、この場所の中でも特別温厚な子だったみたいだ。たまたまだったけれど、シホの恐怖心を和らげてくれてありがとう。
その後、大きな馬も見て回ったが、近づいてくれる個体はおらず残念に思うが、馬は繊細な生き物だというから仕方がない。
そうして一通り見て回った僕達は、施設から少し離れた場所にある小高い丘で遅めの昼食を摂る事にした。




