8 がっこう ③
翌日、朝食を摂りながら僕はみんなに今日やろうと思っている事を伝えた。
『遠足ですか。ご主人様、畑の作業は今日しないのですか?』
「うん。ここ数日で畝は作ったから、1週間位肥料が土に馴染むまでする事はないし、目的地があるわけじゃないんだけれど、皆で出かけてみたいと思ってね。」
イオリとサオリも手伝ってくれるおかげで、以前より早く作業が進むために毎日農作業をする必要は無くなってきた。
正直、イオリやサオリの方が僕より体力があるため、彼女達の力による所が大きいのだが。
「いいですね兄上。お弁当持って行きましょう!」
「マホもー!おべんとー!」
「ボクもいきたいです!」
サオリやマホ、シホも賛成のようだ。
『そうですね。マホちゃんやシホちゃんもお家でアニメを見ているだけじゃ、退屈でしょうし。私も以前に連れて行って頂いた施設で、ひつじさんとか、ウシさんをまた見てみたいですから。』
あの施設か。なるほど、それはいい考えかもしれない。
近くに少し高い丘があったと思うから、そこでお昼にするのもいいだろう。
「ひつじさん!マホも見たい!」
『お馬さんも居ましたよね、確か。』
「おうまさんですか。ボクも見てみたいです。」
提案してよかった。凄く喜んでいるみたいだ。
「姉上は、連れて行ってもらった事があるんですね。あたしも知ってたら、行ってみたかったです。」
サオリは寂しそうな顔をして、元気なく呟く。
僕は、彼女を海や温泉にしか連れて行っていない。沢山の我慢をさせてしまっていたんだと気付いて、僕は胸が痛んだ。
『私もまだ、執事が上手く言えなくて、ひつじさんと間違えて、そこから見たいとご主人様にお願いしたので、たまたまなんですよ。サオリちゃんに黙っているつもりはなかったの。ごめんなさい。』
イオリはサオリの表情を見て、僕と同様に少し苦しくなったのだろう。サオリの頭を撫で、慰める。
「サオリを連れて行かなかったのは、僕が悪いんだ。本当にごめん。」
「いえ、兄上や姉上が頑張って食べる物を作ったり、あたしと遊んでくれたりしていたのは判っているので、二人が黙っていたなんて思っていません。ただ、寂しかっただけなんです。」
『じゃあ、これからはもっと一緒に遊んだり、出かけたりしましょう?勿論、マホちゃんやシホちゃん、ご主人様も一緒に。』
「はい!姉上!」
「はい、イオリねぇさま。」「わーい!」
最近イオリに助けられてばかりだな。マホとシホが来てから、よりお姉さんらしさが増した気がする。
彼女にばかり負担が行かないように、僕が頑張らないといけない。
遠足に行くと決まり、目的地も決めたので、皆で朝食を摂り終えた後、お弁当をイオリ達と作る事にした。
朝食の片付けをする際に、イオリにだけ聞こえるように感謝を伝え、彼女達全員に何が食べたいのかを確認して、みんなでお弁当を作り終える。
「だんなさま、ノアちゃんは連れて行けないの?」
出かける準備を終えて、出発しようとしていると、マホがノアも連れて行きたいと言い出した。人形のノアも同行させたいようだが、恐らく稼働時間の問題で難しいだろう。
「うーん、今日はお留守番かな。あんまり動けないから、連れて行けないんだ。ごめんね。」
「ノアちゃん、そうなの?」
〈はい。その機体では施設に着くまでは大丈夫ですが、帰る事までは出来ないのです。マホ、申し訳ありません。しかし、何処でも会話出来ますから留守番ではありませんね。〉
言われてみれば確かに、常に一緒にいるようなものか。マホもノアの答えに納得したみたい。この子はまだ小さいのに、自分の事だけでなく他人にも気を回せる優しい子だな。
「確か、東に2キロくらいだったかな?マホやシホも居るからゆっくり行こう。」
〈腕の端末に地図を表示しますので、そちらを参照してください。マホやシホも体力には問題はないはずですが、万が一もありますので、貴方の言う通り休憩をしながらがいいでしょう。〉
『私も二人の様子を見ていますから、行きましょうか。』
勿論、イオリにだけ任せるつもりは無いけれど、彼女の頼もしさは心強い。
「わーい!楽しみだね、しーちゃん!」
「そうだね!まーちゃん!」
「シホちゃん、マホちゃん、あまりはしゃぎすぎないようにね。」
初めてのお出かけを前に、はしゃいでしまっているシホとマホにサオリも仕方がないなと言わんばかりに二人を嗜めている。
少し前までは彼女がそうであったのに、シホとマホが来てまだ1週間位でまた随分と成長したように思えた。
そんな光景が可笑しくもあり微笑ましくて、僕はつい笑ってしまう。
「兄上!なんで笑うんですか!」
『サオリちゃんが、お姉さんみたいな事を言うからですよ。温泉の時にはしゃぎすぎて、ご主人様に抱っこされたじゃないですか。』
イオリも、温泉の時の事を思い出して可笑しくなったようで、クスクスと笑っている。
「姉上まで!もう!」
サオリは恥ずかしくなったのであろう。顔真っ赤にして先に歩き出してしまう。
「サオリおねえさま、待ってー!」
それに続いて、マホとシホも歩き出し、僕とイオリも追いかける。
この光景がずっと続いていくといいな。




