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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
はじまり

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7 かぞく ③

 優しく柔らかな甘い香りに包まれながら、イオリの音を聞いていた。

 ドクンドクンと響く彼女の音は、言葉がわからなくなるくらい感情に飲み込まれてしまっていた僕の耳にも届き、段々と落ち着いてくる。


 どのくらいそうしていたのかは判らない。イオリも恥ずかしかっただろうと思う。


「ありがとう。イオリ。」

 漸く、一言お礼を言えた僕にホッとしたのか、イオリが僕の頭を抱える腕の力を緩める。


『落ち着きましたか?』

「うん。少し、落ち着いた。心臓の音ってこんなにも落ち着くものなんだね。」


 微かにある古い記憶で、誰かの心臓の音を、聞いていたような気がする。

 大きくて、暖かい、そんな記憶が呼び起こされる。


「兄上、何かあったのですか?」

『サオリちゃん、もうちょっと待ってあげて?』


「いや、大丈夫だよ。2人を驚かせてしまってごめん。」

 そう言って僕はイオリから離れようとするが、離してはくれなかった。

『まだ、ダメです。』


 片腕で頭を抱きしめ、空いている手で、僕の頬に手を当て、涙を拭うイオリ。

 僕はまだ泣いていたらしい。


「そうみたいですね。姉上、もう少しそのままでいましょうか。」

『うん。』


「硬いかもしれませんが、兄上、もう少しそのままいてください。なんなら代わりますよ。」

『サオリ。貴方、最近一言多いわよ?』

「気のせいです姉上。」


 僕の頭を抱える腕に力がこもり、少し痛かった。




 漸く僕が泣き止み、イオリは腕を離す。

 もう少し、幸せな感触を感じて居たかったが、ずっとこのままは僕も恥ずかしいから離れよう。


 改めて2人と向き合って座り直し、泣いてしまった気恥ずかしさはあるものの、心配をしてくれているイオリ達に、話をしないわけにはいかない。また、泣き出さないとも限らないけれど。


「ありがとう二人共、心配かけちゃったね。」

『大丈夫ですか?』

「うん。もう大丈夫。」

「兄上、辛いなら休みますか?」


「今は、一人になる方が、辛いかもしれない。」

 二人は何を言っていいのか、困ったような顔をしていた。


「ごめん、聞いて欲しいんだ。困らせてしまうかも、しれないけれど。」


 それから僕は話し始めた。

 朝の会話の際に両親や祖父を思い出して、唐突にもう二度と会えないって気付いて泣いてしまった事。


 何故自分が両親と一緒に最後まで居なかったんだという後悔の気持ち、今ここに居る二人がそれを知ってしまったら悲しむだろうと判っていても、どうしても考えてしまう事。


 イオリ達と今一緒に居られる事が僕にとって大事な時間である事、それら全てがぐちゃぐちゃに頭を駆け巡って、また泣いてしまったのだと話した。


「今ここにいる二人が、大事なのは間違いないし、イオリ達に会えていなかったらって事は考えたくもないけれど、その事も少し考えてしまったのも事実で。あぁ、僕は何を言ってるんだ。」


 二人は黙って聞いていてくれた。でも、サオリは泣き出してしまって、イオリも涙が溢れそうになっている。


「兄上、なんて言えばいいのかわからなくて、ごめんなさい。」

 そう言ってサオリは僕に抱きついて、泣きじゃくる。


「サオリが謝る事じゃない、二人を悲しませるような事を言った僕が、謝らなきゃいけない事なんだよ。」


『いえ、ご主人様の辛い気持ちを、その全部を受け止められない事が悔しくて、サオリちゃんは泣いてるんです。そしてそれを上手く言葉に出来なくて、謝ったんです。私も同じですから。でも、言わせてください。』


 涙が溢れそうな瞳で僕を真っ直ぐに見つめながら、イオリは思いを語り出す。。


『貴方のご両親はきっと、星が滅びると判っていたらきっと、今ここに生きていてくれる事を喜んだと思います。』

「そうなのかな。」

 僕にはわからない。


『ご主人様が両親を大事に思うのは、間違ってるはずがないです。家族なんですから。』


『でも、きっと貴方のご両親は、一緒に死ぬ事なんて願ってなかったと思うんです。それだけ、貴方が思っている方々なのですから、同じかそれ以上に、貴方を大事にしていた筈です。』

 僕の視界が再び歪む。僕はきっと、この二人に肯定されたかったんだ。


『だから、最後まで一緒に居なかったと悔やまないでください。そんな悲しい事言わないで下さい。辛い気持ちがあるなら、これからは私達にも分けてください。貴方が苦しむ事が、私達には一番辛いんです。』

 イオリは堪えきれず泣き出してしまう。やはり泣かせてしまった。


「二人を悲しませる事を言ってごめん。」

「あたし達こそごめんなさい!」

『私達に話してくれて、ありがとうございます。』


 今までは、僕がしっかりしなきゃって思っていた。

 二人はまだ幼いからと。


 でも、それは僕のエゴだったようだ。

 イオリ達は、こんなにも成長していたんだ。


 真っ直ぐに僕を思ってくれる二人。


 こんな僕の心に寄り添ってくれる二人を、僕は愛おしく思っていた。

 この二人の気持ちが、作られたものだとは、とても思えなかった。

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