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箱庭少女育成計画  作者: 眠る人
はじまり

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7 かぞく ②

「二人ともありがとう。僕がしっかりしなきゃって思い込んで、二人に相談する事を忘れていた。本当にごめんなさい。」

 これからもずっと二人と一緒にいるんだ、だから僕は二人ともっと話をしなければならないんだ。


「兄上・・・。」

『そうですよご主人様、私達は家族なんですから。』

「姉妹も増えますからね。」


 家族――――

 イオリの一言で、僕は今まで無意識に思い出さないようにしていた父や、母や、祖父の事を思い出してしまった。


 三年も経つのに、なんで今まで思い出さなかったんだろう。家族って「言葉」を2人に教えた事だってあるのに。


 優しくて、家族思いで、どれだけ忙しくても僕や母や祖父を気遣う事を忘れなかった父。

 少しぶっきらぼうな所はあるけど、父や僕に対して優しくもあり、厳しくもあった母。

 そんな父と母と僕を、何時も見守ってくれるように微笑んでいてくれた祖父。


 全く考えなかったわけじゃないんだ。僕は父に似ているらしいから、父ならどうしたかな?とか、母が居たら怒られてしまうだろうなとか、祖父なら笑って頭を撫でるだろうなとか。

 そんな風に頭をよぎる事はあったんだけれど、もう会えないって今の今まで理解していなかった。考えてすらいなかった。


 考えてしまった瞬間、僕の気持ちは堰を切ったように溢れ出して、目からこぼれ落ちてしまう。


「あ、兄上?」

『ご主人様?どうかしたんですか?』


 僕は声にならない声を上げ、溢れ出してきた思いを抑える事も出来ず、食卓に突っ伏して泣き喚く。

 食器が床に落ちてしまったんだけれど、そんな事すら気にならないぐらい、僕は錯乱していたんだと思う。


「兄上!兄上!しっかりしてください!」

『ご主人様!?何があったんですか!?』

 二人が慌てて駆け寄り、僕に話かけるも二人が何を言っているのかすら理解出来なかった。


 それから僕はいつの間にか気を失ってしまったらしい。


 僕は目を開ける。


 部屋は薄暗く、僕は寝かされているようだ。


 最後に覚えているのは朝食の最中だったから、かなりの時間眠っていたのだろう。


 身体が動かない。


 腕を動かす事も、身体を起こす事も出来ない。


 耳元からはすーすーと寝息が聞こえる。うん?寝息?


 顔を右に向けるとイオリの顔があり、左にはサオリの顔があった。

 どうやら二人で覆い被さるように、抱きしめられているらしい。

 左側の方がより幸せな感覚に包まれている。


 トイレにいきたい。やらしい意味ではなくて。


 二人を起こさないように、身体を捩って抜け出そうとするが、やはり動けない。

 しっかりと両側から拘束されてしまっていて、二人は寝ているというのに抜け出せる気配がしない。


 悪戯し放題じゃないかとか思うが、腕は二人の身体の下に潜り込んでいるため、それも出来ない。しないけどね。


 そうこうしていると、二人が僕が動いている事に気付いたのか、目を開ける。


「おはよう。」

「あにうぇ、おはよー。・・・兄上!?」

『ご主人様おはようございます。大丈夫ですか?』

「うん。あの、トイレ行きたいんだ。退いてもらっていいかい?」

 割と緊急事態なんだ。


 二人はこの体勢に気付いたのか、顔を赤くして、サッと拘束を解いてくれた。

 あぁ、少し惜しい事をした。・・・と、まずはトイレだ。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」

「兄上、ごゆっくり〜。」

 顔を赤くしたサオリがそんな事を言うが、今は気にしないでおく。


 用をたし、僕の部屋に戻ると部屋の明かりは付いていて、何故か二人は正座していた。


「あっ、兄上!早いんですね。」

『ご主人様。お早いんですね。』

「うん、キミら。何か凄まじく語弊がある言い方な気がするんだけど、漏れそうだっただけだからね?かなり寝てたみたいだし。」


「そんな事より、僕はなんで寝ていたんだろう?」

「え?兄上覚えていないんですか?」


『朝ごはんの時、突然ご主人様が泣き出してしまって・・・。二人で部屋に運んだのですが、暴れ出したので、危ないと思って、サオリちゃんと私で抑えこんだんです。』


「かなり驚きましたけど、そのうち兄上が寝てしまって、今なら兄上を抱きしめていられると思ったら、姉上も同じ事考えていたみたいで、離れる訳にはいかなくなって、そのままあたし達も寝ちゃいました。」

 ちょっと途中から引っかかるけど、どうやら二人にまたかなり迷惑をかけてしまったようだ。


『わ、私は違います!』

「えぇー?兄上には悪いけどとか、ボソッと言ってましたよね?」

『さ、サオリ!あなたいい加減にしなさいよ!』

「姉上こそ、またカッコつけんのやめなよ!」

「まぁまぁ、二人ともその辺で。」

『ご主人様は黙ってて!』「兄上は黙ってて!」


 怒鳴られてしまった。やはり、余計な事は言うものではない。

 言い争う二人をよそに、僕は朝の事を思い出す。

 あぁそうか、父や母や祖父の事を思い出して、それで泣き出してしまったんだった。


 気付いたら方舟にいた僕と違い、僕の両親や祖父は星と一緒に死んでしまったのだろう。

 最後まで一緒に居られなかった事が悔やまれるけれど、それを言ってしまったら、イオリとサオリと、これからやってくる二人はどう思ってしまうのか。


 彼女達にとっても僕は、家族であるんだ。彼女達を悲しませる事はしてはいけない。きっと、母や父ならそう言うだろう。


 それはわかっている。でも、僕の中にある両親への想いと、彼女達への想いが混ざり合って頭がぐちゃぐちゃになって、気付いたら、僕はまた泣いていた。


 いつの間にか、イオリ達は喧嘩するのをやめ、僕を覗きこんでいる。

「兄上?何処か痛みますか?」

『ご主人様、具合が悪いならもう少し横になりましょう?』


 感情が溢れていて、返事が出来なかった。


 唐突に、イオリは僕の頭を抱えると、自分の心臓の音を聞かせるように胸元に抱き寄せる。


「姉上!?」

『サオリ、ちょっと黙ってて。私、前にご主人様の心臓の音聞いた時に凄く落ち着けてたんです。』


『ご主人様に何があったのかはわかりません。でも、大事な貴方の泣く顔を見ていたくないから、今はこうさせてください。』


 ドクンドクンと少し早く、そして強く響く確かな鼓動を暫く聞いていた。

R15タグ保険で付ける事にしました。

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